海外企業、中南米投資に見切り 成長力でアジアと差

海外企業、中南米投資に見切り 成長力でアジアと差
病める中南米(下)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN184GV0Y1A910C2000000/

『「ブラジルから投資を引き揚げる」。世界のセメント大手ホルシム(スイス)は10日、ブラジル事業を同国の鉄鋼大手CSNに売却すると発表した。ホルシムはブラジル3位で2割弱のシェアを持っていたが、ピークの2014年から同国の市場規模は3割近く縮小し、今後も需要回復が見込めないと判断した。

ブラジルに見切りをつけたのはホルシムだけではない。米フォード・モーターは1月、自動車生産から撤退すると発表。ソニーは20年9月に工場閉鎖の決定を公表、パナソニックも21年8月にテレビ生産撤退を明らかにしている。

中国やインドを含む「BRICS」の一角を占め、かつて新興国ブームに沸いたブラジルだが、当時の面影はない。新型コロナウイルスの感染拡大前の19年でも、国外からの直接投資額は最盛期の7割以下にとどまる。

投資減少はブラジルに限った話ではない。国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会(ECLAC)のアリシア・バルセナ事務局長は「海外投資を誘致するための政策が生産性を高めるための政策と連動していない」として、政治の責任だと指摘する。

資源や食料などの1次産品に依存した経済の多角化や高付加価値化は、中南米地域にとって長年言われてきた課題だ。しかし、各国とも移ろいやすい民意にとらわれ、長期的な視点に立った産業育成は手つかずのままだ。

世界中に自由貿易網を張り巡らせ、自動車産業の投資受け入れ国として評価されてきたメキシコも、左派政権下で先行きへの懸念が増す。

脱炭素や自動車の電動化が世界的な潮流になっているにもかかわらず、左派のロペスオブラドール大統領からは民間企業の電気自動車(EV)投資を歓迎したり、今後の一段の投資を呼びかけたりする発言は見当たらない。

自動車関連の企業が集積している中部グアナフアト州の知事で、野党・中道右派「国民行動党(PAN)」のディエゴ・シヌエ氏は「今後10年何もしないと、自動車産業の将来はない」と危機感を示す。

各国とも豊富な天然資源にあぐらをかきビジネス環境の整備を後回しにした結果は国内総生産(GDP)に端的に出ている。00年の時点で、中南米地域のドル建てGDPは東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国の3.4倍だったが、21年には1.4倍にとどまった。中南米は13年に付けたピークを越えることができず、多くの国が経済成長の鈍化に直面する「中所得国のわな」にはまっている。

光明がないわけではない。スタートアップ情報の米クランチベースによると、中南米地域には企業価値が10億ドル(約1100億円)を超える未上場企業であるユニコーンが少なくとも23社あり、世界中の投資家をひき付けている。

域内の言語が近く、国境をまたいだサービスを展開できるため、中南米の6億6千万人という人口は強みとなる。ネット専業銀行として世界最大の企業価値を誇るヌーバンク(ブラジル)など、世界をリードするスタートアップも誕生している。

中南米各国での格差是正は重要な課題だが、人気取りを狙ったバラマキ政策から経済の活力は生まれない。民間企業の活動を促す政策が求められている。

(サンパウロ=外山尚之、メキシコシティ=宮本英威)』

[FT]一帯一路関連「隠れ債務」、途上国の見えざる脅威

[FT]一帯一路関連「隠れ債務」、途上国の見えざる脅威
途上国の対中国未公表債務は約43兆円、米民間調査機関が試算
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM299IP0Z20C21A9000000/

『中国の広域経済圏構想「一帯一路」によって、多数の中低所得国が巨額の「隠れた債務」を抱え、その総額は3850億ドル(約43兆円)に上ることがわかった。

一帯一路構想の一部となる四川省の鉄道=ロイター

米民間調査機関による調査によると、習近平(シー・ジンピン)指導部の外交政策の柱であるこの構想に関連した各国の債務は、長年にわたり組織的に、過小報告されてきたという。この結果、融資を受けた中低所得国で「隠れた債務」、すなわち政府が支払うべき未公表の負債が大きく膨らんでいることがわかった。

米民間調査機関のエイドデータ研究所が29日に発表した報告書で明らかになった。バージニア州にあるウィリアム・アンド・メアリー大学に拠点を置く国際開発調査を専門とする研究所だ。調査では2017年末までの18年間に中国政府や国有企業がアジアやアフリカなどの165カ国で資金を拠出した1万3000件以上(総額8430億ドル超)の事業について、支出額や負債額などを調べた。

エイドデータ研究所は、中国の融資による債務の残高が、これまで格付け会社や監視責任のある国際政府組織が認識していたよりも「大幅に大きい」と推定している。

エイドデータのブラッド・パークス専務理事は、フィナンシャル・タイムズの取材に対し、「最初に(3850億ドルという債務額を)見つけたときは、本当に息をのんだ」と語った。

過去2年間、中国による一帯一路関連の融資のペースは鈍化している。さらに今年は、米国が主要7カ国(G7)を率いて、途上国や新興国の開発を支援する枠組みで合意、開発融資で圧倒的な存在感を示す中国に対抗しようとしている。

しかし、報告書は、習主席が2013年に一帯一路構想を立ち上げて以来、大きな変化が生じ、それが長期的な影響を持つことを浮き彫りにした。

以前は、中国の他国への融資は中央銀行のような国の組織を対象にしたものが主だったが、近年は国有企業、国営金融機関、特別目的会社、合弁事業、民間の機関などに向けた融資が7割近くを占める。

対中債務がGDPの10%を超える国は40カ国
エイドデータの推計によると、40以上の中低所得国で対中債務が国内総生産(GDP)の10%を超えている。

そのうえ、それらの中低所得国は、中国への返済義務のある負債の額を実際よりも少なく報告しており、その過少申告幅は平均でGDPのほぼ6%に相当する。

「こうした負債の大部分は、途上国においては政府のバランスシートに現れてこない」とパークス氏は指摘する。「肝心な点は、こうした借金の多くが、様々な形で債務国政府の明示的または暗黙の債務保護の恩恵を受けているということだ。このため、公的債務と民間債務の区別が曖昧になっている」

この報告書は、中国が一帯一路関連の貸し付けにより途上国を「債務のワナ」に追い込んでいるという国際的な議論が高まっている折に発表された。こうした国からの返済が滞った場合、担保の資産を中国側が差し押さえることになると懸念されている。

ただ、こうした懸念は、習主席の下で中国が国際的な影響力を拡大していることに対する不安が広がるなかで、過度に誇張されているという見方もある。

返済すべき額が見えない怖さ

米ジョンズ・ホプキンス大学中国アフリカ研究所が20年に行った調査によると、2000年から2019年までの期間に、中国はアフリカの負債34億ドルを帳消しにした上、150億ドル分の繰り延べや借り換えに応じた。中国が資産を差し押さえた例はなかった。

「中国は物理的、非流動的な資産を担保に取りたがるというメディアの神話が長年の間に作られてきた」が、直近の調査によると、中国が流動的な資産を担保にすることも珍しくないようだ、とパークス氏は言う。

「中国の国営銀行が貸し付けに際し担保を求める強い傾向があるのは事実だ。中国の貸し付け全体の44%で担保が取られていることがわかった。いざという場合は担保に頼る」と同氏は言う。

「中国の国営銀行は、借り手がオフショアの銀行口座か中国の銀行が管理するエスクロー口座に必要最低限の現金残高を維持するように求める」

隠れた債務に起因する偶発債務が、多くの途上国にとって「まるでファントム・メナス(見えざる脅威)のように」立ちはだかっている、とパークス氏は言う。

「途上国の財務省にとって、中国に対する隠れ債務を管理していく上での問題は、ある金額の未公表債務を今後中国に返済する必要があるということではなく、むしろ、将来返済を迫られる可能性がある対中債務の額の見当がつかないということだ」とパークス氏はみている。

