付加価値生む人材乏しく 博士号取得、欧米の半分以下

付加価値生む人材乏しく 博士号取得、欧米の半分以下
データが問う衆院選の争点
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC118D70R11C21A0000000/

『人口減少の制約を超えて成長を続けるにはイノベーションにつながる発想が欠かせない。日本は高い付加価値を生み出せる人材の育成で世界に後れを取る。博士号の取得者は欧米の半分以下の水準にとどまる。未来への投資を怠れば停滞は避けられない。国の成長の礎となる教育・研究の針路を探り直す必要がある。

「日本の教育をどう改善するか、考えてほしい」。2021年のノーベル物理学賞を受賞する米プリンストン大学の真鍋淑郎上席研究員。授与決定後の5日の記者会見で表情を引き締める場面があった。日本の研究環境について問われ、好奇心に基づく研究が減っているとも指摘した。

自然科学の世界で日本の地盤沈下は顕著だ。研究者の間で引用される回数が上位1%の「トップ論文」のシェアはわずか2%(17~19年平均)。国別の順位は20年前の4位から9位に下がった。

産業界でもイノベーションを担える先端人材が乏しい。付加価値をもたらす働き手が増えなければ生産性や賃金を押し上げる力は高まらず、成長の道筋はかすむ。

経済産業省によると、IT(情報技術)でも特に付加価値の高い人工知能(AI)などを専門とする人材は30年に27万人以上不足する見通しだ。科学や数学など「STEM」と総称される分野の教育を受けた人がそもそも少ない問題もある。

米国は大学院で最先端のテクノロジーを学んだ若者の力をビジネスにいかす太い流れができている。米スタンフォード大学の報告書によると、19年に北米でAI研究の博士号を取得した人の66%は産業界に進んだ。割合は10年時点の44%から急上昇した。

世界ではデジタル時代の次の扉を開く「量子革命」の競争が激化している。原理的にスーパーコンピューターをはるかにしのぐ計算能力を持つ量子コンピューターや、安全性の極めて高い量子暗号通信などが主戦場だ。米国では関連の新興企業の上場や資金調達のニュースが相次ぐ。

横浜国立大学の堀切智之准教授は量子暗号通信のスタートアップ、LQUOM(ルクオム、横浜市)を20年に立ち上げ、テクニカルアドバイザーの立場に就いた。「人材を育てるところから始める必要がある」と危機感を隠さない。

国内では大学院の博士号の取得者が06年度をピークに減っている。直近の18年度は人口100万人当たり120人(人文・社会科学系を含む)と米英独の半分以下。優れた頭脳の育成を競う世界の潮流に逆行してきた。

若手研究者の多くは不安定な任期付きポストに就く。限られた期間で成果を求められ、大胆な研究に挑戦する気風は失われた。閉塞感が強まり、野心的な研究を志す若者が減る。悪循環がとまらない。

経済的な後押しも乏しい。内閣府が20年にまとめた調査結果によると、米国では博士課程の学生の9割が大学や国からの支援を受けていた。日本は4割弱にとどまる。年間の平均受給額も米国の270万円強に対し、日本は約78万円だった。

日本の教育に対する財政支出は国内総生産(GDP)比で3.0%にとどまる。経済協力開発機構(OECD)加盟国平均の4.4%を下回り、比較可能な38カ国で最も低い。初等・中等教育向け、高等教育向けのいずれも大きく見劣りする。

13年に安倍晋三政権で始まった教育再生実行会議は9月に廃止が決まった。入試改革が頓挫するなど、教育・研究の環境整備は迷走も目立つのが実情だ。

岸田文雄首相は8日の所信表明演説で「成長戦略の第一の柱は科学技術立国の実現」と訴えた。立憲民主党も政策集に「研究開発のあり方を質量ともに変革」と盛り込んだ。しかし具体論も含む政策論争には発展していない。国の基盤となる人材育成の骨太な戦略は見えないままだ。

(AI量子エディター 生川暁、マクロ経済エディター 松尾洋平)

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衆院選2021 https://www.nikkei.com/special/shuin2021?n_cid=DSREA_shuinsen202109』