TSMC新工場に政府補助 経済安保と公正さ、両立課題

TSMC新工場に政府補助 経済安保と公正さ、両立課題
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA147QS0U1A011C2000000/

『半導体大手の台湾積体電路製造(TSMC)が日本に工場を建設する。日本政府は投資額の最大半額ほどを補助金で支援する。経済安全保障上の重要性が増す半導体を国内で生産できる体制を確保する。補助金の出し方によっては、世界貿易機関(WTO)ルールとの整合性が問われる可能性もある。経済安保と公正な競争環境の両立が課題となる。

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14日夜に記者会見した岸田文雄首相はTSMCの工場建設に関して「我が国の半導体産業の不可欠性と自立性が向上し、経済安全保障に大きく寄与することが期待される」と述べた。総額1兆円規模の大型民間投資などへの支援を経済対策に織り込むと明言した。経産省は2019年から本格的に誘致交渉をしてきた。

衆院選後に編成する21年度補正予算案に補助金を計上する。生産能力と技術力があり、安全保障上の懸念のないメーカーを政府が認定する制度をつくる。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)に設ける基金から、認定したメーカーに補助金を出す案が有力だ。国内に優先出荷する義務を課し、事業撤退などで不履行の際は補助金を返してもらう。

こうした支援の枠組みを定める法律を整備する。TSMCの熊本工場が認定の第1号となる見通し。今後も国内外を問わず必要に応じてメーカーを認定し、工場建設を支援する方針だ。

世界的な半導体不足により、自動車や医療機器、家電製品などが減産を余儀なくされている。日本の製造業が調達を頼るTSMCの工場は台湾に集中している。中国が台湾に対し軍事的圧力を高めていることから調達の先行きを心配する声が出ていた。

日本政府は食料やエネルギーのように社会に不可欠になった半導体を市場原理に任せずに国が責任を持って確保することにした。

経済安保のためとはいえ、巨額の補助金は市場をゆがめるおそれがある。米国では議会が半導体産業に計520億ドル(約5兆9千億円)を支給する法案を審議している。上院は6月に可決したが、下院では可決しておらず、法案の成立時期はメドが立っていない。度が過ぎれば公正な貿易の支障にもなるため、WTOが補助金に関するルールを設けている。

WTO協定違反と即刻みなされる「レッド補助金」は輸出を支援する輸出補助金と、国産の部品や材料の使用を条件に配る国内産品補助金の2つだ。TSMCへの補助金はこれには当たらず、ケース・バイ・ケースで違法性を判定する「『イエロー補助金』に該当する」(通商法を専門とする弁護士)との見方が多い。

補助金を得て建てた工場から半導体を低価格で日本国内に供給した場合に、半導体メーカーを抱える韓国などが「日本への輸出が減って損害を受けた」と訴える可能性はある。TSMCが日本から安値で輸出する場合も同様に提訴されるリスクがゼロではない。

もっともイエロー補助金で違反と認定された事例は、現行ルール下では数例にとどまる。提訴する国の産業に生じた損害と補助金の因果関係の立証などは簡単ではない。米国や欧州連合(EU)は近年、中国政府による半導体産業への巨額補助金を問題視してきたが、提訴していない。

(広沢まゆみ、デジタル政策エディター 八十島綾平)

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白井さゆり
慶應義塾大学総合政策学部 教授
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別の視点

半導体の製造には沢山のプロセスがかかわってあり、ファンドリー事業が強い台湾が重要な役割を果たしているが世界でサプライチェーンが構築されている。

台湾でもこうした事業に補助金を供与している。

中国は China 2025 計画で半導体を2025年までに自給率を高めるための様々な財政・金融支援を行っている。

日本もファンドリー事業を取り込むために補助金を供与するのは必要であろう。

ただしこうした誘致戦略で米国とどのように連携していくのだろうか。豪州は半導体の製造に必要な原料を生産しており、インドはIT人材が豊富なのでこうした交流が日本とも一段と高まっていけば、今回の投資のリターンや効率性も高まるであろう。

2021年10月15日 7:48 』