By Edward White

(2021年9月29日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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自民党総裁選は「安倍氏の一人勝ち」で終わった

岸田氏圧勝、河野氏惨敗。自民党総裁選は「安倍氏の一人勝ち」で終わった
https://samejimahiroshi.com/politics-kishida-20210930/

『自民党総裁選を制して次の首相になるのは、世論調査でトップを独走していた河野太郎氏ではなく、極右の安倍支持層から熱狂的な支持を集めていた高市早苗氏でもなく、最も無難な岸田文雄氏だった。第一回投票では河野氏がトップに立つという予想を覆し、岸田氏がトップに立った。岸田氏圧勝、河野氏惨敗といっていい。

この結果を一言で解説すると、私は「安倍氏の一人勝ち」だと思う。以下、主要プレーヤーについて一人ずつ解説してみよう。

■安倍晋三氏

安倍政権は「安倍首相67歳、麻生太郎副総理81歳、二階俊博幹事長82歳、菅義偉官房長官72歳」の4人がときに内輪もめしながらも世代交代阻止の一点で手を握り、あらゆる国家利権を独占する「長老支配」だった。菅政権に移行した後、二階氏が幅を利かせるようになり、安倍氏と麻生氏は不満を募らせた。そこで菅氏の対抗馬として名乗りをあげた岸田氏を支援するそぶりをみせつつ、菅氏に二階氏の幹事長交代を迫ったところから自民党内権力闘争は激化したのである。

菅氏は安倍氏の支持を得られないとみて不出馬を決断し、国民的人気の高い河野氏を後継首相候補に担いだ。安倍氏は岸田氏と河野氏の一騎打ちでは勝てないと判断し、極右の高市早苗氏を擁立し、第一回投票を分散させて決選投票で逆転する構想を描いた。

今回の総裁選は「河野氏を担ぐ菅氏」vs.「岸田氏と高市氏を担ぐ安倍氏」の代理戦争だったといえる。この勝負は安倍氏が圧勝し、キングメーカーの座を手にしたのだ。

岸田氏は安倍氏の言いなりとなる。幹事長には安倍後継者の立場を掴んだ高市氏らの起用を迫られる。自民党は「安倍一強」時代に逆戻りする。安倍氏は自らの首相返り咲きも視野に入れているだろう。

■麻生太郎氏

麻生氏の野望は、第五派閥の岸田派(46人)を第二派閥の麻生派(53人)に吸収して「大宏池会」を結成し、安倍氏率いる最大派閥・清和会(96人)とともに自民党を完全掌握して首相を交互に輩出していくことだ。岸田政権を誕生させた勢いで一挙に大宏池会を実現して自らが派閥会長となり、岸田政権の後見人として君臨するーーそんな構想を描いてきた。

そこに現れたのが、派閥の子分である河野氏だった。麻生氏は河野氏の出馬を制止できず、麻生派内は岸田氏を推す甘利明氏らベテラン勢と、河野氏を推す中堅・若手で真っ二つに。岸田氏勝利で麻生氏はメンツを保ったものの、派閥内の世代間対立は大きなしこりを残し、岸田派を吸収するどころか麻生派の分裂回避に当面は追われることになる。

とはいえ、岸田政権では安倍氏との盟友関係も維持できるとみられ、安倍氏に次ぐ党内実力者の座は死守した格好だ。

■二階俊博氏

菅政権生みの親でありながら菅氏に幹事長交代を宣告され、一挙に求心力を失った二階氏。安倍氏と麻生氏に従順な岸田氏の勝利だけは避けようと、野田聖子氏に推薦人を貸して出馬させ、4人による乱戦に持ち込むことには成功したが、最後はキャスティングボードを握ることはできず、岸田氏の圧勝を許すことになった。自民党史上最長の幹事長は一挙に影響力を失うことになりそうだ。

すでに82歳。今秋の衆院選に出馬するのか、三男に地盤を譲るのか。地元・和歌山県では、安倍氏側近の世耕弘成参院幹事長が二階氏の衆院和歌山3区を視野に衆院鞍替えを狙っており、後継問題でも厳しい立場に追い込まれる可能性がある。政界の策士といわれるだけに、最後にもうひと勝負を仕掛けるのか、動向に注目だ。

■菅義偉氏

菅氏は総裁選不出馬を決意した際、国民的人気の高い河野氏を擁立すれば勝てる、自らはキングメーカーとして影響力を残せると踏んでいたに違いない。しかし、河野氏の惨敗で完全に行き詰まった格好だ。自前の派閥も持っていないだけに、今後、求心力が大幅に低下する可能性がある。河野氏が「菅離れ」する可能性もあり、孤立感を深めるかもしれない。

■岸田文雄氏

ハト派の老舗派閥・宏池会会第9代会長として、第5代宮沢喜一氏以来の首相誕生である。安倍氏と麻生氏に完全服従し、悲願の首相の座をつかんだ。政策理念はほとんどなく、「首相になること」「首相を続けること」を最優先して安倍氏と麻生氏に忠実な政権運営に徹する可能性が極めて高い。

党役員・組閣人事も安倍氏と麻生氏の意向を最大限受け入れるだろう。幹事長の最有力候補は高市氏ではないか。官房長官は麻生派から受け入れる可能性もある。菅政権以上の「安倍傀儡」になるのは間違いない。

※ 9月上旬にサンデー毎日に寄稿した「お公家集団・宏池会の領袖、岸田文雄の弱み」が総裁選での岸田氏勝利を受けて週刊エコノミストOnlineに特別公開されました。岸田政権を展望する材料が凝縮されています。ぜひご覧ください。

■河野太郎氏

総裁レース本命から急失速し、非主流派に転落する危機である。安倍氏の政敵である石破氏と組んだことで安倍氏から強く拒絶された。安倍氏がかつて石破氏を幹事長に起用した後に徐々に干していったように、河野氏も要職に起用されたとしても徐々に外されていく可能性がある。世代交代を警戒する安倍・麻生両氏にとって最も警戒する相手は石破氏から河野氏へ変わったといえるだろう。菅氏の影響力ダウンで後ろ盾を失ったことも響いていく。

河野氏は今後、石破氏や小泉進次郎氏と連携を続けて安倍傀儡の岸田氏に対抗していくのか、それとも安倍氏や麻生氏に屈服して再起を期すのか、分かれ道に立つ。河野氏は石破氏と同じ道を歩むことを恐れて意外にあっけなく安倍氏と麻生氏に屈服するのではないかと私はみている。

■高市早苗氏

当初は泡沫候補だったが、安倍氏の全面支援を受けて主要候補に躍り出た。強固な安倍支持層から熱狂的な応援を受け、安倍氏の継承者としての地位を確立したようにみえる。岸田政権でも幹事長など要職に抜擢される可能性が高い。今回の総裁選で最も飛躍した政治家といえるだろう。

もっとも党内基盤は皆無で、すべては安倍氏頼みである。安倍氏にどこまでも追従するしかない。それは政治的選択に迷うことがないという意味では強みかもしれない。安倍氏が握る政局カードとして、さまざまなかたちで使われることになるだろう。

■野田聖子氏

悲願の総裁選出馬を果たして一定の政治的果実は得た。だが、総裁選で掲げた政策の数々は自民党では到底実現できないものだった。出馬を水面下で支えた二階氏の影響力ダウンで、今後の展望は開けない。岸田政権で要職に起用されるか否かが大きな分かれ道となる。

森友事件の再調査を掲げたことで安倍氏に睨まれているのは間違いなく、それがどう影響するか。河野氏が安倍氏や麻生氏に完全屈服すれば、「安倍支配からの脱却」をめざす筆頭に躍り出る可能性はある。』

