「双極」に向かう米国と中国

「双極」に向かう米国と中国 ビル・エモット氏
英エコノミスト誌元編集長
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN22ESX0S1A920C2000000/

『2001年9月の米同時テロ、いわゆる「9.11」から20年の節目を迎えたことの意義は2つある。まず米国主導のアフガニスタンへの介入という20年のサイクルが完結したという点だ。2つ目は、我々が一回りして20年前と同じ状態に戻ったことである。

Bill Emmott ロンドン出身、英オックスフォード大卒。英エコノミスト誌東京支局長を務めるなど知日派で知られる。1993~2006年に同誌編集長。

テロ前の01年4月、ブッシュ(第43代)米政権で主要なニュースとなったのは、中国の海南島近くで米軍の偵察機と中国軍の戦闘機が空中接触した事故だった。いまの米中の競争や摩擦は基本的に20年前と同じ構図だ。アフガンでイスラム主義組織タリバンが権力を奪還したが、より大きな構図では米国の外交政策や世界での役割が当時に逆戻りしたということだ。

米軍のアフガン撤収は正しい判断だが、実行が極めてずさんだった。だが、22年の米中間選挙でバイデン政権の痛手になると断定するのは早すぎる。アフガンやテロが主要な関心から外れれば、たいした影響はない。やはり経済や新型コロナウイルスが問題になる。

バイデン大統領率いる米国の指導力は、アフガン撤収前から失望を買っていた。世界的なワクチン接種の拡充や気候変動対策、対中関係、世界経済の再建といった面でバイデン氏はどこにも身が入らず内向き姿勢に終始した。多国間主義や国際協調が復活するだろうと、同盟国はバイデン政権の登場を喜んだが、指導力は弱々しい。

米国政治の著しい分断が、その理由だ。民主党は上院での過半数を謳歌できず、下院での優勢もわずかだ。22年に下院の過半数を失う懸念は大きい。国内が不安定なので、国際社会での指導力に政治資本をつぎこむ価値はないと彼らは決め込んでいる。

今後20年の世界を展望して私がただ予測できるのは、世界が「西側」と中国、言い換えれば米国と中国に分断し続けることだ。「新たな冷戦」というのは正しい言い方ではない。米中相互の経済的な結び付きは強すぎる。しかしながら、私たちは「双極」化が激しく進む世界にいることも確かだ。

米中はそれぞれ(自分が中心の王国だとする)「ミドル・キングダム」であると自任してバラバラに外交を展開し、他の国はどちらの陣営に入るかを選ばねばならない。日本や英国のような国はなんとか中間にとどまろうとする。むろん日英とも米国陣営の側だが、米国が願うより、中国と近い関係を保ちたいだろう。

米中は人口や経済、軍事で力を保ち、別々の運命を歩む。どちらが浮上してどちらが沈むという性格のものではない。中国は集権化が著しく、経済は硬直的で、起業家精神を損ねている。14億もの民を個人独裁のような中央集権で統治する習近平(シー・ジンピン)国家主席のスタイルは、長期的に持続しない。

米国が、強さを保てるかどうかが問題になる。リスク要因は米民主主義の深刻な危機だ。(米連邦議会議事堂を暴徒が占拠する事件が起きた)1月6日はその予兆といえる。こうした状況に米国が陥ってしまう可能性は十分にある。

だが私が最有力だとみているのは、米国が回復し、経済が頑健さを保つという展開だ。外交上の度重なる失敗、米憲法上の危機といわれた(当時のニクソン大統領が1974年に辞任に追い込まれた)ウォーターゲート事件と(75年に終結した)ベトナム戦争の後の10~15年は、米国のリハビリテーション(回復訓練)の期間だった。いま、イラクやアフガンの失敗を経て、米国はリハビリの時代に入ったのだと思う。

(81年就任の)レーガン大統領のように、純粋に人々を鼓舞できる指導者の登場を期待したい。疑似ポピュリストである半面、国際人で価値観を大事にする。米共和党は反民主主義のワナにはまった現状を変えねばならない。(談)

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日本の選択に重み

世界の懸念と関心がアジアに集まる。中国という超大国が、我がもの顔で強権路線を突き進む。米国などが単に経済や貿易の利益を重視して中国と親しくする時代は過ぎた。

世界の中心だと自任する王国が地球上に2つ、並行して別々の道を歩み続けるだろうというエモット氏の指摘は本質を突いている。双方とも国民に弱みをみせられないという内政的な事情から、自らが信じる論理をただ追求しようとする。必然的な流れとはいえ、世界の安定には不安が常に残る。

米国と中国のどちらにつくのか。古くて新しい問いだ。ただエモット氏も中長期の視野では、中国の習体制が志向する強圧的な国家統治の持続力に疑念を示す。

中国が環太平洋経済連携協定(TPP)への加盟を正式に申請し、直後に台湾も加盟申請を発表した。日本にとって最重要の同盟国である米国、最大の隣国である中国と、中国の強権体制の「反面教師」的な存在である台湾。3者との距離感をどう保つのか、日本の選択は重みを増す。(本社コメンテーター 菅野幹雄)

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