岸田新政権、成長呼ぶ財政が急務

岸田新政権、成長呼ぶ財政が急務 規模ありきの予算懸念
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『自民党の岸田文雄総裁は積極財政や金融緩和を柱とするアベノミクスを踏襲しつつ、富の再分配や所得の拡大に重心を置く。成長力を底上げする具体論は今のところ乏しい。「規模ありき」の予算から脱却できなければ、経済が停滞したまま政府債務だけが膨らみかねない。企業の稼ぐ力を高める構造改革や人材の再教育など成長を呼ぶ賢い財政支出を探る必要がある。

デジタル化や脱炭素のアクセルを踏んだ菅義偉政権が1年あまりで終わる。新政権が4日に発足し、経済政策は仕切り直しとなる。

岸田氏は中間層の支援による「令和版所得倍増」を掲げる。総裁選では「成長は大事だが分配も考えないと日本はおかしくなってしまう」と強調した。財政拡大と金融緩和で脱デフレをめざすリフレ路線をすぐ修正する雰囲気はない。

経済対策や来年度予算を編成する前の11月に衆院選があり、骨太の方針を固める2022年7月ごろにも参院選がある。選挙前はばらまき型の政策が打ち出されやすい。公明党が18歳以下に1人10万円を配る公約を発表するなど、与党からの歳出圧力は既に強まる。

自民党で選挙公約をまとめる政調会長には高市早苗氏が就いた。第2次安倍政権の発足時にアベノミクスの立案にかかわった。リフレ色の強い発言も多い。総裁選でも、国と地方の基礎的財政収支(PB)の黒字化目標の凍結を主張した。

かねて岸田氏は財政規律を重視してきた。20年の著書「岸田ビジョン」では「政権としての指針が、財政健全化に向かっているということを、内外に示しつづける必要がある」などと訴えていた。

今回の総裁選で持論は抑え気味だった。PBを25年度に黒字化する目標について「必要であれば先延ばしも考えなければならない」と言及し、高市氏に寄って見せた。

岸田氏自身、数十兆円規模の追加経済対策も主張している。財務省は潮目の変化に敏感だ。「需給ギャップを埋めるのが目的なら『数十兆円』は(民間資金も含めた)事業規模ベースの数字ではないか」と、国の財政支出を抑える予防線を張る声も聞かれ始めた。

日銀の金融政策も急転換は見込みづらい。政策決定にかかわる審議委員が次に交代するのは22年7月。異次元緩和を主導した黒田東彦総裁の任期は23年4月までだ。

政府と日銀は13年1月、デフレ脱却に向けて物価上昇率を2%とする目標を盛り込んだ共同声明を出した。物価の下落が続くデフレ下では企業がもうけにくく、賃金も上がりにくい。所得が増えなければ消費は盛り上がらず、物価上昇は鈍る。悪循環を断ち切れなければ経済の低迷が続きかねない懸念があった。

物価を押し上げようと財政出動と金融緩和を続けた結果、国と地方の長期債務残高は12年度末の約930兆円から1200兆円超まで増えた。債務の膨張ペースは国内総生産(GDP)の伸びを上回る。肝心の成長戦略が実を結ばないまま、デフレから完全に抜け出せずにいる実態を映す。

岸田政権が発足して流れが変わるかどうか。東京大学の福田慎一教授は「再分配だけでは持続的な成長につながらない」と手厳しい。

岸田氏が言及する介護職についても「足元の賃上げより(規制緩和によって)医療行為などの権限を広げて将来の賃金が上がる展望を示すことが重要」と説く。産業構造の変化に対応し「職業訓練などによる成長分野への労働移動を促すことも欠かせない」という。

重要なのは生産性の向上を後押しする施策だ。企業の稼ぐ力が高まらなければ賃上げはおぼつかず、需要も喚起できない。

介護や物流などの分野は働き手不足に直面しながら、人手の配置規制などが足かせとなり生産性が低いままになっている問題もある。デジタル化やロボット技術の活用などイノベーションと合わせて必要な規制改革を進めていく必要がある。

米国や欧州はコロナ危機からの出口に向けて、成長分野のデジタルや脱炭素に集中的に予算を投じる姿勢を鮮明にしている。欧州連合(EU)は計1兆8千億ユーロ(約230兆円)の「コロナ復興基金」の3割を気候変動対策に充てる。

岸田新政権が掲げる再分配が持続的な経済成長へとつながる姿は、まだはっきり見えてこない。「規模ありき」の予算ではなく、成長のサイクルを再起動する「賢い支出」が改めて求められる。(髙見浩輔)

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