これから河野太郎を待ち受ける”2人目の石破茂”という苦難

「自民の”安倍支配”に大惨敗」これから河野太郎を待ち受ける”2人目の石破茂”という苦難
https://news.biglobe.ne.jp/economy/0930/pre_210930_2691855863.html

『菅義偉首相の後継を決める自民党総裁選は、岸田文雄氏が勝った。世論調査で「次の首相」のトップを独走していた河野太郎氏は敗れた。ジャーナリストの鮫島浩さんは「地方票で圧勝したにもかかわらず決選投票で敗れたのは、石破茂氏が安倍晋三氏と争った2012年と同じ構図だ。これから河野氏は石破氏のように干されるだろう」という——。

写真=時事通信フォト

自民党総裁選を終え手を取り合う、(左から)野田聖子幹事長代行、菅義偉首相、岸田文雄新総裁、高市早苗前総務相、河野太郎規制改革担当相=2021年9月29日、東京都港区 – 写真=時事通信フォト

■河野氏「想定外の大惨敗」の意味

世論調査で「次の首相」のトップを独走し、自民党総裁選の本命とみられた河野太郎氏が惨敗した。党員票は1位だったものの、得票率は44%にとどまった。国会議員票では高市早苗氏にも及ばす3位に沈んだ。第1回投票から岸田文雄氏に首位を奪われる「想定外の大惨敗」だった。決選投票は岸田氏に大差で敗れた。

河野フィーバーは起きなかった。敗因ははっきりしている。自民党のキングメーカーである安倍晋三氏が「河野政権は断固阻止」を掲げ、立ちはだかったことだ。

安倍氏は国家観や歴史観をめぐる右寄りの政治信条が極めて近い高市氏を擁立して全力支援するとともに、ハト派の宏池会会長でありながら安倍氏に従順な岸田氏とも気脈を通じ、「反河野連合」を形成した。第1回投票を分散させ、決選投票で圧勝する狙い通りの展開となった。

そもそも河野氏を「次の首相」のトップに押し上げたのは、ツイッターをはじめとするインターネット上の人気だった。ところが、いざ総裁選が始まると、強固な安倍支持層が熱烈に応援する高市氏がネット上の話題を独占し、河野氏は埋没。河野家と中国企業の関係をスクープする週刊文春報道が追い討ちをかけ、ネット上では河野バッシングが吹き荒れる異例の展開となり、河野氏の勢いは完全に止まった。

一方、自民党の伝統的支持層や支援団体はパフォーマンス重視の河野氏を警戒し、穏健な岸田氏に流れた。左右両面から河野氏を包囲する安倍氏の狙いは的中したといっていい。
■失速した最大の原因……“不鮮明な旗印”

これに対し、河野氏は「安倍支配からの脱却」の旗印を鮮明に掲げなかった。正式な出馬表明前に安倍氏と会談し、安倍氏と折り合う接点を探った。安倍氏が警戒する森友学園事件の再調査は「必要ない」と表明。原発再稼働を容認して「脱原発」の持論を封印し、女系天皇容認論も引っ込めて安倍氏との全面対決を避けた。安倍氏の盟友で、河野氏にとっては派閥の親分である麻生太郎氏への配慮でもあった。

世代交代に期待する世論の追い風を受けながら、安倍氏や麻生氏との決別を避けたことこそ、河野氏が失速した最大の原因である。総裁選の対決構図はぼやけ、「コップの中の争い」の様相を深めた。

河野氏は国会議員票で劣勢が予想されていただけに党員票で圧勝することが勝利への絶対条件だった。2001年総裁選で当時の最大派閥を「抵抗勢力」と呼んで全面対決を挑み、「自民党をぶっ壊す」と叫んで世論を熱狂させる「小泉劇場」を演出して地滑り的勝利を収めた小泉純一郎氏の闘い方に習うべきだった。「安倍支配をぶっ壊す」と叫び、世代交代を真正面から迫らなければならなかったのだ。

「河野フィーバー」を巻き起こすことに失敗し、不得手とする派閥間の多数派工作に持ち込まれた時点で、河野氏は敗北のレールに乗ったといえるだろう。

河野陣営に安倍氏の疑惑追及を主張する石破茂氏が加わったことで、安倍氏にとっては負けられない闘いとなった。河野氏を後継首相に担いでキングメーカーを座を狙う菅義偉氏や、河野氏とタッグを組んで世代交代や派閥政治の打破を掲げる小泉進次郎氏の政治力を割く必要もあった。安倍氏は国会議員に電話をかけまくり、河野政権だけは断固阻止する決意を強く示した。その結果、河野陣営から次々に国会議員票が離れていった。

河野氏の惨敗は「安倍氏の一人勝ち」を意味している。菅氏とのキングメーカー争いを制し、河野氏や小泉氏の世代交代論を抑え込んだのだ。

総裁選2021HPより
■総裁選の本当の勝者

安倍政権とそれに続く菅政権は、安倍氏67歳、麻生氏81歳、二階俊博氏82歳、菅氏72歳の4人がときに内輪揉めをしながらも、世代交代阻止の一点で手を握り、あらゆる国家利権を独占する「長老支配」だった。

今回の総裁選で二階氏は幹事長を外れて失脚し、菅氏は河野氏惨敗で影響力の大幅低下が避けられない。麻生派は岸田氏支持と河野氏支持で割れ、麻生氏は派閥の結束回復に追われる。唯一無傷なのは安倍氏である。自民党は再び「安倍一強」へ逆戻りする。いや、二階氏や菅氏の影響力が弱まる分、かつての「安倍一強」より強固な安倍支配が確立するだろう。

安倍氏の唯一の懸念は「桜を見る会」事件だ。東京地検特捜部は不起訴としたが、検察審査会が「不起訴不当」の判断を示し、特捜部は再捜査して起訴するかどうかを改めて判断することになった。特捜部は年内にも判断を下すとみられている。そこで不起訴となれば捜査は終結し、安倍氏は晴れて「潔白」を宣言して堂々と首相返り咲きに向けて動き出すことができるのだ。

それまで安倍氏に従順な「中継ぎ政権」が必要である。岸田氏は操り人形としては格好の存在だ。二階氏や菅氏ら政界工作にたけた叩き上げの政治家と違って、岸田氏は自らと同じ世襲政治家であることも安心材料だ。刃向かう恐れがまるでない。

岸田氏は第五派閥の岸田派(46人)を率いるものの、党内基盤は弱く、最大派閥細田派(96人)を事実上率いる安倍氏と第二派閥麻生派(53人)を率いる麻生氏に依存するほかない。党役員・組閣人事も安倍氏と麻生氏の意向を全面的に受け入れるだろう。岸田氏は総裁就任後に「特技は人の話をしっかり聞くこと」と強調したが、最も耳を傾ける相手は安倍氏と麻生氏になるのは間違いない。

安倍支持層の熱烈な応援を受けて「安倍継承者」の立場に躍り出た高市氏や安倍氏側近の萩生田光一氏、麻生派重鎮で安倍氏とも親しい甘利明氏を幹事長に起用すれば「安倍支配」の色合いはいっそう濃くなる。岸田氏としては避けたい人事だが、安倍氏に押し切られる可能性は十分にある。

■「河野氏の石破化」という末路

安倍氏は自民党が政権復帰する目前の2012年9月の総裁選で、第1回投票では石破氏に次ぐ2位でありながら国会議員による決選投票で逆転した。当初は石破氏の国民的人気をあてにして幹事長に起用し、同年12月の衆院選と翌年7月の参院選に圧勝、長期政権の基盤を固めた。その後、石破人気に頼る必要がなくなると地方創生担当相として入閣させて幹事長から外し、2016年にはついに閣外へ追いやって無役とした。徐々に政治的基盤を奪っていったのである。

