[FT]パイプライン稼働狙いか ロシア、対欧ガス供給制限

[FT]パイプライン稼働狙いか ロシア、対欧ガス供給制限
IEAは供給拡大を要請
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB225M20S1A920C2000000/

『国際エネルギー機関(IEA)はロシアに対し、欧州向けの天然ガス供給量を増やすよう要請した。エネルギー危機の解消に向けた協力を求めた。ロシア政府の意向で供給が制限されているというトレーダーや外国当局者の指摘に、主要国際機関の一つとして初めて対応した。

ノルドストリーム2に使うパイプを用意する作業員(2019年9月)=ロイター

パリに本部を置くIEAは、ロシアは欧州のユーザーとの長期契約を履行しているが、供給量は新型コロナウイルスの感染が拡大する前を下回る水準に低迷していると指摘した。

冬場を前に欧州の在庫は低水準

IEAは「欧州で利用できるガスの量を増やし、暖房需要が高まる冬場に備えて十分な量を貯蔵するうえで、ロシアにできることはもっとあると信じる」と主張した。IEAは主に経済協力開発機構(OECD)加盟国の資金拠出を受け、エネルギーを巡る政策や安全保障について助言する(石油やガスの消費国の利益を代表する組織だ)。

「ロシアは、欧州の頼れる供給元として行動する好機を迎えた」

欧州議会の一部議員は、ロシアの国営天然ガス会社で輸出を独占するガスプロムの調査を要求している。外国当局者やトレーダーは、ガスプロムが欧州向けのスポット市場で出荷増を渋っている理由を把握していない。これが価格の急騰を招き、家計の負担を高め、欧州全域の産業を揺るがしていると主張する。

ガスプロムはまた、欧州で管理する地下貯蔵施設におけるガスの在庫を過去数年よりも少ない水準に抑えている。これにもトレーダーらは懸念を募らせる。

ガスプロムのアレクセイ・ミレル最高経営責任者(CEO)は先週、同社が供給義務を果たしており、必要に応じて増産する用意があると明かした。だが、地下貯蔵施設での在庫が少なく、価格は冬場、一段と上昇する可能性があると付け加えた。

ガス価格は20日の取引でさらに上昇した。ガスプロムがウクライナ経由での10月分の輸出量について追加予約を見送ったうえ、ポーランドを通るガスパイプライン「ヤマル」については輸送容量の3分の1しか予約しなかったことが買い材料になった。

ウクライナを迂回するノルドストリーム2

ロシアは、ドイツに天然ガスを運ぶ新たなパイプライン「ノルドストリーム2」の操業開始を急いでいる。最近完工したこのパイプラインは(ウクライナを通過しないため)、ウクライナを経由するガスの流れを変えるため、議論の的になっている。ロシアは2014年から、ウクライナ東部の国境地帯で(親ロシア派武装組織を使った)代理戦争を(ウクライナ政府軍と)展開している。

ガスプロムとロシア当局は、ドイツと欧州連合(EU)がノルドストリーム2の稼働開始を承認すれば、ロシアはすぐに(このパイプラインを使った)ガス供給を始められると主張してきた。ロシアが、この承認を早めようと、いまのルートでのガス供給を制限しているという疑惑が強まっている。

アラブ諸国が1970年代に発動した石油禁輸措置を機に設立されたIEAは、足元のガス価格上昇の責任をロシアだけに負わせてはいない。アジアで液化天然ガス(LNG)需要が高まり、供給先として欧州よりもアジアの存在感が強まるにつれ、世界で需給が逼迫したとIEAは説明する。

IEAは、再生可能エネルギーの台頭がガス価格高騰につながったとの見方は間違いだと指摘した。欧州ではこの夏、風が弱くて(風力発電が十分に機能せず)、かわりにガス需要を高める一因となった。

「天然ガスの国際価格が上昇している背景には複合要因がある。クリーンエネルギーへの移行に責任があるというのは不正確で、誤解を招く」というのがIEAの見解だ。

フランス経済省で石油・ガス部門の顧問を経験したパリ政治学院のティエリー・ブロス教授は、IEAが「業界でかねて議論されてきたが欧州の多くの政治家がなかなか手をつけなかった問題に焦点を当てている。それは、足元のエネルギー危機でロシアが担った役割だ」と語った。

「いろいろな意味で、IEAは安全な供給を確保するという設立当初の目的に立ち返っている」

ガス価格は今年、3倍以上に値上がりしたが、欧州の政治家はロシアの責任追及に、時として消極的だった。だが、欧州議会の一部議員は、今回の危機でガスプロムがどう動いたか調べるよう求めている。

事情に詳しい関係者によると、ロシアのプーチン大統領は、国営石油会社ロスネフチがノルドストリーム2を通じ、欧州にガスを供給することを認める方向で検討している。IEAによるロシアへの供給拡大の要請は、このタイミングと重なった。

ウクライナ情勢について質問に答えるロシアのプーチン大統領(7月、同国北西部サンクトペテルブルク)=ロイター

関係者によれば、ノバク・エネルギー相はプーチン氏への最近の報告で、ロスネフチがガスプロムの輸出輸送施設を使い、年100億立方メートルのガスを輸出することを認めるよう提言した。

この量は、ガスプロムが21年、旧ソ連の域外へ輸出した1390億立方メートルのガスに比べればわずかだ。だが、ロシアの国内市場より大きなもうけが見込める輸出先をガスプロムが独占する現状を大きく変えることを意味する。

プーチン氏と関係の深い国営2社が争う

ロシアは欧州側と、ノルドストリーム2を経由するガス供給の長期契約を結びたいと考えている。このパイプラインを使えばガス価格を引き下げられるという。

ロスネフチとガスプロムはいずれも、プーチン氏の古い友人が経営権を握っている。

何年も前からガス輸出への参画を目指してロビー活動を続けてきたロスネフチのイーゴリ・セチンCEOは、同社がノルドストリーム2経由の輸出を始めれば、ガスが記録的な高値となっている現状では、ロシアが収益を増やすことができると主張する。そうすれば、ガスプロムにノルドストリーム2の輸送容量の5割を第三者に開放するよう義務付けるEUのエネルギー規制に従うことにもなる。

ガスプロムは、プーチン氏への報告のなかで、ガス価格の高騰が22年までは続かないかもしれないとの理由で、ガス輸出へのロスネフチの参入に反対した。この報告の内容はまず、ロシア紙コメルサントが報じた。

ロスネフチとガスプロムはコメントを拒否した。ロシアのエネルギー省もこの件に言及していない。

米国務省でエネルギー安全保障担当シニアアドバイザーを務めるアモス・ホッホシュタイン氏は9月、取材に対し、ロシアが「過去に比べ、供給量を絞り込んでいる」と分析した。このため、この冬の欧州が厳しい寒さに見舞われた場合は「人命が危険にさらされる」との厳しい見方を示した。

By David Sheppard, Max Seddon & Nastassia Astrasheuskaya

(2021年9月22日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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