アラブに広がるナショナリズム サウジ「建国」祝賀

アラブに広がるナショナリズム サウジ「建国」祝賀
イスラム主義に対抗 アラブ民族主義は退潮
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB233AI0T20C21A9000000/

『【ドバイ=岐部秀光】アラブ各国の指導者がナショナリズム(国家主義)を強調し、国民の結束を目指し始めた。サウジアラビアは建国を記念する23日の「ナショナルデー」を国家イベントとして盛大に祝った。アラブ首長国連邦(UAE)は12月の建国50周年を、ドバイで10月1日に始まる国際博覧会(万博)の場で祝う見通しだ。

中東では、イスラエルに圧迫されるパレスチナを念頭に、国家の枠を超えてアラブ民族の連帯を目指す「アラブの大義」という概念があった。だが、パレスチナ問題の長期化とともに、こうした民族主義が薄れている。

各国指導者は「国家」を前面に出すことで、その枠組みを揺るがしかねない過激思想を封じ込める狙いだ。アフガニスタンを制圧したイスラム主義組織タリバンの影響を警戒する。

23日夜、ライトアップされたサウジの首都リヤドの建物はナショナルカラーの緑に染まった。この日は1930年代、初代国王がアラビア語を公用語、イスラム聖典コーランを憲法と定め、建国を宣言した記念日だ。

国の祝日となったのは2005年。当時の国王は、人々の部族優先の考え方を弱め、サウジ国民としての意識を強めようとしたといわれる。盛大な祝賀行事を開くようになったのは、ムハンマド皇太子が大きな権限を握ってからだ。

サウジアラビアのムハンマド皇太子は国威発揚を目指す(8月、サウジ北西部)=ロイター
サウジはこれまで「(メッカ、メディナの)2つの聖モスクの守護者」を強調するイスラム盟主や、アラブの大義を掲げる民族主義のリーダーとしての立場を前面に出してきた。だが、皇太子は「ハイパーナショナリズム(強い国家主義)」(民間シンクタンクの欧州外交評議会の一員だったエマン・フセイン氏)を「脱石油」による国家改造の推進力にする考えだとみられる。

UAEも建国50年を前に火星探査機を打ち上げ、国威発揚に努める。7つの首長国で構成する連邦国家で、住民の大半がアジアなどからの出稼ぎ労働者だ。国民に連帯を強く意識させるようになったのは最近になってからだ。

サウジやUAEとの外交関係の正常化を1月に決めたカタールは、首都ドーハの主要な建物にタミム首長の肖像を掲げ、連帯を呼びかけた。エジプトなど湾岸以外のアラブ諸国でも指導者が国威発揚に傾斜しがちだ。

戦後の中東政治の原動力だったアラブ民族主義は退潮が鮮明だ。UAEはアラブ諸国が足並みをそろえる伝統をやぶり、20年にイスラエルとの関係正常化に踏み切った。

民主主義の先進国と異なり、市民社会が未成熟なアラブ諸国で、指導者が国家主義を強調する動きには危険がともなう。結束を促すため、近隣諸国との対立を演じるリスクもその一つだ。多くのアラブ諸国はイスラム教スンニ派が支配層を占めており、国内で不満を持つ同シーア派など少数派の反発を招く可能性もある。』