石破茂氏=2017年9月25日、山梨市市長選応援演説にて撮影(写真=さかおり/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)

石破派は徐々に弱体化し、石破氏は昨年秋の総裁選で菅氏、岸田氏に続く最下位に沈んだ。石破派から脱退する議員が相次ぎ、今回の総裁選では自派だけで推薦人20人を確保できず、出馬をあきらめて河野氏支持に回った。今回の河野氏惨敗で石破氏の求心力がさらに低下するのは間違いない。

石破氏はもはや敵ではない。安倍氏の「仮想敵」は河野氏へ移る。河野氏は石破氏と違って安倍氏の疑惑追及には前向きではないが、世代交代への期待を背負っている以上、首相返り咲きを狙う安倍氏にとっては最大の脅威だ。

11月の衆院選に向け、国民的人気の高い河野氏をいきなり閑職に追いやることはできない。当面はワクチン担当相に留任させるなどして、石破氏と同じように少しずつ居場所を奪い、じわじわと干し上げていく。「河野氏の石破化」こそ、キングメーカーである安倍氏がこれから進める政界工作の基軸だ。

■干されるか、完全服従か

河野氏の末路を見越して、自民党内には早くも距離を置く動きが始まった。総裁選直前に開かれた決起集会は敗戦ムードに包まれ、出席議員は数十人にとどまった。石破氏や小泉氏と組んで安倍氏の警戒感を刺激した「小石河連合」が間違いだった——河野陣営からはそんな声が公然と飛び出した。

権力闘争の世界は厳しい。「安倍氏や麻生氏との激突を避ける」というたったひとつの政局判断ミスが、つい先日まで「次の首相」レースのトップを走っていた河野氏を失速させ、孤立に追い込んでいく。石破氏同様、河野氏に近づいたら安倍氏に睨まれる——そんな恐怖感が自民党内を覆い始めた。河野氏の無力化がこれから進むだろう。

河野氏はどう対抗するのか。「お育ちの良い河野氏には安倍氏や麻生氏と徹底抗戦する胆力はない。石破氏と同じ道は歩みたくないという一心から安倍氏と麻生氏に完全服従するのではないか」と自民党関係者は予測する。その時、河野氏が国民的人気を維持できる保証はない。

河野氏は総裁選敗北後、「(岸田政権を)全力で支えていきたい。必要とされるところで骨身を惜しまず頑張りたい」と記者団に語った。

■国民世論とかけ離れた総裁選

河野氏が惨敗した今回の総裁選は、世代交代や派閥政治の打破を期待する国民世論と相容れない結果に終わった。自民党は内向きな姿勢を強め、国民世論とかけ離れていくのか。わたしたち国民が自民党の選択の是非を問う機会が、11月7日投開票が有力視される衆院選である。

内閣支持率が続落した菅政権末期、野党では政権交代への期待感が高まった。しかし菅首相が総裁選不出馬を表明し、マスコミ報道が自民党総裁選一色に染まると自民党支持率は急速に回復。野党は埋没し、政権交代の機運は一挙に萎んでいる。

写真=iStock.com/Free art director
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野党には、岸田氏は国民的人気の高い河野氏や女性初の首相をめざした高市氏よりも闘いやすいという受け止めがある。一方、新自由主義的な競争経済を志向する河野氏や高市氏と違って、岸田氏は格差是正を重視する姿勢をみせている。野党の政策と重なり、対立軸がぼやける恐れもある。野党は岸田氏が森友再調査に否定的なことに照準をあわせて、「岸田政権は安倍傀儡」とアピールするだろう。

だが、立憲民主党の支持率は低迷し、政権交代が実現するという見方はほとんどない。岸田氏は総裁就任会見で衆院選の勝敗ラインを「与党で過半数」とした。自民党が議席を減らしても、自公で政権を維持すれば首相を続ける意向だ。安倍氏も岸田氏よりも操りやすい首相候補がいない以上、自公で過半数を維持すれば岸田政権を支えつづけるだろう。岸田政権のもとで「河野氏の石破化」を着実に進め、世代交代の動きを抑え込むと見られる。

■再起のチャンスがあるとすれば……

河野氏に再起のチャンスがあるとすれば、来年夏の参院選だ。岸田氏は総裁就任後に今秋の衆院選と来夏の参院選に向け党内の結束を訴えたが、菅政権同様、コロナ対策などで迷走して内閣支持率が低迷すれば、来夏の参院選にむけ「岸田首相では戦えない」という党内世論が強まる可能性はある。その場合、河野氏待望論が沸き起こるのか、岸田氏に変わる「中継ぎ」が登場するのか、それとも安倍氏が再再登板に踏み出すのか。

安倍氏がキングメーカーとして暗躍しつづける限り、首相が次々にすげ替えられ、政治の混迷が続く可能性は極めて高い。「安倍支配の継続」の是非が、衆院選最大の争点となろう。


鮫島 浩(さめじま・ひろし)
ジャーナリスト

1994年京都大学法学部を卒業し、朝日新聞に入社。政治記者として菅直人、竹中平蔵、古賀誠、与謝野馨、町村信孝らを担当。政治部デスク、特別報道部デスクを歴任。数多くの調査報道を指揮し、福島原発の「手抜き除染」報道で新聞協会賞受賞。2014年に福島原発事故「吉田調書報道」を担当。テレビ朝日、AbemaTV、ABCラジオなど出演多数。2021年5月31日、49歳で新聞社を退社し、独立。SAMEJIMA TIMES主宰。

(ジャーナリスト 鮫島 浩)

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河野氏に行くはずの票を二階氏が岸田氏・高市氏へ流した

河野氏に行くはずの票を二階氏が岸田氏・高市氏へ流した ~田崎史郎が分析するその背景
https://news.1242.com/article/317455

『政治ジャーナリストの田崎史郎氏は9月29日、ニッポン放送「辛坊治郎 ズーム そこまで言うか!」(スペシャルパーソナリティ:吉田尚記アナウンサー)に電話出演し、自民党総裁選の結果と今後についての分析を語った。

自民党の両院議員総会を終え、二階幹事長(左)にあいさつする岸田新総裁=2021年9月29日午後3時27分、東京都内のホテル 写真提供:共同通信社

おととい岸田氏や安倍氏と会った二階氏が、河野氏に行くはずの票を流した

菅総理大臣の後継を選ぶ自民党総裁選挙は今日9月29日投開票が行われ、岸田文雄氏が決選投票の末、河野太郎氏を破り、自民党新総裁に選出された。

吉田)今日1回目で1票差で岸田文雄さんが1位だったではないですか。そして2位が高市(早苗)さんで、3位が河野さん、4位が野田(聖子)さんという結果になって、この瞬間が今日のハイライトだったといいますか、みんながわっ!と思った瞬間だと思うのですが、田崎さんのこの時のご感想はいかがなんでしょうか。

田崎)岸田さんの国会議員票が多くて河野さんの国会議員票が少なかったんですね。高市さんも多かったんです。20票から30票が動いているんです。河野さんから岸田さん、あるいは高市さんに。これが何なのかってことなんですね。

吉田)これは何ですか。

田崎)二階派の動きじゃないかなと思いますね。

吉田)それはどんな動きなんでしょうか。

田崎)二階派は、当初河野さんに投票する人が多いだろうと思われたんですけれども、その河野さんに行くべき票が岸田さんあるいは高市さんに流れたんじゃないかと思われますね、これは。

吉田)選挙のことだけ考えると国民の人気の高い河野さんの方がいいんじゃないかと言われていたわけじゃないですか。でもこれから選挙を迎える議員たちが岸田さんや高市さんに流れた理由は何ですか。

田崎)確かに河野さんの人気は高いんですけれども、この自民党総裁選を行ったことによって、自民党の支持自体が広がっている。増えているんですね。そうすると、河野さんでなくても、他の方でも自民党の議席がやっぱり伸びるんじゃないかと思う人が多かったんですね。総裁選を行うことによって自民党の支持率が上がった。それによって河野さんでなければならないというものが、比較的小さくなったんじゃないかと思います。

