G7と中国、対立の行方

G7と中国、対立の行方
藤原帰一氏/呉軍華氏/トム・トゥーゲンハット氏/ウォルフガング・ニーダーマルク氏
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD289GI0Y1A920C2000000/

『今月末にイタリアで20カ国・地域首脳会議(G20サミット)が開かれる。昨年の開催からの約1年で、日米欧などの主要7カ国(G7)と中国の安全保障や人権を巡る溝はさらに深まった。一方で両陣営はサプライチェーン(供給網)で深く結びつき、地球温暖化という共通課題も抱える。対立の行方を識者に聞いた。

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米欧再結束で溝深まる 東大教授 藤原帰一氏
ふじわら・きいち 専門は国際政治学、比較政治学。99年から現職。「不安定化する世界」(20年)など著書多数

バイデン米政権の外交政策の要は、同盟の再結束と中国への対抗にある。トランプ前政権時に分裂状態にあった米欧の軍事同盟、北大西洋条約機構(NATO)は、一致して中国は脅威であるとの認識を示すようになった。これは大きな転換だ。国際協調を重視するバイデン政権が、逆説的ながら米国を中心とする同盟と中国との対立を深める構図にある。

バイデン政権は軍事面で中国に譲る姿勢をみせていない。短期間に2回も開いた日本、米国、オーストラリア、インドによる「Quad(クアッド)」の首脳会議は、中国に対する同盟の強化という意味を持つ。中国側も軍事力を強化している。双方とも全く引かない構えだ。抑止力強化が軍事行動に直結するわけではないが、楽観はできない。

貿易など2国間の経済関係が緊密になるほど、戦争のリスクが低下するという国際関係論の見方がある。ただ、バイデン政権の通商政策はまだ明確にみえていない。関税で中国に圧力をかけた前政権の手法を踏襲するとは思わないが、中国を含めた貿易体制をどのようにつくろうとしているのだろうか。近く再開する米中通商協議や年内のオンライン首脳協議の注目点だ。

気候変動対策は歩み寄れるテーマだが、そこでの協調が米中対立を和らげることは期待し得ない。そもそも気候変動問題については他の課題と結びつけて協議しないことで各国は合意している。

中東や南アジアでの存在感を中国は拡大し続けている。こうした動きを食い止めるのに有効な体制はまだ存在しない。人権重視や民主主義といった米欧の価値観よりも、中国やロシアの立場を支持する国が増えているのは事実だ。難航しているイラン核合意の再建交渉などが試金石となる。

米英豪の新たな安保枠組み「AUKUS(オーカス)」発足で、米国と大陸欧州の間に溝が生じた。米欧同盟における弱さを示したのは事実だろう。もっとも、欧州にとって同盟国と協力しようとする米国は望ましいし、中国・ロシアへの対抗上必要である点に変わりはないだろう。

(聞き手は竹内弘文)

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中国、簡単に変わらない 日本総合研究所上席理事 呉軍華氏

Wu Junhua 専門は米中関係。日米中に長期滞在し、政治経済にまたがる論考を発表。著書に「中国 静かなる革命」など

中国は今年に入って米国や日本との貿易が拡大しているが、経済合理性からみて当然だ。アジアは部品から組み立てまで分業体制が確立している。新型コロナウイルスが一段落し、世界需要が復活すれば中国を核とする国境を越えたサプライチェーンは盛り上がる。

中国も一時は国内で経済が回る仕組みを志向したが、コロナが落ち着くと輸出で成長する形に戻ってきた。国内消費を拡大するには労働分配率を高めるなど、構造改革を実行しなければならない。手っ取り早く経済を成長軌道に戻すにはやはり輸出になる。

もっとも、貿易・投資を短期の経済合理性だけで考えてよいのだろうか。これまでのグローバリゼーションは生産コストにばかり目を向けて展開してきた。だが、今では経済安全保障も取り沙汰されるようになった。政治制度の違いなどを度外視するビジネスがどこまで持続可能なのか。

例えば、専制的な国ほど低コストの労働者を安定して供給でき、進出企業に有利だった。進出先の環境コストにも無頓着でいられた。これに対し「専制的な国家でもグローバルな貿易・投資の仕組みに招き入れれば先進国のシステムに近づく」という反論があった。

2001年の中国の世界貿易機関(WTO)加盟時にも国有企業改革などへの期待が高まったが、予想は外れた。かえって中国のように政府が企業を支援する「大きな政府」が世界の流れになっている。中国の経済力拡大に伴って、世界の「中国化」が進んでいる。

経済が成長しても歴史的に積み上げられてきた中国の仕組みは簡単には変えられないだろう。中国は環太平洋経済連携協定(TPP)に加盟申請をしており、日本などはまたも大きな決断を迫られている。今度こそ現実に目を向けつつ戦略的な思考で臨んでほしい。

新たなパワーとなった中国に対処する国際的な枠組みとして、G7は時代と合わなくなってきている。G7の源流は旧ソ連に対処する目的で始まったものだ。日米豪印によるクアッドの枠組みが機能するのかはまだわからないが、試みとしては評価したい。

(聞き手は村山宏)

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対中依存の脱却は有益 英下院外交委員長 トム・トゥーゲンハット氏

