日本大使館、「丸腰」の限界 アフガン退避が残した教訓

日本大使館、「丸腰」の限界 アフガン退避が残した教訓
本社コメンテーター 秋田浩之
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD261O20W1A920C2000000/

※ もの事というものは、必ず「陰陽の両面」がある…。

※「丸腰」だからこその、「プラスの側面」ということもある…。

※ これが、憲法九条をかなぐり捨てて、強力な「軍隊」持った「普通の国」になったとして、そこには、必ず「軍備を持った国ゆえのマイナスの側面」というものも、ある…。

※ 一体、何を拾って、何を捨てることが、本当の意味での「国家・国民」の「幸福」につながるのか、「一時の興奮」に左右されること無く、慎重に、熟慮に熟慮を重ねる必要がある…。

※ むろん、「情勢の状況判断」「情勢の読み取り」が、死命を制することになる…。

※ 情報収集、分析・解析こそが最重要事項となる…。

『イスラム主義組織のタリバンに敗れ、アフガニスタンから米軍が撤退してからまもなく1カ月。この危機をめぐっては、日本政府の対応もさまざまな批判を浴びた。

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その一つがアフガン人職員らを残したまま、日本大使館員が退避したことだ。改めて検証すると、治安が崩れた地域でどう在外公館を維持し、任務を続けるかという体制問題に行き着く。

英軍機に救われ、日本大使館員12人がドバイに出国したのは8月17日。政府によると、出国を望む邦人の退避は終えていたが、アフガン人職員と家族ら約500人は残された。

日本は26日、自衛隊機を送り、これらの人々を救出する手はずも整えたが、直前に自爆テロが起き、失敗に終わった。  

このてん末について、アフガン人職員を置き去りにして、日本人館員だけが逃げたのはおかしいという批判が上がった。 米英仏独などは8月15日のカブール陥落後、大使館の機能をカブール空港内に移した。そして少なくとも自爆テロの26日まで、大使館員らが自国軍や米軍と連携し、アフガン人の退避にあたった。

なぜ、日本政府も同じようにできなかったのか。当時の状況に光を当てると、精神論だけではすまない現実が浮かび上がる。長年、アフガンで戦争をしてきた米英仏独などと異なり、事実上、日本の大使館員は「丸腰」だったのだ。

米欧主要国は空港に安全拠点

米英仏独などの米欧主要国は北大西洋条約機構(NATO)として長年、アフガンに軍を展開し、戦争を続けてきた。カブール陥落後、NATOは空港内に安全拠点を確保し、司令部を移転。米軍などの厳重な警備の下、約800人の人員も配置した。英独仏などの大使館員が空港に残れたのは、こうした安全拠点に頼れたからだ。

米欧主要国はアフガニスタンで軍の展開、戦闘を続けてきた(2018年3月、ドイツの兵士ら)=ロイター

しかし、日本はNATOメンバーではなく、戦闘作戦に参加したこともなかったため、NATO拠点を使えない。しかも空港は救出を求めるアフガン人が殺到して一時、大混乱となり、テロの危険にもさらされた。大使館を移すどころか、日本人館員が自分の身を守るのもままならない。

そこで日本政府は米側に頼み、カブール空港内の米軍施設の一角を間借りさせてもらい、日本大使館首脳を配置する道もひそかに探った。

だが、米軍は緊迫する空港の治安維持と、十数万人にのぼる自国の退避作戦で能力は限界に。米側からは「空港内で、日本大使館首脳の安全を保証することは難しい」という返答だったという。

治安が乱れる空港内で、日本大使館員に安全な残留場所はなかった。この点は韓国も同様で、同国大使館員もいったん、国外に退避している。

日本は24日、アフガンの日本大使館員を含めた政府職員を再び、カブール空港に送り込んだ。この際には自衛隊の精鋭部隊が一緒であり、自前で安全を守れる体制を整えた上でのことだ。

英仏との協力も重要

日本は、アフガン戦況を巡る情報収集でも米欧にハンディがあった。カブール陥落前、日本は他の主要国と一緒にグリーンゾーンと呼ばれる市内の安全地帯に大使館を構えていた。

米英独仏などはNATO司令部や自国軍から直接、日々の戦況情報が入ってくる。日本も独自にそれらの情報を得てはいたが、「質量や入手のスピードには差があった」(日本政府関係者)。この違いも、日本と米欧の初動の差の一因となった可能性がある。

日本はアフガンだけでなく、中東やアフリカなど情勢が不安定な国々にも在外公館を置いている。11年、内戦となったコートジボワールでは日本大使公邸が襲撃され、フランス軍にかろうじて救出してもらった。

首都カブールはタリバンの制圧後もデモに参加する市民との衝突など不安定な状態が続く(7日)=ロイター

アフガンの教訓を今後、どう生かしたらよいか。日本人や現地職員の退避計画を用意しておくことは当然だとしても、想定外の事態が起きることも十分考えられる。

邦人や現地人協力者を退避させる必要が生じても、今回のように自衛隊機を送れるとは限らない。いざという場合に備えて、米欧などとも協議し、緊急時に協力を得られる手はずを整えておく必要もあるだろう。

米国だけでなく、英仏との協力も重要だ。例えば、「フランスは中東やアフリカで対テロ作戦を展開しているほか、旧宗主国として仏軍を駐留させている地域もある」(外交筋)。

NPO法人「海外安全・危機管理の会」の菅原出・代表理事は語る。「不安定な国々では最悪の場合、日本大使館の撤収を強いられることもあり得る。アフガン危機はそんな教訓を残した。そんなシナリオをもとに退避計画を整え、本国も含めて演習を重ねる必要がある。防衛駐在武官を通じ、日ごろから現地や友好国と軍人のネットワークを築いておくことも肝心だ」

日本は経済援助や国連平和維持活動(PKO)、災害支援といった国際貢献を広げてきた。ミャンマーやイラク、ハイチ、南スーダンのように情勢が不安定な国々でも現在、援助活動を続けている。こうした貢献を続けるうえでも、危機に備えた万全の対策が欠かせない。』