森田耕次解説委員)二階(俊博)さんは、岸田さんが党改革を訴えましたので、当初は岸田さんだけは何としても落とすと言うような方向だったんですが、ここが変わってきたということですよね。

田崎)そうです。今取材中なんですけれども 一昨日の時点で 二階さんが岸田さんらと会った、また二階さんは安倍(晋三)さんらとも会ったというんですね。その中で、感情的なものではなくて「勝ち馬に乗る」ことを優先したんじゃないかなと思いますよ。

吉田)確かに今回、政策論争っていうのをオンラインでちゃんと見られたのって、歴史上初めてじゃないかなと思うんですね。

田崎)そうですね。

吉田)見ると「なるほどこんなこと考えてるんだ」って4人それぞれについて結構思いましたから。

田崎)そうですね。その点では、やっぱり自民党のPR効果……私はこれ、総裁選というのは自民党を再活性化させる巨大な装置だということをかねてからずっと申し上げているんですけれども、それに自民党は成功したんですね。成功した結果、河野さんでなければならない理由も小さくなっていた。二階さんにすれば、岸田さんにはさせたくない、自分を追い落とした岸田さん許せないという気分だったんですけども、その感情を優先してますと非主流派になって、ポスト面で冷遇される可能性があるわけですよね。それならば、最後の最後は勝ち馬に乗って主流派として活動しようと、おそらくそういう話し合いが一昨日行われたんじゃないかと思われます。

自民党の新総裁に選出された岸田前政調会長 撮影:2021年9月29日午後3時4分、東京都内のホテル 写真提供:共同通信社
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人事で「新しい自民党」を出せないとかえって苦しくなる
吉田)党役員人事は、田崎さんはどうなると思われますか。

田崎)まずこの今回の人事は、党役員人事を週内に行って週明けの4日に閣僚人事、組閣が行われるんですが、まず岸田さんが他の候補者3人をどういうポストで処遇するか。これは4人とも処遇するってことを言われてたので、そこで幹事長、政調会長、総務会長あるいは選対委員長でその2人を処遇するのか閣内で処遇するのかってことになりますよね。

森田)選挙が近いですから、明日の執行部の人事の幹事長で二階さんの代わりに誰を充てるのかというのはおそらくかなりポイントだと思うんです。例えば幹事長代理の林幹雄さんは二階派ですから、二階さんに近い人をそのまま幹事長にしてもうすぐ選挙だと言うような形にするのか 、あるいは国会対策委員長も森山裕さん、石原派ですが二階さんと近い森山さんをそのまま残すのか、その辺ちょっと注目じゃないですか。

田崎)それは、今の執行部の人たちよりもやっぱり、「刷新した」と、「変わった」と。「新しい自民党、岸田自民党の姿はこうなんだ」ということを示すようになるだろうと思います。

森田)そこをやっぱり変えていかないと、新しさを出せないと。

田崎)総裁選で、自民党、確かに盛り上がりました。ただ人事で結果を出さないと、今度は自民党はかえって苦しくなりかねないので、やっぱり刷新感を強く出す人事になるだろうと思います。

吉田)では、刷新感は出すだろうというその先には、衆議院議員選挙があるわけなんですけれども、岸田さんになった自民党の選挙のポイントってどこなんですか。

田崎)どれくらいの議席取れるかってことですよね。菅さんがああいう形で事実上の退陣をせざるを得なかった背景には、8月21~22日で自民党が内々に行った選挙情勢調査がありまして、それによると自民党は単独過半数233を割るどころか200議席を下回って公明党を足しても過半数を取れないんじゃないかと、そういう厳しい結果だったんです。それが今回の総裁選でガラッと雰囲気変わりまして、単独過半数くらいは取れるんじゃないかという見方に変わってきているんです。人事で「これは変わったんだな」と、「岸田自民党はこういう形なんだ」と思わせることができれば、議席はもうちょっと伸びる可能性があります。国民がこの関心を持って見た総裁選が終わって じゃあこれが具体的にどんな形になって現れるんだろうというような目で見ているんですね。それに岸田さんがどういう球を打ち込むかなんです。

吉田)田崎さんが思われる、どんな方が入ったらいいと思われる条件のようなものはありますか。

田崎)条件は、やっぱり「あ、変わったな」という感じを与えられる人です。

吉田)今までの人ではないぞという。

田崎)そうです。幹事長に二階さんや二階さんに近い人を充てるとかそういうことではなくて、まったく新しい人を据えるようになるだろうと思います。

増山さやかアナウンサー)リニューアル感がある感じで。

吉田)そう考えると、今この瞬間、その候補になっている人たちは今一番やきもきしているんでしょうね。

田崎)もしかしたら、もうその人のところに話が行っている可能性もありますけどね。』

中国、TPP申請アピール メキシコと外相会談

中国、TPP申請アピール メキシコと外相会談
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB29CXS0Z20C21A9000000/

『【北京=共同】中国の王毅(ワン・イー)国務委員兼外相は29日、メキシコのエブラルド外相と電話会談し、中国が環太平洋経済連携協定(TPP)に加盟申請したのは「対外開放を拡大する固い決意を示したものだ」とアピールした。TPP加盟国のメキシコが中国を支持するよう期待しているとみられる。

王氏は「中国は各国とともにTPPをより広範なものにするよう努力し、貿易と投資の自由化促進に積極的な役割を果たしたい」と述べた。

中国は16日にTPP加盟を申請した。TPPの交渉参加には全加盟国の賛成が必要となっている。』

自民党新総裁に岸田氏 外交の注目点を有識者に聞く

自民党新総裁に岸田氏 外交の注目点を有識者に聞く
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB296960Z20C21A9000000/

『自民党総裁選が29日実施され岸田文雄氏が新総裁に選ばれた。外相経験者の岸田氏の今後の外交政策の注目点を有識者に聞いた。

「日ロ関係後退も」
ドミトリー・ストレリツォフ・モスクワ国際関係大学東洋学部学部長

岸田文雄氏が次期首相になっても日本の対ロシア政策に大きな変化はないが、ロシアとの領土問題ではやや厳しい姿勢を取る可能性があるとみている。岸田氏は北方四島の帰属問題の解決を唱えていた。2018年の安倍晋三、プーチン両首脳の会談では(平和条約締結後の色丹、歯舞2島の引き渡しを明記した)1956年の日ソ共同宣言に基づいて解決するとの合意があったが、ロシアでは岸田氏の立場は後退するとも受け取れられかねない。

岸田氏は安全保障問題で、米豪との協力強化の支持者でもある。親米欧の外交プログラムが、ロシアとの間で一定の対立を招くかもしれない。ロシアとの関係発展を目指した当時の安倍政権で外相を務めていたが、対ロシア政策では安倍氏とは意見の相違も見られた。日本では安倍政権の対ロ政策は「失敗」とみられており、岸田氏が安倍路線を継承するとは思えない。日ロ関係は悪化はしなくても、ある程度、後退する可能性がある。

平和条約締結交渉は再開されても、成果はないだろう。岸田氏は、北方四島での日ロの共同経済活動を支持すると表明したことがある。ただ、共同経済活動は岸田氏に政治的利益をもたらすことはなく、安倍氏のように熱心に取り組むことはない。ロシア側も日本の政権交代を日ロ関係の改善に利用するとは思えない。ロシアはますます日本を地政学的に、また第2次世界大戦の結果を巡って対立する国とみなすようになっている。(聞き手はモスクワ=石川陽平)

「日韓、当面は管理局面」

峨山政策研究院・崔恩美研究委員

自民党の岸田文雄新総裁は、韓国では慰安婦問題を巡る2015年日韓合意当時の外相として知られている。合意の履行を求める立場から、韓国政府に厳しい態度を取るのではないかと見る専門家も少なくない。

