「中国との投資協定批准を」ドイツ社民党元党首に聞く

「中国との投資協定批准を」ドイツ社民党元党首に聞く
欧州総局編集委員 赤川省吾
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR2409I0U1A920C2000000/

『ドイツ国防相や、全欧州の社民勢力のとりまとめ役などを歴任したドイツ社会民主党(SPD)のシャーピング元党首はドイツで対中関係の論客として知られる。欧州連合(EU)が中国の新疆ウイグル自治区における人権侵害を問題視し、対中制裁に踏み切ると、同じSPD出身のガブリエル元副首相と連名で「破壊的な対立よりも協調の道を選ぶべきだ」と独紙に寄稿した。人権を重んじる欧州で、なぜ中国配慮ともとれる発言をするのか。真意を聞いてみた。

――EUは中国を体制上のライバルと見なしていますが、あなたは対話にこだわります。SPDの伝統的な東方政策(共産圏融和策)の立場ですか。

「SPD出身のブラント首相(在任1969~74年)のデタント政策はドイツだけでなく、北大西洋条約機構(NATO)内でも激しい論争を巻き起こした。だが(共産圏との)平和的共存への扉を開き、欧州に平和をもたらし、最終的には欧州統合を可能にした。これは(ブラント氏の)東方政策と、(東西ドイツ統一を決断した)コール首相の断固とした判断のおかげだといえる」

「私と中国の接点は1980年代初頭にさかのぼる。飢餓の恐ろしさ、文化大革命の恐怖を知る人たちに会った。それから中産階級は着実に増えた。重要なのは鄧小平氏の改革開放路線で平均余命がほぼ倍に伸び、教育と医療制度が大きく改善されたことだ。これを尊重しなければ、法の支配、公正な競争、あるいは知的財産の保護など我々が解決したい問題について話し合うことができない」

――ドイツ政府はインド太平洋にフリゲート艦を派遣しました。明らかに中国への政治的警告です。

「そう思わない。平和構築を願う意志のシンボルだ。(欧州という)価値観共同体は対極をつくることで存在意義を示すものではない」

――オーストラリアがフランスとの契約を破棄し、英米と協力して原子力潜水艦を配備します。

「どのように安全保障上の利益を追求するか、誰をパートナーに選ぶのかはオーストラリアに決める権利がある。ただ契約済みのものが尊重されなかったことは憂慮すべきだ。これを教訓に欧州は外交・安全保障政策で統合を深めるのが望ましい」

――今後の対中政策のあるべき姿は。

「東アジアの地域的な包括的経済連携(RCEP)で世界最大級の自由貿易圏が生まれる。ドイツおよび欧州はうまい戦略を描かないといけない。環境などを含めた共通ルールが世界経済には必要で、そのためにはパートナーがいる。だからこそ欧州議会は(審議を棚上げした)中国との投資協定を批准すべきだ」

「対中政策では自らの利益を明確に順序づけるべきだ。気候変動やテロ、大量破壊兵器(の削減)などのグローバルな課題で共通の答えを見つける必要がある。これは中国と一緒でしかできない」

――EUは中国を含めた強権国家に人権や法の支配を尊重するよう求めています。この路線に反対ということですか。

「優先順位を間違えてはならない。グローバルな課題、例えば気候変動ではアフリカや南米、そしてアジアと協力して効果的な改善策を見つける必要がある。(中国などと対立に動く)ドイツ、そして欧州は優先順位が曖昧で不完全だ。変わることを期待したい。あらゆる場所で人権と法の支配は守られるべきだ。だが対等な対話とは相手の視点を知り、尊重することでもある。そうでなければ会話が成り立たない」

――EUは人権侵害を理由に中国に制裁を科しました。

「誤った対応だ。難しい関係であればあるほど、対話を続けなければならない。時には明確で厳しい対応が必要だが、外交は(有権者におもねる)内向きの動機でなされてはいけない」

――主要7カ国(G7)で対中制裁に加わっていないのは日本だけです。しかしジャーナリストとして中国における報道の自由には問題があると言わざるを得ません。

「(欧米諸国と日本の)人権や法の支配などを巡る見解の違いはよく知られている。だが日本の方が、相手のメンツを傷つけない外交センスを持ち合わせているかもしれない。1990年代初頭に天皇が訪中した際、第2次世界大戦中の出来事について(直接的な表現を避け)極めて丁寧な言葉遣いをしたが、これは欧州にとって理解しがたいものだった。歴史的、政治的な問題は多面的だ」

――習近平(シー・ジンピン)体制で中国は強権化しました。もはや以前の中国とは違います。私は対話だけで歯止めになるとは思えません。

「少なくとも試してみることはできる。対話と競争、そしてリアリズムに基づいてだ。中国について語るとき、(欧米列強の侵略による)19世紀の屈辱や20世紀の日本の役割、つまり第2次世界大戦中の残虐行為を忘れてはならない」

――欧州はアフガニスタンで民主主義を定着させようとして失敗しました。軍事介入は誤りだったのでしょうか。あなたは介入開始時、国防相でした。

「駐留は間違いではなかった。(米国とイスラム主義組織タリバンが2020年に結んだ)ドーハ合意が決定的な誤りだった。当時のトランプ米大統領が見返りなしに具体的に(撤兵を)約束した。過去最悪の国際合意だ。アフガンでは長年にわたり戦乱が続き、氏族などが入り乱れ、汚職がはびこり、武器があふれ、麻薬(の原料)が栽培されている。法の支配と人権で進展があるには、現地の人たちが望むように長期の包括的な対策が必要だった」

――軍事作戦がこれほど長く続くと予想していましたか。

「20年以上かかると想定していた。民間復興と法の支配の確立が早く進むと思っていたが、残念ながら予想が外れた」

――バイデン米大統領が撤兵を撤回しなかったのが間違いでは。

「評価を避けたい。バイデン氏はトランプ氏のせいで深く分裂した国の大統領になった。彼は政策に優先順位をつけないといけない。それを考慮すれば(撤兵は)理解できる。これは欧州への警鐘だ。欧州はより強く、より包括的なグローバルプレーヤーになるべきだ」

――世界は分断され、強権的な国が増えています。民主主義陣営は、人権や報道の自由、民主主義、男女同権といった価値観をどう守るべきですか。

「(強権国家とは)協力、対話、競争が必要で、どうしても必要な場合には紛争に備える必要がある。対立や見解の相違も指摘できるようにしないといけない。ただ、これは軍事的な衝突を意味しない。非常に丁寧に、できれば外交的に、共通の利益を求めるべきだ。民主主義には絶え間ない闘いがあり、天から与えられるものではない。つねに民主主義の強化を図り、時には防衛することが必要になる」

(聞き手は欧州総局編集委員 赤川省吾)

Rudolf Scharping 社会民主党(SPD)の元党首で、独西部の州首相やシュレーダー前政権の国防相などを歴任した。現在はコンサルティング会社を立ち上げ、ドイツ企業の中国ビジネスを支援する。 』