コラム:中国恒大問題は習体制の縮図、絶対統治の前触れか

コラム:中国恒大問題は習体制の縮図、絶対統治の前触れか
https://jp.reuters.com/article/breakingviews-evergrande-idJPKBN2GQ0I6

『[ロンドン 30日 ロイター BREAKINGVIEWS] – 中国の温家宝前首相は14年前、中国経済は「不安定で不均衡、協調が取れておらず、持続不可能」だと述べた。中国がいずれ巨額の不動産バブル、過剰投資、債務の過剰蓄積、ぐらつく信用システムに悩まされることを温氏が予見していたかどうかは定かでないが、これらは現実と化した。

中国の温家宝前首相は14年前、中国経済は「不安定で不均衡、協調が取れておらず、持続不可能」だと述べた。中国がいずれ巨額の不動産バブル、過剰投資、債務の過剰蓄積、ぐらつく信用システムに悩まされることを温氏が予見していたかどうかは定かでないが、これらは現実と化した。写真は習近平国家主席。北京で3月撮影(2021年 ロイター/Carlos Garcia Rawlins)
経営危機に見舞われた不動産開発企業、中国恒大集団は長年、こうした不均衡の交差点に立っていた。習近平国家主席は同社が危機に陥るお膳立てをしたことにより、困難に正面から立ち向かう覚悟を示した。中国のバブル経済がはじけると、習氏による絶対統治という新たな経済体制がそれに取って代わるだろう。

世界金融危機の前、中国の経済成長を押し上げていたのは輸出の急増と、それに関連する工場・製造業への投資だった。リーマン・ブラザーズの破綻後、中国政府は借金による巨額の景気刺激策を発動。その後数年間、とどまることを知らない投資と与信の拡大が中国経済をけん引した。このブームの中心にあったのが不動産市場だ。中国の不動産は幾多の難局を乗り越え、「無敵」の評価をものにした。昨年出た本のタイトルにもある通り、「決してはじけないバブル」だったのだ。

ほとんどの中国高官らと異なり、習氏が不動産市場の高騰に心を奪われることはなかった。不動産ブームは質の低い、もしくは「架空の」成長をもたらす、と習氏は述べた。ここ数年、中国の投資リターンは急低下し、成長率の伸び(1人当たりの生産)は2007年水準の半分に下がった。習氏はまた、不動産ブームは社会を分断させるものだと見なした。土地開発は、習氏が根絶を目指す公務員の汚職をあおった。住宅価格の上昇により格差が悪化し、若者は住宅に手が届かなくなった。世界の土地成り金の約半分は中国出身者だ。投資家が所有する何万件もの物件が空き家のままとなっている。

昨年のパンデミックで、中国の住宅市場は過熱した。政府はここに至って「三条紅線(三本のレッドライン)」と呼ばれる規制を導入し、不動産開発業者の債務に制限を課した。これが最終的に恒大を瀬戸際に追いやることになる。

住宅販売は最近急減した。これは危うい動きだ。キャピタル・ダイアレクティクスのスチュワート・ペーターソン氏によると、中国の住宅の総価値は国内総生産(GDP)の約3.7倍に達する。中国の債務は大半が不動産を担保としている。経済活動の3分の1近くが直接、間接に不動産開発に関係している。

深刻な不況を招かずに不動産バブルをしぼませることに成功した国はない。多くは金融危機も併発する。現在の中国は、30年前の日本のバブル崩壊と重なる部分が多い。中国の不動産総額の対GDP比は、日本の1990年代のピークとほぼ一致する。中国における信用拡大は、日本の1980年代よりも極端だ。日本は利上げによって投機ブームが収束。厳しい金融危機が訪れ、「失われた10年」に苦しんだ。労働人口の減少がデフレ圧力に拍車をかけた。今日の中国も同様の苦境にある。

しかし中国政府は、日本よりもバブル崩壊の影響をうまく管理できると信じている。おそらく国営の開発業者と地方政府が恒大などの業者から住宅プロジェクトを引き継ぐだろう。不良債権の処理方法が契約法にのっとり決まることはない。不良債権は中国の不透明な信用システムの中をあちこち移動し、誰が損失を吸収するかは当局が決めることになる。中国は対外債務が比較的少なく、この点は有利だ。

バブル崩壊によって中国経済が減速するのはほぼ間違いない。よく言われるように、中国共産党による支配は、経済成長の達成によって担保されている。しかし、習氏はGDP目標の達成よりも「共同富裕」と「強靱さ」に強い関心を抱いている。習氏の第一目標は経済ではなく国家の「再生」だ。その目的を達成するため、目先の経済成長を犠牲にする用意がある。習氏の政治基盤は強固なため、バブル崩壊によって最も苦しむ既得権益層に挑むことが十分可能だ。

しかも習氏には将来のビジョンがある。「2025年経済開発計画」は、人工知能(AI)からロボットまで多岐にわたる新技術で中国が支配的地位を確立する構想だ。国民の行動に報酬と罰を与える「社会信用システム」が、従来の信用システムを補完するだろう。暗号資産(仮想通貨)は排除し、代わりに中国人民銀行(中央銀行)が発行するデジタル人民元が従来の通貨を補う、あるいは取って代わる存在にさえなるだろう。経済のデジタル化も進む。そしてインターネットと数億台の監視カメラがもたらすビッグデータが習氏の監視社会を支える。

西側の投資家はさまざまな点を熟慮する必要がある。不動産市場の悪化は足元でデフレ的な影響をもたらす。投資主導の成長からの転換は、世界の原材料需要を減少させる。債務問題を和らげるために人民銀行が通貨の発行を増やせば――その可能性は高そうだ――人民元レートは下落するかもしれない。資本逃避も元安に拍車をかける可能性がある。それでも中国が安い余剰製品を大量に輸出すれば、貿易紛争が再燃するだろう。

中国は外国人投資家にとって、より危険な場所になりつつある。中国政府による情報技術(IT)企業や教育関連企業に対する最近の措置は、全ての中国企業が株主よりも国家の利益を優先せざるを得ないことを見せつけた。不良債権問題が持ち上がれば、最も貧乏くじを引くのは外国人債権者だろう。

鄧小平氏が1970年代に始めた「改革開放」以来、「チャイナドリーム」は蘇った。中国の巨大人口による需要が外国に多くの利益をもたらすという夢だ。しかし夢は今ついえた。代わりに習氏が語るのは「チャイニーズドリーム」、つまり国威を発揚し、習氏が党を完全掌握する集産主義者のプロジェクトだ。「中国の特色ある社会主義」は、旧弊な共産主義的様相を強め始めている。過去と違うのは、技術がもっと進歩していることだけだ。

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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