Tom Tugendhat 英軍を経て、15年英議会下院初当選。下院外交委員長や、保守党内の対中政策グループのトップを務める

キャメロン英政権時代に称された英中の「黄金時代」が終わったことは疑う余地がない。重要なパートナーであると同時に戦略的な挑戦も伴う中国とは、現実的でより正直な関係を築く必要があるだろう。

英国をはじめ主要国の対応の変化は、中国に責任があると考えるべきだ。ここ3~4年、中国が様々な形で行ってきた高圧的な外交政策がなければ、オーストラリアは原子力潜水艦の開発支援を米英に頼むことはなかった。私が2016年に豪州で同国の政治家と話したとき、同政府は国民が容認しないと考え原潜は導入しない方針だった。

西側諸国は半導体や鉱物資源などの重要物資、マスクなどの必需品の調達で中国依存からの脱却を進めている。これが各国の経済や技術革新に悪影響を与えるとの懸念もあるが、私はむしろ有益だと思っている。

人件費などのコスト面で中国の優位性は薄れている。日本や韓国から始まったアジア経済の奇跡は中国で終わるわけではなく、マレーシアやベトナムなど他の国々にも広がる。調達先の多様化は可能だ。しかも脱炭素の流れをみれば、企業にとってエネルギー効率の良くない中国から生産拠点を温暖化ガスの低排出国へ移転することが、望ましい選択にもなり得る。

英国の場合、調達の多様化が難しい物資は全貿易のわずか3%ほどだろう。貿易相手の多様化や脱炭素への対応などの工夫を講じることで、西側諸国を支えてきた自由とルールに基づいた秩序を守ることの方が重要だ。中国への経済依存により、対中政策面での不自由を抱えるリスクを弱めることにもつながる。

新たな局面の対中政策は中国に戦争をしかけるということではない。(日露戦争で)1905年に日本海軍が英国製の軍艦により成功をおさめたように、日英は100年以上前を起源とする深い同盟関係にある。ともに島国で戦略的立場も似ている。国際的なルールに基づく世界のシステムを守り、より良くするために、国連や世界貿易機関(WTO)など様々な分野での日英協力を期待したい。

(聞き手はロンドン=中島裕介)

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企業、強権も分断も反対 独産業連盟理事 ウォルフガング・ニーダーマルク氏

Wolfgang Niedermark 対アジア貿易に長年かかわり香港駐在経験も。独経済界を代表するアジア通(写真はドイツ産業連盟提供)

強権国家には毅然とした態度で臨むべきだ。

米中のどちらかを選ばなければならないようなことは避けたい。デカップリング(分断)や新しいブロックの形成は好ましくない。難しい相手ともグローバルな問題の解決に向けて協力するというのが我々の経済的、政治的なスタンスだ。

とはいえ企業は社会的・道義的責任を負う。消費者や金融市場の厳しい視線、政治からの圧力、社員の突き上げがあり、企業は世論と対話しなければならない。中国の新疆ウイグル自治区のように宗教的少数派を抑圧するのは行き過ぎだ。そのように一線を越えたら、声をあげねばならない。

中国は公約通りに市場を開放せず、デジタル化などの分野で独自基準を設けた。同じ土俵で競争しているとは言いがたい。

だが、中国はグローバル経済に深く組み込まれ、独米などの企業には大切な市場であり投資先だ。真の意味での分断は非現実的で望ましくない。

だからこそ(欧州議会が審議を棚上げした)欧州連合(EU)と中国の投資協定が実現すれば基本的には歓迎したい。何もかも犠牲にして批准すべきではないが、協定は公平な競争条件に向けた一歩だ。中国が市場開放に動くことを望む。

香港で「一国二制度」の原則がなくなり、中国流の権威主義が浸透したのは遺憾だが、それでも依然として重要な国際金融センターだ。独自の通貨や関税率など多くの特権を持つ魅力的なビジネス拠点であり続ける。香港から撤退するドイツ企業は多くない。

EUのインド太平洋戦略は世界の成長地域において、欧州の存在感を示すための基盤となる。

ドイツ経済は中国に依存しすぎと言われるが、私はそう思わない。ドイツ企業は中国事業を縮小せず、ほかの市場の開拓を進める。日韓印やインドネシア、アフリカが視野に入る。日本は地政学的、経済的にみて中心的なパートナーで、ハイテク市場としても興味深い。日独の産業構造は似ており、経済協力を深める余地は大いにある。

(聞き手は欧州総局編集委員 赤川省吾)

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〈アンカー〉経済の一体化、安定保証せず

中国の台頭がこれまでの国際関係の見方に修正を迫りつつある。藤原氏が言及したように、2国間の経済関係が緊密になるほど戦争のリスクが低下すると長く信じられてきた。中国についても世界各国との貿易が拡大し、世界経済と一体になれば世界との協調路線が深まると期待した。

ところが、中国は成長の果実を軍備拡張に回し、逆に周辺諸国・地域との緊張を高めている。このような中国の振る舞いに世界は対処法を見いだせずにいる。中国を含むサプライチェーンをすぐに分断できるわけではない。かといってこのままの形で中国を大きくすれば、世界はさらに不安定になるかもしれない。

この難題を解こうとしても、残念ながらG7の対中姿勢はまとまりにくい。呉氏が指摘したように、中国に対処するための適切な枠組みが求められているのかもしれない。

(編集委員 村山宏)』