残念ながら韓国世論やメディアの論調は、韓日関係の先行きに明るい見通しを持っていない。元徴用工訴訟は日本企業の資産現金化に向けた手続きが進行中だが、任期満了が近づく文在寅(ムン・ジェイン)政権が積極的に解決に動く可能性は乏しいと見ている。

大統領選が本格化するなか、文政権は保守系野党から日韓関係を悪化させたと批判されている。身内の革新陣営は逆に、歴史問題の被害者救済に力を尽くさなかったという不満を持っている。このため身動きは取りづらく、関係がこれ以上悪くならないよう日本に対話を呼びかけ続ける程度にとどまるだろう。

22年5月に韓国で新政権が発足する。保革を問わず次期政権は歴史問題の解決に向けた国内のコンセンサスづくりへ努力が求められる。最近の司法判断は割れており、外交的な解決をはかる重要性も増している。

日本側は来年夏に岸田政権の信任が問われる参院選がある。来年後半に韓日双方の新政権が安定すれば、懸案の解決を真剣に模索する環境が整うのではないか。(聞き手はソウル=恩地洋介)

「来年は日中国交正常化50年、かじ取り難しく」

日本総合研究所上席理事・呉軍華氏

2022年は日中国交正常化50年となる節目の年だ。自民党総裁選期間中に岸田氏の具体的な対中政策は明らかにならなかったものの、先送りになっている習近平(シー・ジンピン)国家主席の国賓来日への対応が問われることになるだろう。環太平洋経済連携協定(TPP)に中国と台湾が加盟申請したことへの対応も踏まえると、岸田氏は早々に難しいかじ取りを迫られることになりそうだ。

岸田氏は中国によるウイグル族への人権侵害などに対処するため、人権問題担当の首相補佐官を設ける考えを示していた。総裁選中の保守派へのリップサービスでもあっただろうが、実際にポストを新設すれば中国は反発する。ただ、中国国内で反日運動が起こるような事態は予想されず、実質的なインパクトは与えないとみられる。

日中関係の全体の流れは米中関係に大きく左右される。米中関係が緊迫化すれば、中国の対外強硬的な「戦狼外交」はおのずと強まる。一方で米国のバイデン政権の対中政策は必ずしも一枚岩ではなく、米中関係が好転すれば習氏の国賓来日の機運も高まるのではないか。(聞き手は山下美菜子)

「より国際的な日本に回帰する」

オランダ国際関係研究所のマイカ・オカノ=ハイマンス・シニアリサーチフェロー

岸田文雄氏が次期首相になることは、日本の政治の継続性を意味している。岸田氏は外相を長く務めるなど外交への関心も強く、安倍晋三首相時代のように、より国際的な日本に回帰するのではないか。このことは欧州連合(EU)がインド太平洋地域を重視し、意味ある行動をとろうとしているなかで、欧州のパートナーに歓迎されるのは間違いない。日本と欧州は近年、開かれた、ルールに基づく国際システムや民主的な価値について共通の関心を持っており、これが両者の距離を縮めてきた。

EUは9月にインド太平洋戦略を発表した。同じ日に米英豪の「AUKUS(オーカス)」の創設が発表されるなど、EUの同地域への関与拡大には様々な反応がある。EUは日本の仲介役としての役割を期待できる。岸田氏は、中国に対立的なアプローチをとる米国と、必ずしもそうではない国々とのバランスをとる必要があるだろう。

国内では、岸田氏は日本のデジタル化を一段と進める必要があるだろう。これは国外でも推進するのが望ましい。日本やそのパートナーが直面する中核的な課題のいくつかはデジタルとサイバーの分野にある。(聞き手はブリュッセル=竹内康雄)』

政府が日本郵政株を1兆円規模で売却へ

政府が日本郵政株を1兆円規模で売却へ、10月中に-関係者
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-09-28/R04VQADWLU6I01?srnd=cojp-v2


『布施太郎、占部絵美
2021年9月28日 20:21 JST 更新日時 2021年9月30日 10:34 JST

保有義務である「3分の1超」を除く全株を処分、今回が最終売却に
29日に引き受けシ団に対して10月6日の売却正式公表などを説明

政府は29日、保有している日本郵政株式の第3次売却を10月中にも実施する方針を固めた。複数の関係者が明らかにした。売り出し規模は1兆円程度を想定しており、同日説明会を開いて引き受けシンジケート団に売却の計画を説明した。

  関係者によると、財務省は同日の説明会で、10月6日に売り出しを正式に公表し、10月中に実施する方針を伝えた。政府保有が義務付けられている3分の1を除く全株を放出する。28日終値で換算すると売り出し規模は約1兆円になるとの見通しも示した。

  財務省幹部は30日、日本郵政株の第3次売却のタイミングは適切に判断していくとコメントした。

  日本郵政はまた、今回の売り出しに合わせて自社株買いを実施する方針。市場に放出される株式の一定程度を吸収し、株価に対するインパクトを最小限に抑える計画だ。

  政府の持ち分は6月30日現在、議決権保有比率で60.6%となっている。今回の売却は保有義務のある「3分の1超」まで出資比率を減らす手続きの最終段階になる。 

  政府は東日本大震災の復興財源4兆円を確保するため、日本郵政株の売却を目指し、過去2回の売却で2兆8000億円を確保。今年6月の日本郵政による自社株買いに応じて2500億円を売却しており、残る10億3000万株の第3次売却で9500億円を確保する必要がある。

Japan Post’s New CEO Puts Growth Aside to Fix Scandal-Hit Group
日本郵政本社Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg

  政府は2019年5月に第3次売却に向けた主幹事6社(国内:大和証券、みずほ証券、SMBC日興証券、海外:ゴールドマン・サックス証券、BofA証券、JPモルガン証券)を選定。売り出しの準備を進めていたが、かんぽ生命保険の不正販売や日本郵政グループに対する行政処分など一連の問題を受けて株価は低迷し、売却は難しい状況が続いていた。

  日本郵政は今年6月に自社株を一部取得し消却したことから、第3次売却で目安となる株価が従来の1132円から925円に下がった。28日の終値は約半年ぶりに1000円の大台を超え、足元の株価は前日比1.68%高の961.8円(午前10時時15分現在)で推移している。麻生太郎財務相はこれまでも第3次売却の見通しについて、「日本郵政の経営状況を注視して検討していく」と発言していた。』

中国の「一帯一路」に失速リスク

中国の「一帯一路」に失速リスク、参加国が反発=米研究所
https://jp.reuters.com/article/china-silkroad-idJPKBN2GP0Y4

『共著者のブラッド・パークス氏は「高額予算、汚職、債務の持続可能性に対する懸念を理由に、大規模な一帯一路プロジェクトを棚上げする低・中所得国が増えている」と指摘。

エイドデータ研究所によると、マレーシアでは2013ー2021年に総額115億8000万ドルのプロジェクトが中止された。カザフスタンでも15億ドル、ボリビアでも10億ドル以上のプロジェクトが中止になった。

中国外務省のコメントは取れていない。

エイドデータ研究所は、中国が過去18年間に165カ国で支援した総額8430億ドルのプロジェクトを検証。中国が1年間に約束する国際開発金融は、現在、米国の2倍に達しているという。

だが、パークス氏によると、対中感情が大きく変化したため、参加国が中国と密接な関係を維持することが難しくなっている。

報告書は、2013年の一帯一路の開始以降、中国が支援するプロジェクトが停止・中止される例が増えており、カザフスタン、コスタリカ、カメルーンなど「買ってから後悔する」国が相次いでいると指摘。

