圧力か対話か ドイツの対中政策の行方

圧力か対話か ドイツの対中政策の行方
欧州総局編集委員 赤川省吾
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR240HL0U1A920C2000000/

『ドイツ連邦議会選(総選挙)が26日に行われ、4期16年の任期を終えてメルケル首相は退任する。次期政権の対中政策はどうなるのか。ドイツ政界における外交政策の論客への取材から考察してみる。

足元の各種世論調査では中道左派の社会民主党(SPD)が25%強の支持率で首位。僅差でメルケル首相の保守系のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)が追う。メルケル政権では連立を組むSPDと保守系による接戦だ。続く主要政党では緑の党が15%強、中道・自由民主党(FDP)と極右・ドイツのための選択肢(AfD)が10%強、共産系の左派党が約6%という展開だ。

ドイツの総選挙は政党の得票率に応じて議席配分が決まる比例代表制がベース。過半数の議席を得るには5割近い得票率が必要となる。足元の情勢では左派・中道連立の「SPD+緑+FDP」もしくは保守・中道連立の「CDU・CSU+緑+FDP」という組み合わせが有力だとされる。

連立交渉のカギを握る緑の党とFDPはいずれも人権重視を党の看板に掲げ、中国に批判的な議員が多い。

例えば緑の党の外交担当、ノウリポーア連邦議会議員は対中強硬派の国際ネットワーク「対中政策に関する列国議会連盟(IPAC)」のメンバーだ。欧州連合(EU)の対中制裁を強力に後押しし、2022年開催の北京冬季五輪の外交ボイコットを訴える。取材に「中国と対話は続ける」と語ったものの、人権侵害には沈黙しないと何度も繰り返した。

FDPも中国に手厳しい。「近代的な独裁国家である中国への依存度を下げるべきだ」。同党の外交政策通、ラムスドルフ連邦議会議員(元欧州議会副議長)は取材に語ったことがある。

連立の組み替えで、これまで野党だった緑の党とFDPが与党入りすれば、強権国家により毅然とした姿勢で臨みそうだ。外交対話を探りつつ、非常にゆっくりとしたスピードで中国離れを進めていくことになると見られる。

ところが、そのシナリオが崩れかねない連立構想がある。SPDの党内左派が提唱する共産系の左派党との共闘だ。中道のFDPを外し、「SPD・緑の党・左派党」の左派連合で政権樹立を目指すべきだと党執行部に圧力をかけている。左派党は北大西洋条約機構(NATO)に懐疑的で、ロシアや中国など旧共産圏に郷愁を感じる党員も多い。

社会民主党の首相候補ショルツ氏(写真=ロイター)が党内左派を抑え込み、中道路線を歩めるかが焦点となる

SPDの首相候補ショルツ氏は党内右派の現実主義者。大きな政策変更は望んでいないが、党内左派に押し切られて左派党と組めば外交政策にも影響しかねない。NATO離脱などの激変はありえないが、強権国家には「制裁より対話」を意識したアプローチになるかもしれない。

そもそもSPDは冷戦時代、共産圏との融和を狙った「東方外交」を繰り広げたことがあり、その伝統が勢いを盛り返す可能性がある。

対中政策における論客のひとりが同党のシャーピング元党首だ。EUが対中制裁を発動すると同じSPDのガブリエル元副首相と連名で「破壊的な対立よりも協調の道を選ぶべきだ」と独紙に寄稿した。中国を孤立させるのではなく、対話で自由貿易の世界につなぎとめることが大切だと訴えたのだ。

シャーピング氏に取材すると「難しい関係であればあるほど、対話を続けなければならない」と強調した。制裁で脅すのではなく、むしろ「気候変動やテロ、大量破壊兵器(の削減)などのグローバルな課題」で中国と協力すべきだとも語った。

欧州議会が審議を凍結した中国との投資協定は「批准すべき」だという。中国寄りというよりドイツ企業の利益を代弁した発言のようにも聞こえる。ドイツ国内には中国との投資協定を求める声がそれなりにある。

結局のところ「SPD・緑の党・左派党」のなかでは緑の党の対中強硬色は薄まり、対中政策を巡る米国との温度差が際立つようになるのは間違いない。ドイツからすれば「全方位外交」のつもりでも、中国との対決姿勢を強める英米豪などからみれば「ドイツは弱腰」と映るかもしれない。

危ういのは民主主義陣営の亀裂が強権国家のチャンスになりかねないことだ。欧州の未来を左右するドイツの連立交渉から目が離せない。

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