フランスが裏切りだと叫んだ豪原潜導入の舞台裏、残酷な計算結果に基づきオーストラリア優先

フランスが裏切りだと叫んだ豪原潜導入の舞台裏、残酷な計算結果に基づきオーストラリア優先
https://grandfleet.info/us-related/behind-the-scenes-of-the-introduction-of-the-australian-submarine-which-france-shouted-betrayal-prioritize-australia-based-on-cruel-calculation-results/

『英国のウォレス国防相は「フランスが豪原潜導入を支援する枠組みから外れたのはAUKUS設立がファイブアイズの信頼関係に基づいているからだ」と明かしたが、NYタイムズ紙が報じた豪原潜導入の舞台裏はもっと生々しいもので「ある同盟関係と他の同盟関係に表向き平等な信頼を口にしていても戦略上重要な判断を求められると残酷な計算結果に基づき判断が下される」と結論づけた。

参考:Secret Talks and a Hidden Agenda: Behind the U.S. Defense Deal that France Called a ‘Betrayal’

米国も最後までフランスに沈黙を貫き通した豪原潜導入の舞台裏、変化し続ける世界情勢の中で国益もまた変化するということを再確認

NYタイムズ紙が報じた豪原潜導入の舞台裏を要約すると以下の通りになる。

アタック級潜水艦はシュフラン級原子力潜水艦を通常動力に変更するための設計作業が予定よりも遅延、さらにオーストラリア産業のプログラム参加(オフセット)を取りまとめる仏NavalGroupの作業も複雑さに起因する問題で順調には進んでおらず1番艦の就役も2035年頃にずれ込むことが確実視されており、オーストラリアはアタック級潜水艦の性能が就役と同時に時代遅れの産物になるのではないかと危惧。

出典:Royal Australian Navy アタック級潜水艦の完成イメージ

新たに誕生したバイデン政権は中国に対抗する新たな戦略を英豪に提示、この頃のオーストラリアではアタック級潜水艦の15年後の性能に対する信頼は完全に失われていて南シナ海で行動する十分な性能を備えた原子力潜水艦の導入を米英に相談(今年の3月頃)、3ヶ国の首脳は豪原潜導入を支援する枠組みについての話し合いをスタートさせることになる。

因みに中国問題を安全保障上の中心に据えていた米国やこれを支持する英国でも「フランス製の潜水艦では中国の沿岸を急襲するような能力はない」と危惧していたらしく、バイデン大統領は直接側近に「オーストラリアのフランス製潜水艦では駄目だ」と漏らしていたとNYタイムズ紙は報じているので、米英にとっても豪州の原潜導入の相談は渡りに船だったのだろう。

ここで問題になったのは米英豪の利害一致から外れることになるフランスをどう取り扱うかで、この動きがフランスに知られると間違いなく妨害を受けるため極少数の関係者で話し合いを進めることになり、契約破棄に関するフランスとの交渉はタイミングを見てオーストラリアが行うことになっていたらしい。

出典:The White House / Public Domain

話し合い自体はフランスに気づかれないまま順調に進みG7開催中に米英豪はAUKUSの枠組みについて大筋で合意、これを受けてオーストラリアのモリソン首相はG7出席後にフランスを訪問してマクロン大統領と会談、我々は潜水艦に求める戦略上の要求を変更する可能性があると切り出したがマクロン大統領は「それを決定するのはオーストラリア自身だ」と返答したらしい。

つまりモリソン首相はフランス側に真意が伝わったのかどうかはさておき契約破棄に関する事前通告は行ったと認識、しかし米英豪の動きに全く気付いていなかったマクロン大統領はモリソン首相の話を「潜水艦に対する仕様変更」と受け取っており、それを示すように駐米フランス大使も「米メディアのPolitico誌が15日にAUKUS設立をバイデン大統領が発表するとリークしたことで米英豪の動きを始めて知った」と証言している。

ただ本国のフランス政府はAUKUS発表の1週間に何かが動いていることを疑い始め米国に問い合わせを行っているが、米国も最後までフランスに沈黙を貫き通したため何が起こっているのか把握できず、最終的に米国がフランスに事実を明かしたのはPolitico誌リーク後(バイデン大統領会見の数時間前にサリバン大統領補佐官が駐米フランス大使に説明)だった。

出典: LA(phot) Mez Merrill/MOD

NYタイムズ紙は政権内部一部に「フランスへもっと早く伝えるべきだった」という意見もあったに実行に移されなかったのは豪原潜導入をフランスに説明したり、この枠組みにフランスを参加させるため議論が長引くことを嫌った=ある同盟関係と他の同盟関係に表向き平等な信頼を口にしていても戦略上重要(米国の国益)な判断を求められると残酷な計算結果に基づき決断が下されると結論づけているのが興味深い。

このような残酷な計算結果に基づく決断は英仏のスエズ運河侵攻に対する不支持表明や、日本への事前通知なしに金本位制からの離脱を行ったニクソン・ショックと同じだとNYタイムズ紙は指摘したが、フランスとの関係よりもオーストラリアとの関係を優先したのは米国にとって経済的・戦略的利益が最も大きいインド太平洋地域に欧州からシフトするという方針に従っただけとも言える。

どちらにしても永遠の関係というものはこの世に存在せず、米国のフランス切り捨ては変化し続ける世界情勢の中で国益もまた変化するということを再確認させられた出来事だと言えるだろう。

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※アイキャッチ画像の出典:The White House / Public Domain 』