英外交、「連邦」再結束に活路

英外交、「連邦」再結束に活路 豪州の原潜配備を支援へ
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『米国、英国、オーストラリアが安全保障協力の枠組み「AUKUS(オーカス)」を立ち上げた。豪州はフランスとの潜水艦導入計画を破棄し、米英が原潜配備を支援する。背景には豪州との歴史的なつながりと米国との同盟をテコにした英国の外交戦略があった。

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「AUKUSによる米豪との協力が答えだ」。ジョンソン英首相は16日、下院で自らの「グローバル・ブリテン戦略」について、こう語った。
豪州は原潜配備のため米英から技術供与を受ける(米国の潜水艦)=米海軍提供・AP

ジョンソン氏は24日、マクロン仏大統領との電話協議で協力再構築を訴えたが、対仏関係の悪化は覚悟の上での決断だったはずだ。バイデン米大統領も22日にマクロン氏と電話で話し、関係修復に動き出したが、両国の間には隙間風が吹く。
仏との計画断念

発端は今年3月だった。英紙タイムズによると、原潜所有を望む豪州のマイケル・ヌーナン海軍本部長が英海軍トップのトニー・ラダキン第1海軍卿に、開発支援や技術協力を打診した。

豪州は防衛力の拡張を図る中国に対し、フランスと進めていた計画では対応できないと判断。潜行時間が長く、秘匿性も高い原潜の導入案が政府内で浮上した。

3月の英豪接触の後、英国は米側に豪州の提案を報告。英政府中枢では「フックレス」というコードネームを付け、ジョンソン氏やウォレス国防相などわずか10人程度で情報を共有した。

英首相官邸の関係者によると、ジョンソン氏は6月に英国で開かれた主要7カ国首脳会議(G7サミット)にモリソン豪首相を招待した。そこでバイデン米大統領とともに3人で原子力潜水艦の開発支援やAUKUSについて水面下で調整を図った。「首脳間の協議は(サミット時の)1回だけではなかった。新枠組みは数カ月の作業の成果だ」(同関係者)
EU離脱が転機

英国は第2次世界大戦後、欧州大陸と米国の仲立ちをすることで存在感を発揮した。欧州連合(EU)離脱でそれができなくなった英国が志向するのは世界各地の元植民地をメンバーとする英連邦を足場にした外交だ。米国以外は英連邦の英豪、カナダ、ニュージーランドで構成し、機密情報を共有する枠組み「ファイブ・アイズ」を特に重視しているもようだ。

例えば英国はEU加盟時に通商協定を持っていなかった国との優先交渉国として、米国と豪州、ニュージーランドを選び、豪州とは6月に貿易協定の合意に至った。英政府はAUKUSの発表文で「ファイブ・アイズを通じて情報共有している3カ国による信頼と協力の表れだ」と言及した。

英シンクタンクの調査などによれば、EUとの関係改善を求める国民がなお多く、インド太平洋地域への関与に理解は広がっていない。EU離脱を正当化し、国威発揚を図るためにもジョンソン政権が英連邦など手持ちの「外交資産」を活用していくのは間違いない。

豪州も米国や旧宗主国の英国への回帰を鮮明にする。2016年に仏政府系企業との事業実施を決めたターンブル首相(当時)は18年8月に退陣。同年9月には技術移転を巡る交渉が行き詰まり「政権内で仏計画を擁護する動きがなくなっていった」(豪戦略政策研究所のピーター・ジェニングス所長)という。

今年2月にはレイノルズ国防相(当時)が仏企業の国内調達計画に「不満を抱え失望している」と表明していた。バーミンガム金融相によると、豪州が仏企業との潜水艦事業にこれまで費やしたのは24億豪ドル(約1900億円)で、支出がさらに増える前の撤退を探っていたとみられる。米英の原潜技術を使った場合、原子炉の燃料交換が不要で、商用原発を持たない豪州でも運用が可能となったことも大きい。

米中の覇権争いで、世界の外交・安保政策は大きな構図が固まりつつある。この中で、ジョンソン首相は独自策として英連邦の再結束に活路を求めた。日本も同盟国や友好国との連携を強めるなど、存在感向上のための外交戦略が求められる。

(ロンドン=中島裕介、シドニー=松本史、ワシントン=中村亮)

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伊藤さゆり
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 研究理事
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ひとこと解説

CPTPPへの加盟申請も「グローバルブリテン」戦略の具体化の1つ。CPTPPの高いスタンダードを満たす意思と能力が認められ、加盟協議の開始に漕ぎ着けており、順調に進展しています。

高い軍事力・諜報能力を有し、インド太平洋地域に深い関わりを持つ英国を失ったEUは、この地域では劣勢です。

ジョンソン首相は「グローバルブリテン」のような大きなビジョンを描き具体化する能力には長けているものの、英国内ではEU離脱後の移民ルールの変更による人材不足も一因となって、生鮮食品やガソリン供給の不足が生じています。

外交面での華やかな成果も生活に関わる問題が生じていては、国民の高い支持は得られないでしょう。

2021年9月29日 7:48 (2021年9月29日 7:57更新)

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渡部恒雄
笹川平和財団 上席研究員
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分析・考察

米国にとっては、自国の原子力潜水艦の退役の時期を見据え、財政的な制約もあり、オーストラリアが太平洋や南シナ海で、原潜を運用できるようになれば、中国との軍事バランスを不利にせずに維持できると考えていると思います。

英国は米中の対抗・競争関係が長期化する中で、世界の地政学がインド太平洋地域を中心に動いていくため、そこに関与していきたいと考えていると思います。今回のことは米国がインド太平洋地域に長期的に軍事関与をしていく意志の表れですので、日本としては歓迎すべきことです。

そもそも日本は中国との最前線に位置していますから、逃げも隠れもできないという自覚が必要だと思います。

2021年9月29日 8:57 』