信用リスクも高まっており、多くの低・中所得国では、中国の債務に対するエクスポージャーが国内総生産(GDP)の10%を超えている。

報告書によると、一帯一路のプロジェクトの35%では汚職、労働法違反、環境汚染、抗議活動といった問題が発生。

パークス氏は、主要7カ国(G7)が一帯一路に対抗して打ち出した途上国向けのインフラ支援構想「ビルド・バック・ベター・ワールド(B3W)」の登場で、選択肢が増え、一帯一路の一部の大規模プロジェクトがとん挫する可能性があるとの見方を示した。

今回の報告書は、フォード財団や米国際開発庁(USAID)など、官民さまざまな機関から資金提供を受けて作成されたが、エイドデータ研究所は調査は独立したもので、透明性が高く、資金提供者の意向には左右されていないと説明している。』

「双極」に向かう米国と中国

「双極」に向かう米国と中国 ビル・エモット氏
英エコノミスト誌元編集長
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN22ESX0S1A920C2000000/

『2001年9月の米同時テロ、いわゆる「9.11」から20年の節目を迎えたことの意義は2つある。まず米国主導のアフガニスタンへの介入という20年のサイクルが完結したという点だ。2つ目は、我々が一回りして20年前と同じ状態に戻ったことである。

Bill Emmott ロンドン出身、英オックスフォード大卒。英エコノミスト誌東京支局長を務めるなど知日派で知られる。1993~2006年に同誌編集長。

テロ前の01年4月、ブッシュ(第43代)米政権で主要なニュースとなったのは、中国の海南島近くで米軍の偵察機と中国軍の戦闘機が空中接触した事故だった。いまの米中の競争や摩擦は基本的に20年前と同じ構図だ。アフガンでイスラム主義組織タリバンが権力を奪還したが、より大きな構図では米国の外交政策や世界での役割が当時に逆戻りしたということだ。

米軍のアフガン撤収は正しい判断だが、実行が極めてずさんだった。だが、22年の米中間選挙でバイデン政権の痛手になると断定するのは早すぎる。アフガンやテロが主要な関心から外れれば、たいした影響はない。やはり経済や新型コロナウイルスが問題になる。

バイデン大統領率いる米国の指導力は、アフガン撤収前から失望を買っていた。世界的なワクチン接種の拡充や気候変動対策、対中関係、世界経済の再建といった面でバイデン氏はどこにも身が入らず内向き姿勢に終始した。多国間主義や国際協調が復活するだろうと、同盟国はバイデン政権の登場を喜んだが、指導力は弱々しい。

米国政治の著しい分断が、その理由だ。民主党は上院での過半数を謳歌できず、下院での優勢もわずかだ。22年に下院の過半数を失う懸念は大きい。国内が不安定なので、国際社会での指導力に政治資本をつぎこむ価値はないと彼らは決め込んでいる。

今後20年の世界を展望して私がただ予測できるのは、世界が「西側」と中国、言い換えれば米国と中国に分断し続けることだ。「新たな冷戦」というのは正しい言い方ではない。米中相互の経済的な結び付きは強すぎる。しかしながら、私たちは「双極」化が激しく進む世界にいることも確かだ。

米中はそれぞれ(自分が中心の王国だとする)「ミドル・キングダム」であると自任してバラバラに外交を展開し、他の国はどちらの陣営に入るかを選ばねばならない。日本や英国のような国はなんとか中間にとどまろうとする。むろん日英とも米国陣営の側だが、米国が願うより、中国と近い関係を保ちたいだろう。

米中は人口や経済、軍事で力を保ち、別々の運命を歩む。どちらが浮上してどちらが沈むという性格のものではない。中国は集権化が著しく、経済は硬直的で、起業家精神を損ねている。14億もの民を個人独裁のような中央集権で統治する習近平(シー・ジンピン)国家主席のスタイルは、長期的に持続しない。

米国が、強さを保てるかどうかが問題になる。リスク要因は米民主主義の深刻な危機だ。(米連邦議会議事堂を暴徒が占拠する事件が起きた)1月6日はその予兆といえる。こうした状況に米国が陥ってしまう可能性は十分にある。

だが私が最有力だとみているのは、米国が回復し、経済が頑健さを保つという展開だ。外交上の度重なる失敗、米憲法上の危機といわれた(当時のニクソン大統領が1974年に辞任に追い込まれた)ウォーターゲート事件と(75年に終結した)ベトナム戦争の後の10~15年は、米国のリハビリテーション(回復訓練)の期間だった。いま、イラクやアフガンの失敗を経て、米国はリハビリの時代に入ったのだと思う。

(81年就任の)レーガン大統領のように、純粋に人々を鼓舞できる指導者の登場を期待したい。疑似ポピュリストである半面、国際人で価値観を大事にする。米共和党は反民主主義のワナにはまった現状を変えねばならない。(談)

◇   ◇   ◇

日本の選択に重み

世界の懸念と関心がアジアに集まる。中国という超大国が、我がもの顔で強権路線を突き進む。米国などが単に経済や貿易の利益を重視して中国と親しくする時代は過ぎた。

世界の中心だと自任する王国が地球上に2つ、並行して別々の道を歩み続けるだろうというエモット氏の指摘は本質を突いている。双方とも国民に弱みをみせられないという内政的な事情から、自らが信じる論理をただ追求しようとする。必然的な流れとはいえ、世界の安定には不安が常に残る。

米国と中国のどちらにつくのか。古くて新しい問いだ。ただエモット氏も中長期の視野では、中国の習体制が志向する強圧的な国家統治の持続力に疑念を示す。

中国が環太平洋経済連携協定(TPP)への加盟を正式に申請し、直後に台湾も加盟申請を発表した。日本にとって最重要の同盟国である米国、最大の隣国である中国と、中国の強権体制の「反面教師」的な存在である台湾。3者との距離感をどう保つのか、日本の選択は重みを増す。(本社コメンテーター 菅野幹雄)

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Nikkei Asia 』

勝負決した2日前の会談 岸田新総裁選出の舞台裏

勝負決した2日前の会談 岸田新総裁選出の舞台裏
【イブニングスクープ】
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA289Q30Y1A920C2000000/

『自民党総裁選は岸田文雄氏が1回目の投票からトップに立ち、勝利した。党員・党友票で4割以上を獲得して1位となり、世論調査でも支持を集めていた河野太郎氏はなぜ敗れたのか。菅義偉首相の総裁選不出馬で自民党支持率が上昇して「このままでは次期衆院選に勝てない」との危機感が消えうせたうえ、無難で敵が少ない岸田氏を勝ち馬とみた各派閥も最終盤で相乗りしてきた。

【関連記事】自民新総裁に岸田氏、決選投票で257票 河野氏は170票

新総裁は開票2日前の27日午後に事実上、決まった。場所は衆院第1議員会館にある安倍晋三前首相の事務所だった。高市早苗氏を支援した安倍氏を、岸田陣営の甘利明氏が訪ねてきた。

「これで決まったな」

「岸田さんは河野さんにしっかり反論している。総裁選で随分たくましくなった。決選投票で私がどういう考えか、高市陣営の人は分かっている」。安倍氏は甘利氏に語った。

「これで決まったな」。麻生太郎氏は直後に甘利氏から報告を受け、こうつぶやいた。初回の投票でもし岸田氏が2位になれば、決選投票で高市陣営が岸田氏に投票する「2・3位連合」を組む。

3Aと呼ばれる安倍、麻生、甘利の3氏の意思はそろった。結果は2・3位どころか「1・3位連合」となる勝利だった。

1カ月前の党内の空気はまるで違った。間近に迫る衆院選を控えて「菅首相では選挙は戦えない」との声が若手を中心に充満し、河野氏は次期総裁の本命候補だった。

日本経済新聞社など各社世論調査の「首相にふさわしい人」で、河野氏はトップを走っていた。菅氏が3日に総裁選出馬を断念すると、閣僚だった河野氏は立候補に動いた。

小泉進次郎氏はひそかに石破茂氏と会い、河野氏支持を働きかけた。小泉氏から話を聞いた菅氏は「石破氏と小泉氏が支持して、党員票で7割とれば河野氏が勝てる」と漏らしていた。

