日鉄vs宝山・トヨタ、異例の提訴に「中韓スパイ」の影

日鉄vs宝山・トヨタ、異例の提訴に「中韓スパイ」の影
編集委員 渋谷高弘
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGH14EEA0U1A011C2000000/

 ※ こうやって、「虎の子技術」がダダ洩れしていけば、企業の業績は傾き、従業員の給料は低下する…。

 ※ 「知財窃盗」は、他人事じゃ無いんだ…。

 ※ ちなみに、下記で語られている「ポスコvs.宝山製鉄」の訴訟は、当時、ネットで散々情報流通してた…。

 ※ オレも、随分見たよ…。

『日本製鉄は14日、電動車のモーターに使う電磁鋼板に関する特許権を侵害したとして、トヨタ自動車と中国の鉄鋼メーカー、宝山鋼鉄を東京地裁に提訴した。日本の大手企業、それも材料メーカーが顧客企業を訴える特許係争は極めて異例だ。何が日鉄を駆り立てたのか。期待の脱炭素技術「電磁鋼板」でのつばぜり合いには、中国や韓国の産業スパイが暗躍した過去が浮かび上がる。

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同日午後、日鉄がトヨタを特許侵害で訴えたとの発表が流れた後、産業界に驚きの声が広がった。知的財産の世界では、2011年から18年まで続いた米アップルと韓国サムスン電子のスマートフォンを巡る世界規模の特許訴訟のように、先行する欧米企業が日本を含めたアジア企業をたたいたり、欧米企業同士が殴り合ったりすることが多かった。
日本企業同士の特許訴訟、経済安保が招く

日本企業、それも産業界を代表する大手メーカー同士が特許侵害で争うのは極めて珍しい。そもそも日本は1970年代から2000年代半ばにかけて、世界最多の特許出願大国だった。2020年の日本の特許出願件数は30万件弱で、中国の約140万件、米国の約65万件に次ぐ第3位だ。

一方、日本国内の特許訴訟は年間170件程度(2017年)で、米国の20分の1以下、中国の約100分の1という低水準にとどまる。特許大国の日本で、なぜこれほど特許訴訟が少ないのか。もちろん日本企業に特許侵害がないということではなく、警告したり水面下で交渉したりして解決するのが一般的だからだ。

相手が顧客企業であれば紛争を避けて取引を続けることが優先されるし、競合企業との間にも知財の利用を相互に認める「クロスライセンス契約」がある。紛争になってしまうと互いに製品が作れなくなる恐れがあったからだ。

今回、日鉄はそんな「常識」を飛び越え、競合会社の宝山鋼鉄どころか最大顧客のひとつであるトヨタと事を構えた。要因のひとつは、電磁鋼板が電動車のモーターに使われる脱炭素時代のキーテクノロジーのひとつだからだ。今後、世界中で膨大な需要が広がる上、半導体などと並ぶ経済安全保障技術とも見込まれる。電磁鋼板は特殊な製造工程を経るため、つくるのが難しく、品質の安定を維持するには独自の技術やノウハウが要る。日鉄からみれば、簡単につくれるはずのない製品だ。

電磁鋼板はハイブリッド車や電気自動車に不可欠な部品になっている(写真はトヨタの4代目「プリウス」、2015年)

電磁鋼板は、韓国や中国の鉄鋼会社にコスト競争を仕掛けられている日鉄にとって、高付加価値製品のひとつだ。宝山が特許侵害の疑いのある製品を作り続け、トヨタへの供給が決まったことは看過できない。製造元の宝山のみならず、顧客のトヨタを巻き込んだのは、他の自動車メーカーに対するけん制もあるのだろう。

電磁鋼板技術巡る日中韓の暗闘

日鉄の異例の決意の背景には、電磁鋼板を巡る過去の技術流出に対する苦々しい思いも見え隠れする。1980年代以降、日鉄の電磁鋼板技術が韓国や中国の産業スパイによって不正に持ち出されたとされる事件だ。

2012年4月、新日鉄(現・日鉄)は「電磁鋼板に関する当社の営業秘密情報を盗まれた」として、同社の元技術者と韓国の鉄鋼大手ポスコを不正競争防止法違反で東京地裁に訴えた。

日本の大企業が、国内外を問わず同業他社を「営業秘密を盗まれた」と訴えたのは極めて異例だ。というのは、技術者や退職者を通じた海外への技術流出はかねて指摘されていたが、証拠をつかむことが難しく、裁判になることはまれだった。新日鉄住金がポスコを提訴できたのは、韓国での、ある「産業スパイ事件」が発端だった。

その産業スパイ事件とは、ポスコの元従業員が同社の電磁鋼板の秘密情報を、今回の被告企業である中国の宝山鋼鉄に不正に売り渡したとされる問題だった。この元ポスコ従業員は2008年に韓国の高裁で有罪判決を受けたが、衝撃的だったのはその裁判の中で行った証言だった。

秘密情報「ポスコが新日鉄から盗み出した」

「私は無罪だ。ポスコが私に盗まれたと主張している秘密情報は、もともとポスコが日本の新日鉄(現・日鉄)から盗み出した秘密情報だ。私はポスコが新日鉄から盗んだ秘密を、中国の宝山鋼鉄に渡しただけなのだ」。このように元ポスコ従業員は主張した。

この証言が契機となり、当時の新日鉄住金は日本で同社の元技術者がポスコ側に秘密情報を渡していた証拠を押さえることに成功した。だから元技術者やポスコを訴えることができたのだった。同時に新日鉄住金はポスコを米国で特許侵害で訴えた。ポスコは反論し、逆に韓国で新日鉄住金の主張は不当だと反訴した。

これらの訴訟は15年9月に突然、終結した。新日鉄住金が「韓国ポスコと和解した」と発表したのだった。ポスコが新日鉄住金に300億円という、過去、日本企業が知財関連で得た最大規模の和解金を払ったことから考えて、ポスコによる産業スパイ行為はあったと考えるのが自然だろう。

ポスコ→宝山への情報流出あった?

日鉄によると、かつてポスコに技術流出したのは「方向性電磁鋼板」に関する情報で、今回の訴訟で宝山が侵害していると主張しているのは「無方向性電磁鋼板」に関する特許だ。同じ電磁鋼板でも異なる技術だという。

技術の違いはあるものの、新日鉄住金とポスコの訴訟で明らかになった事実を踏まえると、新日鉄(現・日鉄)が1980年代から取り組んできた電磁鋼板に関する研究開発の秘密情報がポスコに流出し、さらにポスコから宝山鋼鉄に流出した可能性もある。そこから生まれたかもしれない技術や特許が発展し、今、トヨタに供与され、日鉄との間で問題になっている可能性も否定できない。

日鉄は、様々な技術が宝山に流出した可能性について「コメントできない」(広報センター)としている。

トヨタの長田准執行役員は14日、「今回の提訴は材料メーカー同士で協議すべき事案であると認識しており、弊社が訴えられたことは大変遺憾」と述べた。加えて「当該の電磁鋼板についても、取引締結前に他社の特許侵害がないことを製造元に確認のうえ、契約している」と話した。

脱炭素社会に向けたキーテクノロジーである電磁鋼板を巡る攻防は、これまで表立って争うことを良しとしなかった日本の大企業の慣習を打ち破った。日本の特許訴訟史上、画期的な出来事といえる。先端技術を巡る日本企業と海外企業との争い、そして日本企業同士の振る舞いも新たな段階に入った。

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