仏、寝耳に水の潜水艦計画破棄

仏、寝耳に水の潜水艦計画破棄 米豪非難で対立深まる
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『仏、寝耳に水の潜水艦計画破棄 米豪非難で対立深まる
北米
2021年9月19日 17:29 [有料会員限定]

オーストラリアは米英と原子力潜水艦計画で協力する(写真は米海軍のオハイオ級原子力潜水艦)=ロイター

【パリ=白石透冴、ワシントン=中村亮】オーストラリアがフランスとの潜水艦建造計画を中止して米英との計画に乗り換えた問題で、仏が反発を強めている。仏は駐米、駐豪大使を召還し、英国も批判した。米仏の同盟関係に亀裂が走ったことで、欧州の安全保障やインド太平洋戦略に影響するとの声もあがる。

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「ウソをついた」

「ウソをつき、欺瞞(ぎまん)を語り、信頼関係に傷が付いた」。ルドリアン仏外相は18日、仏テレビで強調した。仏が米独立戦争時の1778年に駐米大使を送って以来、召還は初めて。イラク戦争参戦を巡り米仏関係がこじれた2003年にも召還していなかった。

フランスのルドリアン外相(10日、ドイツ・ワイマール=ロイター)
ルドリアン氏は駐英大使を呼び戻さなかった理由について「常に日和見主義の国だ。今回も余計な役割しか果たしていない」と語った。仏のボーヌ欧州問題担当相も仏メディアで「オーストラリア側を到底信用できない」と欧州連合(EU)と豪州間の通商交渉に懸念を示した。

発端は日本、ドイツとの競争に勝って16年に仏政府系造船企業ナバル・グループの前身企業が獲得した潜水艦共同開発契約だ。総事業費が560億ユーロ(約7兆2千億円)と当初の340億ユーロから膨れ上がり、開発計画にも遅れが出てきたことで豪州側の疑念を招いた。
この間に豪中の対立も激化した。両国間で輸入制限や協定破棄などが相次ぎ、安全保障環境は大きく変わった。豪州は仏とのディーゼル潜水艦計画を米との原子力潜水艦に乗り換えることで、インド太平洋での戦略的優位性を確保しようとしたとみられる。

発表数時間前に通告

関係悪化を決定的にしたのは、米豪がフランスとの調整を後回しにしたことだ。米紙ニューヨーク・タイムズによると、米政権が今回の決定を仏に通告したのは発表数時間前だった。早く知らせれば仏の猛反発を受け頓挫すると懸念したとみられる。

6月に英国で開いた主要7カ国首脳会議(G7サミット)の合間にも米英豪は秘密裏に議論したが、仏は招かなかった。モリソン豪首相は直後のマクロン仏大統領との会談で「非常に重大な懸念を伝えた」と述べたが、契約破棄の意向とは伝わらなかったとみられる。

バイデン米大統領は潜水艦計画を中国抑止に向けた目玉政策と位置づける。15日の演説でも「インド太平洋地域が必要とする安全保障と安定を実現するためパートナーシップを新たな段階に引き上げる必要がある」と強調していた。中国との有事を想定すれば仏よりも地理的に近い豪州との協力強化のほうが実利は大きい。

24日にはワシントンで日米豪印の「Quad(クアッド)」による初めての対面形式の首脳会議を開く。原潜支援に続き中国対抗をアピールする。

ただ米仏の亀裂はバイデン政権にとって誤算となる恐れがある。「北大西洋条約機構(NATO)のあり方にも影響を与える」。ルドリアン氏は18日、米国との信頼関係が崩れたことで、米国が主導的な役割を果たすNATOに疑問を呈するような発言をした。マクロン氏はかねて欧州各国による「欧州軍」の創立に意欲的で、米国に頼らない独自の安全保障を志向してきた。

仏政府は19日、マクロン氏がバイデン氏と近く電話協議すると明らかにした。協議は米側からの要請で、マクロン氏はバイデン氏に破棄の説明を求めるという。

マクロン氏は契約破棄に対して沈黙を守っている。03年に大きな亀裂が生じた米仏関係も数カ月で改善に向かっており、今回も一時的な衝突にとどまる可能性はある。一方で仏は今年に入り原潜やフリゲート艦を南シナ海や日本に派遣するなどインド太平洋戦略を重視してきた経緯があり、米仏の亀裂が中国を利する結果につながれば、バイデン氏にとってアフガニスタンからの拙速な撤退に続く外交的失態だと批判する声も強まりかねない。』