自民党新総裁に岸田氏 外交の注目点を有識者に聞く

自民党新総裁に岸田氏 外交の注目点を有識者に聞く
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB296960Z20C21A9000000/

『自民党総裁選が29日実施され岸田文雄氏が新総裁に選ばれた。外相経験者の岸田氏の今後の外交政策の注目点を有識者に聞いた。

「日ロ関係後退も」
ドミトリー・ストレリツォフ・モスクワ国際関係大学東洋学部学部長

岸田文雄氏が次期首相になっても日本の対ロシア政策に大きな変化はないが、ロシアとの領土問題ではやや厳しい姿勢を取る可能性があるとみている。岸田氏は北方四島の帰属問題の解決を唱えていた。2018年の安倍晋三、プーチン両首脳の会談では(平和条約締結後の色丹、歯舞2島の引き渡しを明記した)1956年の日ソ共同宣言に基づいて解決するとの合意があったが、ロシアでは岸田氏の立場は後退するとも受け取れられかねない。

岸田氏は安全保障問題で、米豪との協力強化の支持者でもある。親米欧の外交プログラムが、ロシアとの間で一定の対立を招くかもしれない。ロシアとの関係発展を目指した当時の安倍政権で外相を務めていたが、対ロシア政策では安倍氏とは意見の相違も見られた。日本では安倍政権の対ロ政策は「失敗」とみられており、岸田氏が安倍路線を継承するとは思えない。日ロ関係は悪化はしなくても、ある程度、後退する可能性がある。

平和条約締結交渉は再開されても、成果はないだろう。岸田氏は、北方四島での日ロの共同経済活動を支持すると表明したことがある。ただ、共同経済活動は岸田氏に政治的利益をもたらすことはなく、安倍氏のように熱心に取り組むことはない。ロシア側も日本の政権交代を日ロ関係の改善に利用するとは思えない。ロシアはますます日本を地政学的に、また第2次世界大戦の結果を巡って対立する国とみなすようになっている。(聞き手はモスクワ=石川陽平)

「日韓、当面は管理局面」

峨山政策研究院・崔恩美研究委員

自民党の岸田文雄新総裁は、韓国では慰安婦問題を巡る2015年日韓合意当時の外相として知られている。合意の履行を求める立場から、韓国政府に厳しい態度を取るのではないかと見る専門家も少なくない。

残念ながら韓国世論やメディアの論調は、韓日関係の先行きに明るい見通しを持っていない。元徴用工訴訟は日本企業の資産現金化に向けた手続きが進行中だが、任期満了が近づく文在寅(ムン・ジェイン)政権が積極的に解決に動く可能性は乏しいと見ている。

大統領選が本格化するなか、文政権は保守系野党から日韓関係を悪化させたと批判されている。身内の革新陣営は逆に、歴史問題の被害者救済に力を尽くさなかったという不満を持っている。このため身動きは取りづらく、関係がこれ以上悪くならないよう日本に対話を呼びかけ続ける程度にとどまるだろう。

22年5月に韓国で新政権が発足する。保革を問わず次期政権は歴史問題の解決に向けた国内のコンセンサスづくりへ努力が求められる。最近の司法判断は割れており、外交的な解決をはかる重要性も増している。

日本側は来年夏に岸田政権の信任が問われる参院選がある。来年後半に韓日双方の新政権が安定すれば、懸案の解決を真剣に模索する環境が整うのではないか。(聞き手はソウル=恩地洋介)

「来年は日中国交正常化50年、かじ取り難しく」

日本総合研究所上席理事・呉軍華氏

2022年は日中国交正常化50年となる節目の年だ。自民党総裁選期間中に岸田氏の具体的な対中政策は明らかにならなかったものの、先送りになっている習近平(シー・ジンピン)国家主席の国賓来日への対応が問われることになるだろう。環太平洋経済連携協定(TPP)に中国と台湾が加盟申請したことへの対応も踏まえると、岸田氏は早々に難しいかじ取りを迫られることになりそうだ。

岸田氏は中国によるウイグル族への人権侵害などに対処するため、人権問題担当の首相補佐官を設ける考えを示していた。総裁選中の保守派へのリップサービスでもあっただろうが、実際にポストを新設すれば中国は反発する。ただ、中国国内で反日運動が起こるような事態は予想されず、実質的なインパクトは与えないとみられる。

日中関係の全体の流れは米中関係に大きく左右される。米中関係が緊迫化すれば、中国の対外強硬的な「戦狼外交」はおのずと強まる。一方で米国のバイデン政権の対中政策は必ずしも一枚岩ではなく、米中関係が好転すれば習氏の国賓来日の機運も高まるのではないか。(聞き手は山下美菜子)

「より国際的な日本に回帰する」

オランダ国際関係研究所のマイカ・オカノ=ハイマンス・シニアリサーチフェロー

岸田文雄氏が次期首相になることは、日本の政治の継続性を意味している。岸田氏は外相を長く務めるなど外交への関心も強く、安倍晋三首相時代のように、より国際的な日本に回帰するのではないか。このことは欧州連合(EU)がインド太平洋地域を重視し、意味ある行動をとろうとしているなかで、欧州のパートナーに歓迎されるのは間違いない。日本と欧州は近年、開かれた、ルールに基づく国際システムや民主的な価値について共通の関心を持っており、これが両者の距離を縮めてきた。

EUは9月にインド太平洋戦略を発表した。同じ日に米英豪の「AUKUS(オーカス)」の創設が発表されるなど、EUの同地域への関与拡大には様々な反応がある。EUは日本の仲介役としての役割を期待できる。岸田氏は、中国に対立的なアプローチをとる米国と、必ずしもそうではない国々とのバランスをとる必要があるだろう。

国内では、岸田氏は日本のデジタル化を一段と進める必要があるだろう。これは国外でも推進するのが望ましい。日本やそのパートナーが直面する中核的な課題のいくつかはデジタルとサイバーの分野にある。(聞き手はブリュッセル=竹内康雄)』