みずほ銀行へ異例の処分 なぜ金融庁がシステム管理?

みずほ銀行へ異例の処分 なぜ金融庁がシステム管理?
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB221WR0S1A920C2000000/

『金融庁は22日、システム障害が相次ぐみずほフィナンシャルグループ(FG)とみずほ銀行に対し、業務改善命令を発動した。システム運営を事実上、当局が管理する異例の措置となり、具体的な内容や今後の展開を総ざらいしてみた。

①金融庁が出す具体的な行政処分は?

みずほFGとみずほ銀に対して、業務改善命令を出した。みずほは今年2月以降、少なくとも7回のシステム障害を起こしており、運営体制の見直しを求める。みずほがシステム障害で業務改善命令を受けるのは、2002年の発足以来3回目だ。

銀行法26条にある「その他監督上必要な措置」を使って、システム運営を細かく監督して実質管理していく方針だ。具体的には、みずほがシステムの改修計画を書き込んだ「工程表」を金融庁に提出し、それを当局が1つずつ細かく精査して不要不急と判断すればストップをかける。みずほが今年2月にシステム障害を起こした原因は、デジタル口座への大量の移行作業だった。準備作業やバックアップ体制が十分か、金融庁が事前にチェックすることになる。こうした措置を銀行にとるのは初めてだ。

システム障害について謝罪するみずほFGの坂井社長(左)とみずほ銀行の藤原頭取(8月、東京・丸の内)

②なぜ異例の行政処分に踏み切る?

最大の理由は、みずほ自身がシステム障害の原因を把握し切れていないことだ。8月に起きた5回目の障害では、機器故障時に備えたはずのバックアップシステムが作動せず、複数のエラーが発生した。金融庁高官は「みずほに原因究明を一任するのはもはや困難だ」として「強力な監督体制に切り替える」という。

金融庁が「無策」ととられるリスクを避ける狙いもありそうだ。今年春にはじまった金融庁検査は既に半年がたとうとしている。その間もシステム障害は繰り返し起きており、行政処分を打つタイミングを逸しつつあった。通常の業務改善命令は「不祥事の幕引き」との位置づけだが、今回はシステム管理を通じて検査を続け、金融庁が原因究明へ一段と深く踏み込む。

③金融庁はシステムを管理・監督できるの?

金融庁にも数十人規模のシステム検査部隊がある。霞が関の官僚ではなく、外部から募ったシステムエンジニアらが中心だ。普段から民間銀行のシステムを検査したり、サイバーセキュリティーの防止策を練ったりしており、ある程度の実績はある。

ただ、みずほの基幹システム「MINORI」は日本IBM、日立製作所、富士通、NTTデータの大手4社が参画し、複雑に入り組んでいる。みずほ自身もITベンダーも制御しきれないからシステム障害が多発しているとみられ、金融庁が厳密に管理できるわけではない。原因究明も難航する可能性があり、巨大な情報システムを運営する日銀に援軍を頼む案も浮かんでいる。

システム障害を伝えるみずほ銀行の貼り紙(8月、東京都中央区)

④みずほは今回の処分を受けてどう対応するのか?

業務改善命令を受ければ、通常は1カ月ほどで経営体制の見直しなど「業務改善計画」を金融庁に提出する。今回はシステムの管理・監督のため、金融庁の検査は年末まで続く可能性がある。システム障害の根本原因が不明のままでは、経営体制のどこに責任があるのかも見通せず、業務改善計画そのものを出すタイミングを探ることになる。

一つの焦点は経営体制の見直しだが、みずほ内でも金融庁内でも、組織・人事案が一本化されていない。みずほは長引くシステム障害問題で社内の士気が著しく落ちており、一定の「けじめ」が必要になってきた。みずほ銀は藤原弘治頭取が引責辞任する組織刷新案を今春にまとめたが、金融庁検査が長期化して人事案そのものが宙に浮いている。

もう一つの焦点は、4500億円かけて完成させた基幹システム「MINORI」をどうするかだ。金融庁内には基幹システムそのものに欠陥があるとの見方があり、抜本的な改修を迫られる可能性もある。原因究明の行方次第では、新たなコスト負担も発生しかねない。

⑤海外ではこのような事例はあるのか?

米国では米連邦準備理事会(FRB)も今年2月、資金決済システムが3時間以上も動かなくなる大規模なシステム障害を起こした。ただ、米国内では大きな社会問題とはならず、ミスの受け止めについての風土の違いがある。日銀幹部は「FRBのような障害が日本で発生すれば、国会にも呼ばれて詰問されるだろう」と話す。日本は金融資産が預金に偏っており、民間銀行部門への要求水準は高い。それがシステム障害への厳しい目につながっている面がある。

また、海外の行政処分は罰金が中心だ。2015年にはニューヨーク証券取引所でもシステム障害が起きたが、関連した処分は1400万ドル(約15億円)の罰金だった。大手米銀も不正営業などで罰金処分を受けることがあるが、行政が直接的に経営体制の刷新を求めたり、システム運営を管理したりする例は聞かない。

金融庁のデータでは、日本の金融機関全体で年間1500件ものシステム障害が起きている。完全無欠にシステムを運営するのは極めて困難で、障害発生後の顧客対応などがむしろ重要になる。

みずほのATMがストップした8月には、セブン銀行もシステム障害を起こし、給与振り込みが遅れるなど1億円分の取引に影響が出た。金融庁幹部は「事例だけをみれば、セブン銀の案件も顧客に影響した」と話すが、それでもみずほへの処分が重くなるのは、システム障害が止まらないためだ。みずほは新銀行発足直後の02年、さらには11年には東日本大震災の直後にも大規模な障害を起こしている。「負の歴史」が、当局や顧客の目線を厳しくしている。

⑥みずほFGの株価や業績への影響は?

今年度の株価推移を見るとほぼ横ばい圏で、低金利下で銀行株は軒並み上値が重い。システムトラブルが起きたATMはリテール事業と関係が深いが、長く続く低金利環境下ではそもそも十分な収益を上げることが難しくなっている。みずほFGの21年4~6月期の連結純利益は前年同期比約2倍の2505億円だった。

ただ、事態の収拾が長引けばレピュテーション(評判)に傷がつき、投資信託販売や法人取引への影響も懸念される。デジタル分野での成長投資の速度が落ちたり、人材をひき付ける魅力が低下したりしていくと、中長期の成長力を下押ししかねない。

(金融グループ長 河浪武史)

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野崎浩成
東洋大学 国際学部教授

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分析・考察 取れる行政措置は、銀行法24条報告(報告徴求命令)、業務改善命令、業務停止命令と、問題の深刻さや経営姿勢等に基づき重くなります。

みずほはシステム事案において度重なる業務改善命令を受けており、次の段階となると一部業務停止命令が視野に入ります。しかし、同行のシステムは金融市場および社会生活に多大な影響を及ぼすため、「次の段階」の措置が実質的にない状況です。

このため、「管理」は異例ではありますが、当局としての監督上の責任を果たすために苦肉の策と言えます。

みずほは、「管理」まで追い込まれたことをシステム上の問題としてではなく、全ての管理態勢および文化の見直しの奇貨とすべきでしょう。

2021年9月22日 13:25いいね
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