突然降って湧いたオーストラリア原潜保有の舞台裏

突然降って湧いたオーストラリア原潜保有の舞台裏
フランスを激怒させてまで米英豪同盟構築を急いだわけは
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/67044

『バイデン氏の頭の中は米英豪でいっぱい

 ジョー・バイデン米大統領は9月21日、国連総会で一般討論演説した。

 バイデン氏は、インド太平洋地域で軍事力を拡大している中国を念頭に、「米国はいまも今後も最も重要なインド太平洋に焦点を移す。国際問題の解決を加速させるために同盟国やパートナー国、国際機関と協力する」と述べた。

 就任以来、初めての国連演説でも「米国第一」を掲げたドナルド・トランプ前大統領との違いをアピールした。

 ところが対中戦略では、トランプ前政権とあまり変化はなく、むしろ実質面では背後に控える軍事安全保障ブレーンが立案する強硬戦略を着実に実行しているかに見える。

 そのバイデン米大統領が中国のインド太平洋で展開する米国・同盟国との軍事力強化に本格的に動き出した。

 9月24日にはワシントンで日米豪印4か国の枠組み「クアッド」初の対面首脳会議が開催される。

 それに先立ち、米国、英国、オーストラリアの3か国首脳が9月15日、インド太平洋地域の安定に向けた新たな安全保障の枠組み、「AUKUS」を構築すると発表した。

 米英豪は英語という共通言語、アングロサクソン文化・風習を共有する「従兄弟同士」。第2次大戦以来、結束を保ってきたオールド・パートナーだ。

 その3国が「中国の脅威」に対抗して新たなアングロフォン・デモクラシー(英語を第一言語とする民主主義国家)同盟関係を結んだのだ。

 米英豪首脳の共同声明では、「情報や技術の共有を進め、安全保障・防衛関連の科学技術、産業基盤、サプライチェーンの3か国統合を図る」と謳い上げ、軍事面でもオーストラリアを巻き込んだ対中戦略を構築した。

 オーストラリアはその地理的環境もあり、これまで中国とは緊密な経済通商関係を維持してきた。その一方で安全保障面では米国とは1951年以降、米豪ニュージーランド安全保障条約機構(ANZUS条約)*1を堅持してきている。

 まさに「二股外交」だ。「中国の脅威」が絵に描いた餅の時は米国もある程度黙認してきた。

 ところが今や中国の脅威は「これから未来永劫続きそうな状況になってきた」(豪有力紙ジャーナリスト)。

 オーストラリアの政財官界のエリートの多くが従来の対中外交の変更を求め出した。豪スコット・モリソン政権の対中、対米アプローチは国民からも支持されているのだ。

*1=1951年、豪ニュージーランド、米豪が別々に締結した集団安保に関する拘束力のない協定。86年ニュージーランドが領海内に非核地帯を設けたため、米艦船の寄港を認めず、条約を脱退。2012年に寄港禁止を和らげたため緊張関係が緩和、2007年に条約の主要分野を再開している。』

『豪州は頼りがいのある同盟国

 シドニー大学のジェームズ・キャラン教授(現代歴史)は2017年、ワシントンで会った外交専門家(現在バイデン政権高官)からこう言われたと述べている。

「オーストラリアはアジアを除く世界中至る所で米国にとって頼りになる同盟国だ」

 米中間に揺れるオーストラリアの「二股外交」を痛烈に批判した一言だった。ところがここ3年でオーストラリアは大きく変わった。

 同教授は続ける。

「オーストラリアは国際舞台における中国の独断的な言動を批判するだけでなく、中国を押し返す勢力の先頭に立っている」

「新型コロナウイルスの発生源を独立した機関によって調査するべきだとし、これに怒った中国は対豪輸入制裁措置に踏み切った」

「オーストラリア国民は、経済通商関係があるために中国の横暴さには目をつぶってきたが、ここにきて『中国の脅威』にはやはり米国や同盟国に頼るべきだと考えだした」

「最新の世論調査では、国民の63%が中国を脅威だと答えている。昨年比22%増だ」』

『オーストラリア原潜入手は2030年

 AUKUSが打ち出す具体策の一つとして、米英は「虎の子」だった原子力潜水艦技術を非核保有国であるオーストラリアに供与することを決めた。

 これにより、オーストラリアはこれまでフランスと行ってきた原子力潜水艦の共同開発を一方的に破棄することになった。

 フランスは「同盟国に後ろから切られた」(ジャン=イブ・ル・ドリアン外相)と激怒した。そして、ただちに駐米、駐豪大使を召還した。米国の同盟国の間で亀裂が生じてしまった。

