海外企業、中南米投資に見切り 成長力でアジアと差

海外企業、中南米投資に見切り 成長力でアジアと差
病める中南米(下)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN184GV0Y1A910C2000000/

『「ブラジルから投資を引き揚げる」。世界のセメント大手ホルシム(スイス)は10日、ブラジル事業を同国の鉄鋼大手CSNに売却すると発表した。ホルシムはブラジル3位で2割弱のシェアを持っていたが、ピークの2014年から同国の市場規模は3割近く縮小し、今後も需要回復が見込めないと判断した。

ブラジルに見切りをつけたのはホルシムだけではない。米フォード・モーターは1月、自動車生産から撤退すると発表。ソニーは20年9月に工場閉鎖の決定を公表、パナソニックも21年8月にテレビ生産撤退を明らかにしている。

中国やインドを含む「BRICS」の一角を占め、かつて新興国ブームに沸いたブラジルだが、当時の面影はない。新型コロナウイルスの感染拡大前の19年でも、国外からの直接投資額は最盛期の7割以下にとどまる。

投資減少はブラジルに限った話ではない。国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会(ECLAC)のアリシア・バルセナ事務局長は「海外投資を誘致するための政策が生産性を高めるための政策と連動していない」として、政治の責任だと指摘する。

資源や食料などの1次産品に依存した経済の多角化や高付加価値化は、中南米地域にとって長年言われてきた課題だ。しかし、各国とも移ろいやすい民意にとらわれ、長期的な視点に立った産業育成は手つかずのままだ。

世界中に自由貿易網を張り巡らせ、自動車産業の投資受け入れ国として評価されてきたメキシコも、左派政権下で先行きへの懸念が増す。

脱炭素や自動車の電動化が世界的な潮流になっているにもかかわらず、左派のロペスオブラドール大統領からは民間企業の電気自動車(EV)投資を歓迎したり、今後の一段の投資を呼びかけたりする発言は見当たらない。

自動車関連の企業が集積している中部グアナフアト州の知事で、野党・中道右派「国民行動党(PAN)」のディエゴ・シヌエ氏は「今後10年何もしないと、自動車産業の将来はない」と危機感を示す。

各国とも豊富な天然資源にあぐらをかきビジネス環境の整備を後回しにした結果は国内総生産(GDP)に端的に出ている。00年の時点で、中南米地域のドル建てGDPは東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国の3.4倍だったが、21年には1.4倍にとどまった。中南米は13年に付けたピークを越えることができず、多くの国が経済成長の鈍化に直面する「中所得国のわな」にはまっている。

光明がないわけではない。スタートアップ情報の米クランチベースによると、中南米地域には企業価値が10億ドル(約1100億円)を超える未上場企業であるユニコーンが少なくとも23社あり、世界中の投資家をひき付けている。

域内の言語が近く、国境をまたいだサービスを展開できるため、中南米の6億6千万人という人口は強みとなる。ネット専業銀行として世界最大の企業価値を誇るヌーバンク(ブラジル)など、世界をリードするスタートアップも誕生している。

中南米各国での格差是正は重要な課題だが、人気取りを狙ったバラマキ政策から経済の活力は生まれない。民間企業の活動を促す政策が求められている。

(サンパウロ=外山尚之、メキシコシティ=宮本英威)』