[FT]中国不動産暗転、経済全般に波及

[FT]中国不動産暗転、経済全般に波及
政策当局は不動産価格抑制と融資規制で長期戦の構え
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM216K60R20C21A9000000/

『ほんの数週間前まで、中国東部の山東省・済南市にある3件の住宅開発プロジェクトの販売は好調だった。だが、例年なら新築住宅販売が繁忙を極める9月に入り、そのムードが冷え込んでいる。

中国恒大集団が開発を進める洛陽市の集合住宅街。8月の新築住宅価格は前月比0.2%の上昇にとどまり、開発業者は販売に苦戦した =ロイター

当局が住宅ローンの引き締めに動くなか、プロジェクトの販売は横ばいないし減少しており、デベロッパーは多少の損失を出しても成約にこぎ着けようと値引きに動いている。

中国電建地産集団の済南支部で不動産仲介を担当するチョウ・ミャオ氏は「政府の政策は住宅購入を支援していない」と語る。「多くの人は当局がいずれ融資規制を緩和すると見込んで、住宅購入の計画を来年に先送りしている」という。

900万人の人口を擁する済南市の状況は、中国全土の不動産セクターに広がる冷え込みの一端にすぎない。不動産分野は数十年にわたって中国の経済成長を支えてきたが、現在は不動産融資の抑制や価格統制を目指す中国政府の圧力を受けている。

世界最大の負債を抱える不動産開発会社で、中国の都市化を進めるテコの役割を果たしてきた中国恒大集団が経営危機に直面している。このことは、中国の経済モデルの重要な部分に対応する政府の不安定な立場を浮き彫りにしている。

中国政府は新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)に当初は利下げで対応したが、ここ1年は特に不動産開発会社の借り入れを厳しく制限し、資産バブルのリスクの芽を摘もうとしている。

政府はまた、住宅ローン融資に制限を加え、大都市の家賃に上限を設けている。済南市では住宅ローンの審査に2カ月はかかるとされる。当局が融資に独自の制約を課しているためだ。

先週発表された公式統計によれば、8月の中国の主要70都市の新築住宅価格は前月比0.2%上昇と、8カ月ぶりの低い伸び率にとどまった。他の統計も、土地取引の急減を浮き彫りにしており、政府の施策が効き始めている状況が明らかに示されている。

米金融大手バンク・オブ・アメリカ(バンカメ)によると、多くのエコノミストは、この不動産指標の減速は中国の国内総生産(GDP)の28%を占めるセクターに深刻なリスクをもたらすとみている。不動産セクターはコモディティー(商品)需要や労働需要、借り入れ需要の規模から、世界で最も重要な景気指標の一つになっているという。

70年代のFRBの政策に類似

ただ、野村の中国担当チーフエコノミスト、ティン・ルー氏は「今回はこれまでとは違う」とみている。同氏は最近、中国の不動産統計の「急速な悪化」を指摘し、1970年代の米国でインフレ抑制に動いたポール・ボルカー元米連邦準備理事会(FRB)議長の金融政策と類似性があると見ている。

香港の恒大集団の物件広告の前を歩く女性。同社の債務危機で、中国経済における不動産の重要性が明らかになった =ロイター
「深刻なリセッション(景気後退)や金融危機が起きれば、もちろん(当局は)ある程度規制の手を緩めるだろうが、まだそこまではいっていない」という。

ルー氏は、8月の新築住宅販売件数が30都市で前年同月比24%減少し、100都市で土地使用権の販売高が53%急減したという統計に注目している。いずれの指標も9月上旬にはさらに悪化したという。

販売の落ち込みは恒大集団にも打撃を与えている。約2兆元(約34兆円)の負債を抱える同社は、サプライヤーや債権者への支払い義務を果たすため、現金を切実に必要としている。先週はデフォルト(債務不履行)の見通しが高まるなか、怒った投資家が資金の返還を求めて深圳市の本社に押しかけた。

9月15日、ローンや金融商品の返済を求めて広東省深圳にある恒大集団本社の前に集まる人々=ロイター

恒大を取り巻く問題は、中国の金融システムに対する不動産セクターの重要性を浮き彫りにしているが、同社や何百という国内の同業他社の弱さは経済全般にも深刻な影響を及ぼすだろう。不動産投資は2020年に7%増加し、他の主要国を上回る不動産主導の景気回復を支えた。

そうした経済的な貢献の裏側には不安定化の兆候があり、規制当局による警告につながった。深圳市などの大都市で価格が急騰するなか、政府は不動産開発会社の負債を制限する「レッドライン」を発表するとともに、今年初めには銀行の住宅ローン融資に制限を設けた。

物件を値下げする香港の不動産業者=ロイター

ここ数年、中国は住宅投機の抑制に動いている。王蒙徽・住宅都市農村建設相は1月、中国は不動産を景気の下支えには使わないと発言し、住宅は投機ではなく「居住」のためのものだとする習近平(シー・ジンピン)国家主席の17年のスローガンを改めて強調した。政府は最近、先の規制が意図しない価格上昇を招いたことを受け、大都市における土地の入札を中止した。

不動産は「共同富裕」の要

バンカメのアジア経済調査責任者、ヘレン・チャオ氏は「今回、政策当局は信用抑制策をより粘り強く堅持しようとしているようだ」との見方を示した。不動産の減速は「主に政策引き締めに起因する」という。

中国政府はその一方、「共同富裕」を推進するうえで不動産は重要な部分であると考えている。住宅都市農村建設省は先週、同セクターを3年かけて調査すると発表し、従来の教育やハイテクなどさまざまなセクターの管理を強める政府の取り組みを一段と強化した。
中国経済は、パンデミックからの裾野の広い景気回復はまだ不完全であるうえ、最近の新規感染の増加に伴う混乱で長引く消費の弱さが露呈している。その状況で、経済に掛かる圧力が一段と高まっている。

野村のルー氏は、土地購入の落ち込みが、不動産投資や建材需要だけでなく、開発会社に土地を販売する地方政府の収入にも重くのしかかるとみている。だが、「共同富裕」の推進と、不動産に対する中国政府のアプローチとの関連を指摘する向きは少なくない。

豪投資銀行マッコーリーの中国担当チーフエコノミスト、ラリー・フー氏は「中国政府が考えているのは、経済的な点だけではない」と指摘する。「悪い統計が2~3カ月程度続いても(金融政策が)緩和されることはない」という。

膨大な経済活動や雇用、富を創出してきたセクターの長期的な弱さに中央・地方政府がどう対処するのか、統計以外ではまだはっきりしていない。済南市のあるプロジェクトでは、発売から2年程たった集合住宅の3分の1がいまだに売れ残っている。販売単価は1平方メートルあたり1万9100元と、採算ラインとされる2万元を下回っている。

「当社の最優先事項はキャッシュフローの改善だ」。開発会社の関係者はこう語った。「収益性は二の次」

By Thomas Hale and Sun Yu

(2021年9月21日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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