河野陣営は「岸田氏との事実上の一騎打ちなら党員票が半数の1回目投票で決まる」とみた。そこで安倍氏が動いた。出馬に意欲を示していた高市氏の支援を始め、議員票が9割を占める決選投票に持ち込む戦略をとった。

「お願いがあって電話しました」。安倍氏は事務所の机に連絡先を書いた紙を並べ、親しい議員や地方議員、支持団体の幹部に次々と電話をかけた。高市氏には政策から選挙対策本部の人選、さらに「眉毛はもっと真っすぐ書いた方がいい」ともアドバイスした。

最大派閥・細田派に強い影響力を持つ安倍氏の姿をみた周辺が「本気になってきた。意中の候補は岸田氏だったはずなのに……」と戸惑うほどだった。

世論の人気で押し切る戦略の河野陣営は楽観していた。小泉氏は細田派が「高市氏か岸田氏を支持」の方針を示すと「河野氏は絶対ダメというのはわかりやすい」と挑発した。

これを聞いた安倍氏は「石破さんが河野さんを支持したり、進次郎さんに細田派を批判されたりすると、こっちも意地になるよね」と周辺に漏らし、支持獲得に一段と力を入れた。
「誰が総裁でも大丈夫」

党内の空気も大きく変わった。日経新聞の9~11日の緊急世論調査で自民党の政党支持率は8月から9ポイントも上がり48%になった。厳しい選挙を経験していない衆院当選1~3回議員を中心とする若手の空気も「これなら誰が総裁でも選挙は大丈夫そうだ」となった。
野田聖子氏が告示前日の16日、立候補を表明すると、河野氏は「これで決選投票は避けられなくなりました」と麻生氏に伝えた。1回目で過半数をとる戦略は修正を余儀なくされた。

河野陣営では小泉氏が対策に乗り出し、石破氏とのツーショットも増やした。だが小泉氏は選対幹部ではない。「なぜ幹部でない小泉氏に指示されるのか」といった不満が陣営内にあった。

日ごろはそれほど積極的に他の議員と交流しない河野氏や小泉氏が支持を呼びかけると「普段は付き合いがないのに、一体なんだ」と白ける議員もいた。支持する議員や秘書のグループはぎくしゃくしていた。
自民党総裁選を終え、拍手に応える(右から)河野氏、高市氏、岸田新総裁、菅首相、野田氏(29日、東京都港区)

高市陣営は勢いづいた。一時は「岸田氏と2位を争い、決選投票に残る可能性がある」との観測が広がった。岸田氏との決選投票なら敗れる、とみた河野陣営では「河野氏の支持票の一部を高市氏に回し、高市氏を2位にする」案も検討した。そこまで追い詰められていた。

河野陣営は「党員票で5~6割とれば『世論を覆していいのか』と訴えられる」とわずかな希望にかけた。

河野氏の失速と混乱をみた安倍氏は投開票直前の週末、支持拡大の動きを止めた。安倍氏は「誰も3桁に手が届くとは思わなかったんじゃないか。あとは高市さん自身の努力だ」と話していた。

投票の2日前の27日、態度を保留していた竹下派は「岸田氏を支持する議員が多数」と公表した。去就が注目された二階派は自主投票になった。

「勝ち馬は岸田氏」とみた派閥がなだれ込み、岸田氏は事前の予想を覆して1回目の投票でトップに立った。河野氏は党員票で5割に届かず、議員票も3位に終わった。

「菅首相でなければ選挙は大丈夫」とみた議員の間で、河野氏は「急進的な改革を進めそうだ」と危ぶむ評があった。岸田氏なら安倍、麻生、甘利3氏の3Aが主導権を握る従来の党内秩序が維持される安心感もある。

世代と派閥が絡んで始まった総裁選は、衆院選の不安が消えた瞬間に内向き志向が強まった。だが世界は新型コロナウイルスで大きく姿を変えた。経済も外交も安全保障も変化のまっただ中にある。現状維持だけでは乗り切れそうにない。

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竹中治堅
政策研究大学院大学 教授
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分析・考察

安倍政権終盤期から安倍前首相の意中の後継者が岸田氏だったことは間違いない。そのために岸田氏を引き立てた。

しかし、定額給付金の内容の全面変更などのため岸田氏は失速する。だが、菅義偉政権は、コロナ危機対応で世論の求めに沿わない政策を続け、世論の支持を失い、退陣を余儀なくされ、本命が再浮上した。

安倍氏の高市氏支持の理由は、アベノミクス継続を論点にすること、保守層への配慮、そして、記事も指摘するよう河野氏から票を奪うことによる岸田氏への間接的支援だったはずである。

総裁選の結果、自民党主流派の構成に変更はない。政党支持率も上がり、総選挙は自民に追い風となった。総裁選は自民党主流派の強かさを改めて示した。

2021年9月29日 22:27

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室橋祐貴
日本若者協議会 代表理事

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ひとこと解説

岸田新総裁はもちろん、キングメーカーとして影響力の大きさを発揮した安倍前首相、保守派の新しいホープとなった高市氏、総裁選の討論において議論の幅を広げた野田氏はいずれも「勝者」と言って過言ではないと思います。

一方、河野氏については具体にかける議論が多く、特に年金改革に関しては批判だけの「野党」のような印象を受けました。

今後、自身の政策論をブラッシュアップしない限り、総裁(首相)になる日は来ないでしょう。宏池会には優秀な若手も多く、どのような人事になるのか、本当に若手が重役に登用されるのか要注目です。

2021年9月29日 18:28

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小黒一正
法政大学経済学部 教授

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分析・考察

宏池会での会合を含め、岸田新総裁とは何度かお会いしていますが、コロナ禍でお会いしたのは昨年の5月です。BS11「報道ライブ インサイドOUT」(20時59分~21時54分)にて、岸田政調会長(当時)と御一緒に出演し、「いまだ届かぬ『経済対策』なぜ遅いのか?」をテーマに、政治主導やデジタル政府の重要性などを議論しました。

財政・社会保障の改革も山積していますが、冬に第6波が到来するのは確実のなか、まずはコロナ問題の解決が急務に思います。近々選挙もありますが、信頼できる誠実な方ですので、これからの政治手腕を期待しています。

2021年9月29日 23:32 (2021年9月30日 0:26更新)

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慎泰俊
五常・アンド・カンパニー株式会社 代表取締役

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分析・考察

岸田さんについては、「誰からも悪く言われない人格者」という話を多くの人から聞いていました。だからこそ、この選出システムであればそもそも有利であることに加え、よく政策についても研究されてきたという印象を討論会では受けました。最後のスピーチも力強かったです。

Covid、雇用対策、安全保障など、今後も世界経済や国際政治は難しい局面が続きますので、次の政権が長期政権となることを心から願っています。

2021年9月29日 21:33

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竹内純子
国際環境経済研究所 理事・主席研究員

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ひとこと解説

総裁選の論戦がこれほど国民の関心事となったことは無かったように思います。男女比が半々というところも含めて、良い総裁選だったのではないかと思います。

岸田さんが3-4年前に「若手民間研究者との2050年を見据えた勉強会をやりたい」ということで参加させていただきましたが、ものすごい勉強家です。それはもうびっくりするくらいでした。若手研究者に対しても常に敬意を示してくださるのもとても印象的でした。
新総裁誕生となると、最初はやたら持ち上げて、後は一気に叩き落すというような報道が多いですが、そんなことには踊らず、新たなリーダーの下、難局を乗り越えていきたいですね。

2021年9月29日 20:14 』