「新・闇将軍」安倍晋三の誕生

「新・闇将軍」安倍晋三の誕生、岸田政権長期化で日本の右傾化が加速するか
上久保誠人:立命館大学政策科学部教授
https://diamond.jp/articles/-/283819

 ※ 重要な「視点」を、提供していると思う…。

 ※ それは、「総裁選」と「総選挙戦」は、「投票する層」が、違う…、ということだ…。

 ※ 『自民党にとって、党総裁選では「保守派」の支持が重要となるが、総選挙では、「保守派」の支持の重要性が薄れる。自民党総裁選では、各候補者が日本遺族会や日本会議など、保守系の団体に配慮をしてきた。選挙の勝敗に一定の影響を持つからだ。
「新・闇将軍」安倍晋三の誕生、岸田政権長期化で日本の右傾化が加速するか本連載の著者、上久保誠人氏の単著本が発売されています。『逆説の地政学:「常識」と「非常識」が逆転した国際政治を英国が真ん中の世界地図で読み解く』(晃洋書房)』…。

 ※『しかし、総選挙になると、自民党は保守派に配慮しなくなる。むしろ、子育て世代、現役世代のいわゆる「中道層」の票の獲得を狙う。声が大きいが、実は多数派ではない右派や左派ではなく、日常的に政治に声を上げることは少ないが「サイレントマジョリティー」である中道層の支持を得ることが、野党を破って、政権を維持することにつながるからだ。』…。

 ※ 『それが、安倍政権が保守層にリップサービスをしつつ、実際に社会民主主義的な政策を実行し続けた理由だ。一方、野党の弱体化は、左傾化して中道層に失望されてしまったことで、安倍政権は長期政権を実現した(第169回・p3)。

 なぜ、総選挙では保守派が重要でなくなるのか。

 保守派は、自民党に不満があっても、総選挙で野党に投票することは、絶対にないからだ。だから、岸田政権も、保守へのリップサービスを続けつつ、実際には中道層に支持される社会民主主義的な政策を拡大していくことになる。それが、野党をつぶす常套策であり、自民党の権力維持のためのリアリティーなのである。』 …。

 ※ 「総裁選」という「疑似”首相の予備選”まがいのもの」(実態は、一政党の党首選)で「世間の耳目を集中」させ、「票の掘り起こし」を実行し、「選挙民の心理を、ホットな状態にしておいて」、投票行動に誘導し、ガッポリと票を頂く…。

 ※ そういう「構図」が、透けて見えるな…。

 ※ 今回の「総裁選」でも、結局は、「女性候補」が2人となり、華やかな「論争」が繰り広げられ、その周辺の動きも、連日、面白おかしく報道された…。

 ※ そして、その「ホットな状態」が冷めないうちに、「総選挙」へと突入して行く…。
 ※ その間、野党は、ボソボソと「選挙区での、”野党統一候補”のこと」を語る他は無い…。

 ※ さっぱり、「国政の舵取り」をどうするのか、「政策」をどう打つのか、という話しは聞こえてこない…。

 ※ これじゃ、結果は、もう見えている…、と言わざるを得ない…。

 ※ この人の言うように、安倍さんが「新・闇将軍」となっているのかどうかはさておき、そういう「構図」だけは、押さえておくべきだろう…。

『かつて、田中角栄元首相が、首相退任後も政界で隠然たる影響力を保ち「闇将軍」と呼ばれた。「闇将軍」とは、公式には自民党所属ですらなかった政治家が、役職に何も就かず、何の権限も持たないのに、政治のすべてを一人で決めるほどの隠然たる権力を持つという、得体の知れないものだった。しかし、今回の総裁選・党役員人事・組閣を通じて、自民党・政府の資金、人事権、公認権、利益誘導の公的な権限・権力を実質的につかんだ「新・闇将軍」が誕生した。安倍晋三元首相である。(立命館大学政策科学部教授 上久保誠人)』

『「勝者」にさせてもらった岸田新総裁

 自民党総裁選は、岸田文雄新首相が「圧勝」したといわれるが、私は彼が「勝ったのではない」と思う。総裁選で、さまざまな政治家の激しい政争の結果、岸田新首相が「勝者」になっただけだ。

 岸田氏の選挙戦は、到底「勝者」のものではなかった。政局勘、戦略眼のなさは相変わらずだった(本連載第285回)。

 高市早苗新政調会長が安倍氏の支援を得て出馬すると、保守派の支持を集めてネットが盛り上がった。高市氏の勢いはすさまじく、投開票日前には、第1回投票では岸田氏と高市氏のどちらが2位となるかわからなくなった。

