[FT]米失業給付の上乗せ終了 人手不足解消は期待できず

米国で数百万人が受給していた連邦政府による失業保険給付の上乗せは9月6日に終了したが、就業者の大幅な増加につながる可能性は薄いことがフィナンシャル・タイムズ(FT)の分析やエコノミスト、業界アナリストによる調査から浮かび上がった。

米クリーブランド連邦準備銀行のメスター総裁は9月、子どもの世話が復職の妨げになっている可能性が高いとの認識を示した=AP

9月までの特別加算措置により失業者は2021年、州による失業給付に加えて連邦政府から週300ドル(約3万3000円)を受給していた。その終了で750万人超が新型コロナウイルス禍対策の特例措置を受けられなくなった。

給付打ち切ったほうが雇用増の結論導き出せず

連邦政府による追加給付は政治的対立を招き、多くの共和党幹部は失業者の復職を妨げ、経済回復を阻む全国的な人手不足を悪化させていると主張していた。

6月に22州が上乗せを前倒しで打ち切り、夏の半ばまでにさらに4州が追随した。図らずも、継続している州との対照実験のような状況に至った。

FTが米労働省の月次統計をまとめたところ、追加給付を打ち切った州は継続した州よりも早く雇用が増加したという結論は導き出せなかった。多くの州が上乗せの早期終了を打ち出した5月から8月までの非農業部門の就業者数の増加率は、両グループとも約1.3%だった。

「失業給付が労働力の供給と雇用の増加を妨げていたとの捉え方は完全に間違っている」と英調査会社オックスフォード・エコノミクスのチーフ米国エコノミスト、グレゴリー・デイコ氏は指摘する。「確かに要因の一つではあったが、唯一の要因ではなかった」

20年の大部分を通じて、連邦政府は失業給付に週600ドルを上乗せした。インターネット経由で単発の仕事を請け負うギグワーカーやその他の自営業者、パートタイムで働く人も、コロナ禍の影響で雇用に制約を受けた人々とともに補償を受けていた。

米投資調査会社エバーコアISIのピーター・ウィリアムズ氏によると、それらすべてを合わせた20年3月~21年8月の給付額は8500億ドルに上る。

連邦政府による特例措置の終了は労働市場の回復の重大な局面と重なった。旺盛だった雇用の拡大が8月に失速し、わずか23万5000人の増加にとどまったのだ。

それぞれ約100万人の雇用増となった6、7月からの大幅な減速で、何が人々の復職を妨げているかが大きな焦点となっている。

10代の就職増加、実態を隠す要因にも

追加給付の早期終了はわずかながら失業者の復職を促したとする調査結果も出ている。だがエコノミストらは、そうした効果があったとしても大きくはなく、一時的なものであるはずだと警鐘を鳴らす。雇用の回復を妨げている深刻な人手不足は解消しにくいものであることをうかがわせる。

求人情報サイトを運営する米インディードのチーフエコノミスト、ジェド・コルコ氏は連邦政府の雇用統計の分析から、5~8月の失業者の減少ペースは追加給付を打ち切った州のほうがわずかに速くなっていたことを突き止めた。

だがその差は、追加給付を継続した州での雇用増によって縮まっていた。そうした州での就業者の増加は、失業者よりも労働市場の外にいた人々(積極的に求職活動をしていない非就業者)によるものだった。

そうした州では欠員を埋めるのに10代の若者が大きな役割を果たした。米マサチューセッツ大学のアリンドラジット・デュベ教授(経済学)は、追加給付を継続した州では7月に10代の就職者数がほぼ2倍の水準に及んでいたことを明らかにした。

同教授によると、一部の州では新たに労働市場に加わる人たちが満たしていたかもしれない求人を失業者が満たす「混雑効果」が生じる恐れが懸念材料だという。

「雇用の創出ではなく職を得る人を代えるというようなもの」で、雇用状況が実際よりよくみえることになっているかもしれないという。

米コロンビア大学の研究者カイル・クームス氏とデュベ教授らの研究チームは4月時点で失業給付を受けていた低所得労働者1万8000人余りの、匿名を条件にした銀行口座記録を対象に調査した。調査に基づいた同チームの最近の研究論文によると、連邦政府の追加給付を早期終了した州の雇用状況にはわずかな差しか表れていないという

8月までに、追加給付を継続した州では調査対象者の22%が復職した一方、打ち切った州では26%が復職していた。

子どもの世話も復職の妨げに

復職を難しくしているのは、むしろ他の諸要因だ。追加給付を早期終了した諸州は、インド型(デルタ型)の変異ウイルスによる打撃が特に大きい地域と重なっている。8月にこれらの州でレジャー・ホスピタリティー分野の雇用が減少する一方、それ以外の州では増加した。

「多くの人の復職を妨げているのは、恐らく実生活とコロナ禍に伴う日常生活の変化だろう」とみるのはスイス金融大手クレディ・スイス・グループのチーフ米国エコノミスト、ジェームズ・スウィーニー氏だ。「労働供給が実態を伴うように変わるには、感染が減ってコロナ禍に対する人々の恐怖感が薄れる必要がある」

米クリーブランド連邦準備銀行のメスター総裁は9月、子どもの世話が復職の妨げになっている可能性が高いとの認識を示した。学校再開でそうした制約が和らぎ、さらなる労働市場の拡大につながるはずだという。

追加失業給付の終了が労働市場にもたらす影響は限定的にとどまることを踏まえて、エバーコアのウィリアムズ氏は当面の雇用増を多くても月間20万~25万人にとどまると予測している。

エコノミストたちは今、コロナ禍前よりも失業者が530万人多い状況の中で、支援の縮小がもたらすかもしれない影響を検討するようになっている。

「追加給付の終了は、各世帯の雇用状況を改善するより、家計に打撃をもたらす恐れがある」とオックスフォード・エコノミクスのデイコ氏は警鐘を鳴らす。

By Colby Smith & Christine Zhang

(2021年9月22日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

(c) The Financial Times Limited 2021. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.英フィナンシャル・タイムズ(FT)と日経新聞の記者が、アジアのテクノロジー業界の「いま」を読み解くニュースレター「#techAsia」の日本語版をお届けします。配信は原則、毎週金曜。登録はこちら。
https://regist.nikkei.com/ds/setup/briefing.do?me=B009&n_cid=BREFT053