恒大処理が占う「習経済」

恒大処理が占う「習経済」 危機回避と格差是正で苦悩
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【北京=川手伊織、羽田野主】中国共産党の習近平(シー・ジンピン)指導部が中国不動産大手、中国恒大集団の経営不安への対応に苦慮している。中国の格差問題の是正をめざして富裕層たたきをする中で、巨大企業グループの救済には安易に踏み込めない。金融危機の引き金を引けば、2022年秋の党大会で習氏の3期目の続投にも響きかねない。

中国共産党の機関紙、人民日報は21日付の1面で恒大集団に一切触れなかった。官製メディアは一様に政府の対応に口をつぐんだままだ。

習指導部が静観するのは格差是正へ「共同富裕(ともに豊かになる)」のスローガンを掲げたことと無関係ではない。富裕層からの所得再分配を強化し、貧困層を引き上げるとともに中間層を分厚くする構想だ。その実現へ規制を強めるのが富裕層の投機対象になりやすい不動産だ。

中国では昨年、新型コロナウイルス対応の金融緩和で不動産価格が高騰。不動産シンクタンクの易居不動産研究院によると、中国主要50都市の不動産価格は20年時点で平均年収の13倍と、15年の10倍から跳ね上がった。

価格高騰で都市部の生活コストは高止まりし、市民は不満を募らせている。金融危機の回避を優先して恒大を支援すれば、習指導部は結局、不動産投資でもうけてきた富裕層を守るのだと国民に受け取られかねない。

一方で中国国家統計局によると21年1~6月の国内総生産(GDP)のうち不動産業は7%を占める重要産業だ。これが揺らげば中国経済全体への影響は大きい。

投機の過熱を警戒した中国当局は昨年夏に不動産業界の資金調達規制を導入、住宅ローンの総量規制などで消費者のマンション売買も制限した。不動産会社は金融機関からの資金調達も売却による回収も難しくなり、資金繰りが急速に悪化。中国工商銀行の不動産向け不良債権比率は6月末に4.29%と前年同期の1.41%から急上昇した。

不動産向け融資は銀行融資全体の約2割を占めており、恒大が行き詰まれば連鎖的に中国の金融システム不安が高まる懸念がある。ただ習指導部の経済運営方針から、恒大を即座に支援することは考えにくい。

市場関係者は「広東省の国有企業などが資本支援に乗り出すとしても、恒大が非中核資産の売却を終えてからだ」とみる。金融当局が窓口指導を通じて恒大への売掛債権を持つ建設会社などの資金繰りを支えるなどの方策はありうるが、市場の不安解消にはほど遠い。

一方で中国政府は資金ショートによる恒大の唐突な破綻を警戒しているとの見方もある。米ブルームバーグ通信は先週、「住宅都市農村建設省が主要債権銀行に『20日が期限の利払いを行わない』と伝えた」と報じた。

習氏の沈黙の背景に、同氏が距離を置く党の青年組織、共産主義青年団(共青団)と恒大のつながりを指摘する声もある。

恒大集団が創業した広東省は「共青団の地盤」といわれる。習氏は党内を1強で固めるが、共青団の流れをくむ李克強(リー・クォーチャン)首相や胡春華(フー・チュンホア)副首相と溝があるとの見方は絶えない。党内の事情を知るある有識者は「意に沿わない部下の地盤沈下には手を貸さないということではないか」と語る。

習氏は権力維持のため、共同富裕路線を堅持しつつ金融危機も回避するという難しい手綱さばきを迫られている。

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