 それでも、第1回投票の開票では、岸田氏が河野氏を1票上回り1位となった。それは、安倍氏が選挙戦の最終盤で「手を緩めた」からだ。

 総裁選半ば、安倍氏は、福田達夫氏ら若手が結成した「党風一新の会」の参加者などに「アベノフォン」と呼ばれるほど電話をかけまくった。「河野氏の『脱原発』に支持団体は怒っている。次の選挙で支援を得られないぞ」という内容を話し、河野氏支持を切り崩していったという。だが、アベノフォンは、投開票前にパタッと止まった。

 その頃、岸田陣営と高市陣営が、決選投票での協力で合意したという報道が流れた。福田氏も決選投票では岸田氏に投票すると表明し、岸田氏勝利の流れが出来上がっていった。だが、これは岸田派側の戦略的な動きでなかったのは明らかだろう。岸田派幹部が、高市陣営との合意で勝利を確信しながらも、岸田政権は「安倍かいらい政権になる」という「自虐的」な発言もあったという。これは、岸田氏勝利の流れは、安倍氏の仕掛けだったことを示唆している。

 岸田氏は、安倍氏に「勝たせてもらった」だけなのだ。』

『安倍氏による「新・闇将軍」体制の確立

 自民党総裁選が、血で血を洗う権力闘争であることはいうまでもない。勝者はおいしい権力の蜜をすべて取る。一方、敗者は徹底的に干し上げられるが常だ。安倍政権時の石破茂元幹事長の冷遇は誰もが知るところだ(第190回)。今回の総裁選後も、敗者となった河野氏は「党広報委員長」へ「格下げ」となった。

 ところが、岸田新総裁は、敗者を干しただけではなかった。党四役に総裁派閥・岸田派から1人も起用しないという露骨な「岸田派外し」を行ったのだ。

 党四役は、「3A(安倍・麻生・甘利)」の一角・甘利明幹事長、安倍氏の「側近」・高市早苗政調会長、アベノフォンに籠絡された福田達夫総務会長、そして谷垣グループ(有隣会)の遠藤利明選対委員長となった。

 内閣人事も発表され、内閣官房長官は細田派の松野博一氏が起用された。萩生田光一氏の起用も取りざたされたが、松野氏が起用された理由は、当選回数が上だからだという見方がある。

 だが、それ以上に重要なのは、萩生田氏が安倍政権時のコロナ対策「全校一斉休校」に文科相として公然と異を唱えたり、菅義偉政権の組閣でも官房長官起用が取りざたされたほどの「実力者」になったことだ(第253回・p4)。安倍氏は、「実力者」の官房長官起用を嫌がった。一方、松野氏ならば、安倍氏が支配する岸田政権の方針に従い、忠実に粛々と「実務」をこなすと考えたのではないだろうか。

 また、財務相には「3A」の一角・麻生太郎氏の側近にして親戚の鈴木俊一氏が起用された。鈴木氏は大ベテランだが、財政通と呼ばれる経歴はない。麻生氏は党副総裁に移るが、その後も実権を握り続けるつもりなのだ。

 これが、安倍氏による「新・闇将軍」体制の確立なのである。』

『小選挙区制の時代では、「闇将軍」は現れないはずだった

 正直、これまでちまたでよくいわれる安倍氏の「影響力」について懐疑的だった。派閥の親分のような大物政治家が、裏でカネを配って権力を振るったのは遠い昔の話だからだ。

 90年代、「政治・行政改革」によって資金と人事と公認の権限を握るのは、首相(党総裁)と党幹事長、そして官房長官となった。一方、派閥は力を失った。だから、資金、人事、公認の権限を与えない限り、史上最長の長期政権を築いた元首相といえども、権力を振るうことはできない。首相を退任して無役となった政治家が政界に隠然たる影響力を保つというのは、難しいと考えていた。

 ところが、安倍氏は総裁選で、したたかに動いて岸田氏を勝たせた。そして「人の話をよく聞くこと」が長所だという岸田氏によく話をしたのだろう。資金配分権、人事権、公認権を握る幹事長、官房長官は、安倍氏の手中に収まった。さらにいえば、選挙に直接影響する支持者への利益誘導を決める財務相と政調会長まで、安倍氏の影響下に入ったのだ。

 これが、派閥の親分たちが支配した「中選挙区制の時代」とはまったく違う、「小選挙区時代」の新しい「闇将軍」の誕生だと思う。

 本来、選挙制度が改革されたのは、何の公的な権限も権力も持たないはずの派閥の親分たちが、首相や党幹事長などよりも影響力を発してしまう「権力の二重構造」を壊すためだった(第16回)。

 言い換えれば、小選挙区制の時代では、「闇将軍」は現れないはずだった。実際、首相や党幹事長などのポジションを実際に得た政治家が、その任期の間に権力・権限を行使する。その結果が、政権交代が起きやすい小選挙区制の選挙によって、国民から民主的に審判を受ける制度に変わった。長期的には、権力・権限は特定の政治家には集中しないはずだった(第115回)。

