ベトナム初の都市鉄道、開業なお見えず 政治問題が壁に

ベトナム初の都市鉄道、開業なお見えず 政治問題が壁に
支払い遅延が主因、計画変更相次ぐ
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM29B8P0Z20C21A9000000/

『【ハノイ=大西智也】ベトナム初の都市鉄道の開業が宙に浮いている。日立製作所が車両を供給するホーチミン市の案件は2021年末の予定を断念し、2年以上先送りされる見通しだ。中国が支援する首都ハノイの計画は約10回の運行延期を繰り返している。ベトナム特有の政治的な問題による支払い遅延などが主因だ。21年7~9月期に初のマイナス成長に陥った経済発展の足かせになりかねない。

南部の最大都市、ホーチミン市の中心部から北東に延びる国道1号線に沿って、真新しい高架橋や駅舎の整備が進む。ホーチミン・メトロ1号線(全長約20キロメートル)は日本の政府開発援助(ODA)を活用し、総投資額43兆7千億ドン(約2100億円)の大型案件だ。
勝機とみて「オールジャパン」で参画した日本の鉄道関連企業は今、頭を悩ませる。日立のほか、工区や工事の中身で住友商事、三井住友建設、清水建設、前田建設工業などが施工を担当する。「様々な問題を克服し、できるだけ早く完成したい」。コンサルティング業務を請け負う共同事業体の中心である日本工営の担当者は強調する。

12年に着工し、最初は18年の運行開始を見込んでいた。ところが、ベトナム特有の事情が次々と日本企業を襲うことになった。

総事業費の大半は日本のODAだ。支払い遅延は生じないはずだが、設計変更などで事業費が当初計画の3倍近くに増えたことが問題を複雑にした。予算の修正は国会の承認が必要とされたが、政府側は公的債務残高の拡大を避けるため、国会審議がなかなか進まなかった。中央政府からの予算措置が遅れたことが、未払いにつながった。

「支払いが進まなければ工事を中止する」。18年に未払い金額が1億ドル(約110億円)を超え、梅田邦夫大使(当時)がベトナム指導部に対して書簡を送付する異例の事態に発展した。19年に入って徐々に解消したものの、7月には4年以上に及ぶコンサル業務への未払いを理由に、コンサル共同事業体が業務の停止に踏み切り、全体の工程がさらに遅れている。

背景にはベトナム政府の現行法令の問題がある。インフラ工事で当局の責任者が「ゴーサイン」を出した後、手続きのミスや事故などの問題が発覚した場合、遡って刑事罰に問われる可能性がある。党幹部が汚職と絡めて捜査されるケースがあり、「誰も最終責任を取りたがらない」。工事関係者は打ち明ける。

日立はすでに20年10月から車両の引き渡しを始めている。17編成(51両)のほか、信号システムや受変電設備などを一括して受注した。鉄道建設全体では9割弱の作業が完了したが、開業までにはなお障壁が残る。ホーチミン市当局は事業者側と今後のスケジュールの修正作業を進めている。

当局は開業遅れの理由について「新型コロナウイルスの感染拡大のため」と説明するが、複数の工事関係者は「ベトナム側の支払い遅延などの問題が主因」と言い切る。開業時期は23年末~24年にずれ込むもようだ。

首都ハノイでも、ハノイ・メトロ2A号線(全長約13キロメートル)の開業のめどがいまだに立っていない。中国のODAを活用した総投資額が約9億ドルの案件だ。現地メディアによると、11年に着工し、当初は15年に開業する予定だった。幾度となく延期を繰り返す事態になっている。

直近では「21年4月に運行を始める」とアナウンスしていた。ベトナム政府は大幅な遅れについて「請負業者の中国鉄道第6グループに主な原因がある」と説明してきたが、工事はすでに終了し、フランスのコンサル会社による「安全性」も確認された。今年9月になり、追加コンサル費用の約780万ドルの未払いが判明した。コロナも影響し、交渉に一段と時間がかかっているもようだ。

ベトナムではホーチミン市とハノイの二大都市だけで、合計20弱の都市鉄道の計画があるが、スケジュールは総じて遅れている。大規模なインフラ案件の遅延は他の東南アジアの国でも度々起きるが、ベトナムの場合、一党支配する共産党や中央政府、市の権限が曖昧で「政府支出が絡む案件は特に時間がかかる。敬遠する動きも出ている」(外交関係者)という。

ベトナムはコロナ前まで年7%の成長が続いてきた。大都市の渋滞は年々悪化し、開業の遅れは環境問題や経済発展の阻害要因になる。21年7~9月期の実質国内総生産(GDP)は前年同期比6.17%減と、00年の四半期開示以降で初のマイナス成長になった。

政府が積極的に打開策を講じなければ、成長をけん引してきた外国企業の投資判断にも影響を与えることになる。』