 ところが米英がオーストラリアに提供する原子力潜水艦技術はすぐにはやってこない。前述のキャラン教授は言う。

「原潜第1号が首都キャンベラに届くのは早くて2030年だ。その間、米国から原潜をリースしてもらう協議が進んでいるようだ」

「オーストラリアは原子力技術については全く経験がない。またこの原潜のコストは目の玉が飛び出すような額になる」

「いずれにしてもオーストラリアは米英という核技術国のパートナーになってしまった」
 オーストラリアが原潜を保有した時、インド太平洋地域の軍事情勢はどうなるのか。

 動力に原子炉を使う原潜は通常型よりも長距離潜航が可能になる。

 オーストラリアが原潜を保有すれば、中国が急速に軍事拠点化を進める南シナ海はじめインド太平洋地域での米国の抑止力を補完する「助っ人」になるわけだ。』

『いかに日米軍事同盟化を進めても日本にはできることとできないことがある。憲法上・法律上の制約がある。

 万一、台湾有事があったとしても自衛隊が米海軍第7艦隊と一緒に直接軍事行動をとれるわけではない。

 日本ができるのはあくまで後方支援。そこへいくと豪原潜は米軍と行動を共にすることができる。

AUKUSは敵撃退のためのトーテムポール
 オーストラリアが原潜を実際に保有できるのは、20年後の2041年だという説も出ている。

 シドニー・モーニング・ヘラルドの国際部長、ピーター・ハートチャー氏はこう指摘する。

「AUKUSは実は条約ではない。敵を撃退させるためのトーテムポールのようなものだ。原潜技術を提供することばかりが騒がれているが、モリソン政権(の政府高官)によれば、オーストラリアが原潜を保有するのは20年後だというではないか」

「米英がちらつかせている原潜技術は、戦闘能力、収斂性のある利益、そして信頼の3つに基づく三国同盟を誇示するシンボルだということだ」

「原潜の話は脇に置くとして、AUKUSで米英豪は、3つのアングロフォン・デモクラシーが軍事、産業、科学核分野での能力を結集させて、共通の目的のために一丸となって戦うことを誓い合ったのだ」

「具体的には量子、サイバー、AI(人工頭脳)、巡航ミサイル技術で米英豪が共同研究開発することを意味している」

(https://digichat.info/as-the-world-reorders-itself-to-resist-china-its-a-pity-the-latest-move-was-so-boofheaded/)

 米英豪はそれほど「中国の脅威」を感じている。それは目先の南シナ海や尖閣諸島周辺での軍事活動だけではないのだ。』

『米軍、豪州巡回駐留の規模拡大へ

 バイデン政権にとっては、目先のこともむろん重要だ。

 米国とオーストラリアは9月16日には、ワシントンで外務・国防閣僚協議(2プラス2)を開催し、豪州に巡回駐留する米軍の規模拡大で合意した。

 インド太平洋で安全保障連携を強化し、急速に軍事力を拡大する中国に対抗する狙いがある。

 ロイド・オースティン米国防長官は協議後の記者会見で、こう述べた。

「米豪双方は豪州での米軍プレゼンスを拡大する重要な軍事態勢構想で一致した」

 またピーター・ダットン豪国防相はこう述べた。

「米豪は、軍の態勢をめぐる協力を大幅に強化し、相互運用性を高めつつ、インド太平洋での同盟活動を深化させる。具体的には、あらゆる種類の米軍機の巡回駐留を認めることで、航空戦力の協力を拡大する」

「(豪政府がフランスと合意していた次期潜水艦の開発計画を白紙化し、米英両国から原潜建造支援を受けることについては)国家安全保障とインド太平洋の平和にとっての最適解に基づいて決断した」

 オーストラリアはフランスをこれほど怒らせていながら、どこか冷静だ。何か根拠があるのだろうか。

 AUKUS設立についてのと米元外交官のアジア通はこうコメントしている。』

『「米国はクアッド首脳会談前にAUKUSを設立しようと焦った。クアッドの責任者であるカート・キャンベル調整官が『首謀者』ではないのか」

「フランスはインド太平洋地域には無縁だ、とも考えているのだろうか」

「フランスは太平洋地域のニューカレドニア(特別共同体)や仏領ポリネシアを持っている。小規模だが軍隊も駐屯している」

「日米の合同演習にも艦船を参加させている」

「仏豪の原潜開発の経緯も進展具合についての詳細は分からないが、オーストラリアが馬を乗り換えたことだけは間違いない」

「せっかくクアッドやAUKUSで中国包囲網を作り上げてようとしている矢先にフランスを怒らせる。しばらくは米国とフランスとの関係がぎくしゃくするのは避けられないだろう」

「敵(中国)に塩を送るとはこのことだ」

「アフガニスタン撤退の時のぶざまさといい、今回といい、どうもバイデン政権のブレーンの中には外交の機微を知らぬ、思い上がった高官がいるようだ」

 9月24日、菅義偉首相がクアッド首脳会議出席のためワシントン入りする。総理大臣としての最後のお務めだ。

 激動の世界で1年間、本当にご苦労様でした。』