[FT]中国の野望に豪原潜の壁

[FT]中国の野望に豪原潜の壁 台湾は歓迎姿勢
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 ※「順次戦略」と「累積戦略」…、「当面作戦」と「将来作戦」…。

『米国がこのほど、オーストラリアが8隻以上の原子力潜水艦を建造するのに協力し、長距離巡航ミサイル「トマホーク」を供給することに同意した。地域の政府関係者とアナリストは、中国の地政学的な野望が新たな難題にぶつかったと指摘する。

中国は台湾統一を「歴史的任務」として海軍力の増強に努めてきた=AP
米豪両国は英国とともに新たな安全保障協力の枠組みを設けたばかりで、その一環としてまとまった今回の合意により、オーストラリアは西太平洋全域に戦力を及ぼすことができるようになる。

従来の計算では、中国が近海、特に台湾の周辺海域に対する軍事的支配を目指すなか、中国軍は米海軍および日本の海上自衛隊からの潜在的な介入と戦えばよかった。

毛沢東以来、最も強大な権力を持つ中国指導者の習近平(シー・ジンピン)国家主席は繰り返し、台湾統一は「揺るぎない歴史的任務」であり、「世代から世代へと引き継ぐ」ことができないものだと強調してきた。中国政府は、必要に迫られれば、武力を行使してでも台湾を支配下に置くと断言している。

元台湾軍参謀総長の李喜明氏は16日、「原子力潜水艦によってオーストラリアは初めて戦略的な抑止力と攻撃能力を持つ」と述べた。

豪はシーレーン防衛だけでなく中国を視野に

「オーストラリアは自国のシーレーン(海上交通路)を守れるだけでなく、遠く離れたところへ軍を展開できる。ここにトマホークミサイルが加わると、オーストラリアのこぶしは中国本土まで届く」

李氏はさらに、「こうした潜水艦の論理的な展開先は、台湾に近い西太平洋の深海だ」と話す。

「この新たな能力に対抗するために、中国人民解放軍にできることはあまりない。長距離の対潜水艦作戦は最も高度でリスクの高い軍事作戦の1つで、人民解放軍がその技術を習得するには、オーストラリアが原子力潜水艦を建造して配備するよりも長い時間がかかる」

オーストラリア政府は、「AUKUS(オーカス)」とも呼ばれる米英豪の安保協力は、「オーストラリア海軍にとって作戦能力の大きな飛躍を示している」と語り、次のように続けた。

「原子力潜水艦は通常動力の潜水艦と比べ、ステルス能力、スピード、機動性、抗堪性に優れており、ほぼ無限の耐久性を持つ。こうした能力ゆえに、原子力潜水艦は探知されるリスクを低く抑えながら係争海域で活動できる」

中国は3カ国の安保協力に猛反発

中国外務省の報道官は16日、3カ国の安保協力を「極めて無責任」として批判し、「地域の平和と安定を著しく損ない、軍拡競争を激化させる」と述べた。

習氏は17日、中国が主導する上海協力機構(SCO)の会合にオンライン形式で参加し、演説する予定だ。タジキスタンの首都ドゥシャンベで開かれる首脳会議は、イスラム主義組織タリバンによるアフガニスタン制圧を中心に議論するために招集された。

習氏は先週、バイデン米大統領との電話会談の際、両首脳の対面の会談を打診した米政府側の提案に応じなかった。1つには、中国政府としては、米政府が緊迫した2国間関係を改善するための対策をとることを求めているためだ。

中国政府関係者は、トランプ前米大統領の強硬な対中政策の多くを撤回しようとしないバイデン氏の姿勢にいらだちを募らせている。中国の外交担当トップ、楊潔篪(ヤン・ジエチー)共産党政治局員は15日、バイデン政権に対し、「間違った中国政策を是正し、できるだけ早く両国関係を正しい軌道に戻すために中国と協力する」よう呼びかけた。

北京にある清華大学の国際関係の専門家、朱鋒氏は、AUKUSの合意は「中国の台頭の封じ込めを直接狙っている。バイデン政権の中国政策は『トランプ氏抜きのトランプ主義』であり、基本的に(トランプ前大統領の)戦略的な中国抑制の継続だ」と話す。

中ロの連携強化も選択肢に

米ワシントンのシンクタンク、スティムソン・センターの中国外交政策専門家のユン・スン氏は、米英豪の新たな協力は、習氏がもはや「確かな(軍事的)脅威としてオーストラリアを無視できず」、中国がかねて恐れてきた「統一戦線」をバイデン氏が築いているという現実と向き合わなければならないことを意味すると指摘した。

「これは、米国と、日本やインドを含む諸外国との未来の防衛協力に影響を及ぼす前例を作る。中国はそのような連合が誕生して基盤が強固になるのを阻止しようとしてきた」

「それをする1つの方法が、中国とロシアの連携の強化だ」とスン氏は付け加えた。「我々は今、二極世界の出現に一歩近づいている」

台湾国防部のシンクタンク、国防安全研究院の蘇紫雲所長は、中国の原子力潜水艦の保有数急増と野心的な核兵器戦略を背景として、米国はオーストラリアの潜水艦・ミサイル能力を強化する必要性を確信したと説明する。

さらに「潜水艦についての合意は非常に明確に中国の核戦略を狙っている。中国は原子力潜水艦を18隻保有しており、そのうち14隻が稼働できる状態にあると考えられている」と語った。

米国防総省でアジア専門家を務め、現在はシンガポールのリー・クアンユー公共政策大学院で教鞭(きょうべん)をとるドリュー・トンプソン氏は、米英豪の合意は「とてつもなく大きな影響」を持ち、「米豪関係を大幅に向上させる」シグナルを送ったと話す。

フランスとの潜水艦共同開発計画を中止することで、オーストラリア軍は米国、英国、日本の部隊とよりうまく作戦を調整できるようになる。

「潜水艦の推進システムは、米海軍が最も厳重に守っている技術の1つで、これまでは英国としか共有されていなかった」とトンプソン氏は言う。「トマホークミサイルの取得は理にかなっている。海軍同士の相互運用性は戦力を大幅に増強するからだ」

また、3カ国の合意は、中国政府が恐らくオーストラリアで新たな戦略的な挫折に見舞われることも示唆している。中国の嵐橋集団が地元政府と結んだダーウィン港を99年間賃借する契約をオーストラリア政府が破棄するか見直しを検討しているからだ。

By FT reporters

(2021年9月16日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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