 ところが、安倍氏は、岸田首相に「総裁派閥外し」をさせて、権力・権限を持つポジションをすべて掌握することで、「小選挙区時代」の「新・闇将軍」になった。』

『岸田政権が長引けば、「新・闇将軍」の力が強大に

 安倍氏が、岸田政権期にこの支配体制をしっかり構築し、岸田政権が総選挙、参院選を乗り切り長期政権化すれば、どうなるか。人事権、資金配分権、公認権を「新・闇将軍」が掌握し続け、新人候補は「新・闇将軍」の推薦する人ばかりになることはありえる。現在でさえ、自民党議員の約4割は、安倍政権期に初当選した若手だが、それ以上に安倍氏の影響下にある政治家が増えて、党内の多数派となっていく。総裁選で勝てるのは、「新・闇将軍」に従う人ばかりになる。

 そうなれば、誰が首相になろうと、人事権、資金配分権、公認権を行使するポジションに就くのは「新・闇将軍」の影響下にある政治家だけになる。だから、安倍氏をただの「首相の後見役」とみなすのは甘いと思う。「新・闇将軍」と呼ばせていただくのが妥当だ。

 永田町に「新・闇将軍」が誕生しようと、国民にとって重要なことは、政治が国民の生命と安全、生活を守ってくれるかどうかだ。「新・闇将軍」の影響が強まると、岸田政権が「保守化」「右傾化」すると思われるだろうが、事は単純ではない。

 安倍政権時代の国内政策は、実は「女性の社会進出」「全世代社会保障」「教育無償化」「外国人単純労働者の受け入れ」など、社会民主主義的な傾向が強かった(第218回)。これらは、保守派の不満が強かったが、それを押し切って実行された。

 安倍政権の経済政策「アベノミクス」も含めて、世論・社会情勢の変化に対して「現実的対応」をするのが安倍政権の特徴だったのだ(第163回)。この傾向は、岸田政権でも継続されるのではないだろうか。

 総裁選でも論争になった「同性婚」「選択的夫婦別姓」など多様性・人権に関わる政策は、高市政調会長の下で自民党内の議論が停滞すると思われるかもしれない。だが、私はむしろ着実に前進すると考える。

 高市政調会長は、本質的には保守というより徹底したリアリストだ。それは、女性政治家として政界を生き抜く術だった(第285回・p3)。例えば、選択的夫婦別姓の問題については、「通称使用の拡大」に取り組んできたと総裁選で説明してきた。選択的夫婦別姓は、女性差別の問題であると捉えられがちだが、それと同時に、女性の社会進出の促進という「競争政策」の側面がある。高市政調会長は、女性の社会進出を否定するのではなく、現実的な取り組みをしてきた。多くの女性議員など「推進派」の議員との間で、党内の議論は活発化する。議論の活発化は、岸田首相の総裁選時の発言と一致している。

 来る衆院選、来年の参院選に向けて、自民党は権力を死守するためのリアリティーを見せつけるだろう。「同性婚」「選択的夫婦別姓」など社会民主主義的な政策の党内議論を進めていくことは、野党の存在意義を消すことになるからだ。』

『総選挙では、保守派の支持はスルーする自民党

 自民党にとって、党総裁選では「保守派」の支持が重要となるが、総選挙では、「保守派」の支持の重要性が薄れる。自民党総裁選では、各候補者が日本遺族会や日本会議など、保守系の団体に配慮をしてきた。選挙の勝敗に一定の影響を持つからだ。
「新・闇将軍」安倍晋三の誕生、岸田政権長期化で日本の右傾化が加速するか本連載の著者、上久保誠人氏の単著本が発売されています。『逆説の地政学:「常識」と「非常識」が逆転した国際政治を英国が真ん中の世界地図で読み解く』(晃洋書房)

 しかし、総選挙になると、自民党は保守派に配慮しなくなる。むしろ、子育て世代、現役世代のいわゆる「中道層」の票の獲得を狙う。声が大きいが、実は多数派ではない右派や左派ではなく、日常的に政治に声を上げることは少ないが「サイレントマジョリティー」である中道層の支持を得ることが、野党を破って、政権を維持することにつながるからだ。

 それが、安倍政権が保守層にリップサービスをしつつ、実際に社会民主主義的な政策を実行し続けた理由だ。一方、野党の弱体化は、左傾化して中道層に失望されてしまったことで、安倍政権は長期政権を実現した(第169回・p3)。

 なぜ、総選挙では保守派が重要でなくなるのか。

 保守派は、自民党に不満があっても、総選挙で野党に投票することは、絶対にないからだ。だから、岸田政権も、保守へのリップサービスを続けつつ、実際には中道層に支持される社会民主主義的な政策を拡大していくことになる。それが、野党をつぶす常套策であり、自民党の権力維持のためのリアリティーなのである。』