対米強硬、悩める中国 習氏も避けたい軍事衝突

対米強硬、悩める中国 習氏も避けたい軍事衝突  

本社コメンテーター 秋田浩之
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD227ER0S1A920C2000000/

『秋の訪れとともに、米中を取りまく攻防が熱を帯びてきた。

9月16日の中国に続き、22日には台湾も環太平洋経済連携協定(TPP)への加盟を申請した。バイデン大統領は24日、日本、オーストラリア、インドとの4カ国首脳による初の対面会議を開き、中国包囲網づくりを急ぐ。

冷え切った米中関係の行方はどうなるのか。表面だけみると、雪解けは難しそうだ。習近平(シー・ジンピン)政権は開き直った姿勢を決め込んでいるからである。
協力に条件付ける中国

米中間ではいま、気候変動や感染症なども含め、あらゆる協力が滞ったままだ。中国は連携に応じる前提条件として、まず米側が態度を改め、すべての対立の原因を取り除くよう迫っている。

この立場は7月下旬、中国入りしたシャーマン国務副長官に王毅(ワン・イー)国務委員兼外相が示した。外交筋によると、8月31日から訪中したケリー大統領特使にも同じ要求を突きつけた。

具体的には、①中国の体制転覆を企てない②発展を妨げない③主権を侵害しない――ことを要求。さらに共産党幹部や中国高官、企業への制裁撤回も迫っている。

つまり、協力してほしいなら、中国に敵対するのをやめなければならないというわけだ。
バイデン政権には到底、のめる要求ではない。米国はオバマ政権時代、気候変動対策への協力を得る代わりに、南シナ海で中国に厳しく対処できず批判を浴びた。

バイデン政権はこの反省から、中国が気候変動対策の協力に応じても、人権や安全保障問題の圧力は弱めない原則だ。米ジャーマン・マーシャル財団の中国専門家、ボニー・グレイザー氏は語る。

「中国は、あらゆる種類の協力に前提条件を付けることで、米国から譲歩を得られると思っている。特に、気候変動問題がそうだ。しかし、米国はそうした駆け引きには応じるつもりはない。グローバルな課題で協力を得るために、米側が中国に他の分野で譲歩することは考えられない」

実際、米政権は9月15日、米英豪による新しい安全保障枠組み「AUKUS」の創設を決め、さらに対中圧力に踏み込んだ。
米と全面対立の余裕はない

ただ、米中対立の基調は続くにしても、緊迫度は変わっていくかもしれない。舞台裏に光を当てると、強硬一辺倒とは異なる習政権の本音も浮かび上がる。これ以上、緊張が高まり、紛争の危険がさらに強まることは避けたいと考えているようなのだ。

興味深いのが9月10日、約7カ月ぶりとなったバイデン氏と習国家主席の電話協議だ。米側が申し入れ、90分間におよんだ。

会話の概要を知る米中双方の関係者によると、バイデン氏はインド太平洋への関与を深めるとしたうえで、米中衝突を防ぐため、両国が危機管理の枠組みづくりに取り組むよう説いた。

習氏は米国の対中政策に不満を示したものの、対話の推進に同意し、前回(2月)ほどには、とげとげしい態度をみせなかった。

バイデン氏、習氏はそれぞれ副大統領、国家副主席だったとき以来、約10年来の知り合いだ。両氏は電話で、米中の地方都市を一緒に訪れた思い出を語り合う一幕もあったという。
バイデン氏(左)と習氏は副大統領、国家副主席の時代からの知り合い(2011年、北京でのバイデン氏歓迎式典)=共同

中国の内政に目を向けると、習氏には米国と全面的に敵対している余裕はない。共産党内の権力を掌握したとはいえ、国内では格差への不満が広がる。米中対立で経済に大きな影響が広がれば、政治基盤も無傷ではすまされない。

習氏への表だった批判は聞かれないが、ここまで米国と敵対してしまったことに党内では不安や疑問の声も沈殿している。宮本雄二・元駐中国大使は分析する。

「習氏といえども今、米国と全面対立するのは避けたいのが本音だ。来年秋に任期延長をかけた共産党大会を控えるうえ、格差問題や巨大IT(情報技術)企業との摩擦も強まり、それどころではない。共産党幹部も、上から下までそうした実情は分かっている」

中国軍もあながち例外ではない。中国軍はオースティン米国防長官との電話協議になお難色を示しているが、8月下旬、局長級の軍事協議にひそかに応じ、対話のチャネルを開いた。

共産党の内情に詳しい中国の政治研究者は「中国軍首脳は今、台湾海峡などで米軍と全面戦争になったら勝ち目は薄いと分かっている」と解説する。

こうした内情を踏まえてか、習氏は9月21日(米東部時間)、国連総会でのビデオ演説で、海外で石炭火力発電所を新設しないと表明した。かねてバイデン政権が求めていた措置で、米国への明らかな秋波だ。

衝突を望まないのはバイデン氏も同じだ。21日の国連演説で「新冷戦を志向しない」と約束。米政権はその3日後、カナダで拘束された中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟・副会長兼最高財務責任者(CFO)を解放した。
融和への転換は難しく

米中は激しい覇権争いのトンネルに入っており、ただちに対立が解け、融和に転じることはあり得ない。米主導の秩序を変えたい中国と、それを阻もうとする米国にはぬぐいがたい不信感がある。

それでも、厳冬ともいえる米中関係が、初冬や晩秋くらいに戻ることはあり得る。その見通しは、表面の攻防をながめるだけでは分かりづらい。厚いよろいに隠された習政権の悩める内実にも、貴重な手がかりが隠されている。

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秋田 浩之

長年、外交・安全保障を取材してきた。東京を拠点とし、北京とワシントンの駐在経験も。北京では鄧小平氏死去、ワシントンではイラク戦争などに遭遇した。著書に「暗流 米中日外交三国志」「乱流 米中日安全保障三国志」。

対米強硬、悩める中国 習氏も避けたい軍事衝突  (10:00)
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