習近平には好都合?破綻危機「恒大集団」を見殺しか

習近平には好都合?破綻危機「恒大集団」を見殺しか
改革開放と決別し、「共同富裕」社会を実現する「革命」の序章に
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/66967

『中国では不動産バブルが崩壊するとき、こういう状況がおきるのだなあ、と改めて震撼した。

 中国最大の民営デベロッパー「中国恒大集団」の一部理財商品(資産運用商品)の償還が9月8日に期日通りに行われず、さらに9月13日に、広東省当局が、恒大地産が行っている不動産プロジェクトに対して完成予定の不動産を抵当とする融資申請を認めない旨を通達した、との噂が流れた。これらのことが引き金となって、恒大集団総本部がある深圳、支社のある上海や重慶、四川省成都などの十数の都市で、数十人から数百人の理財商品購入者や個人投資家、住宅購入予定者がつめかけたのだ。

 ネットに流れる動画や写真をみると、群衆は、元金返金や建設再開を求めて、怒り、泣き叫び、企業関係者に詰め寄ったり、ガードマンともみ合ったり、興奮して失神したりしていた。ビルから飛び降りようとする社員もいた。恒大社員の中には、企業ノルマのために自分で自社の理財商品を購入していた者も多くいたのだ。年利7%をうたい文句にしていた理財商品は、もはや元本すら返ってくる可能性も薄い。まさに絶望と阿鼻叫喚の「取り付け騒ぎ」だ。こうした騒ぎが、これから全国に波及するかもしれない、と国内外のチャイナウォッチャーたちが固唾をのんで見守っている。

理財商品の償還を求めて恒大集団本社に押し掛けた人々の前で座り込む社員と、失神して救護される女性(2021年9月13日、写真:ロイター/アフロ)
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3つのレッドラインを越えて「兵糧攻め」に

 中国はこの数年、ずっと「不動産バブル」圧縮政策を、手を変え品を変えて行い続けてきた。それでもなかなか思うように不動産価格が下がらず、ついに昨年(2020年)に不動産融資制限政策「三道紅線」(3本のレッドライン)という「兵糧攻め」策を打ち出した。3本のレッドラインとは、「(1)資産負債比率70%超、(2)純負債資本倍率100%超、(3)手元資金の短期債務倍率が100%を割り込む不動産企業」に対しては銀行からの融資を制限するという政策である。』

『この政策により、世界で最も資金調達能力の高い不動産企業といわれた中国恒大集団に、実は3000億ドル(1.95兆元)以上の債務があることが明らかになった。昨年の段階で1.95兆元の債務のうち有利子負債は8700億元あまりを占めていた。

 恒大は3つのレッドラインを越えていたため、銀行からの融資が制限される「兵糧攻め」に遭った。そこで恒大は、昨年から今年にかけて手持ち不動産を3~5割の値引きで投げ売りして、償還金や返済の穴埋めに充てようとしたが、それでは間に合わなかった。さらに一部地方政府は不動産バブルが急激に弾けることをおそれ、販売代理店に対して不動産の過剰な値引きを禁止する行政指導を行った。一部都市では、15%以上値引きして不動産を売ることができなくなった。

 9月初めには地方当局から銀行に「返済」延期を受け入れるよう、指示が出て、格付け会社は「流動性と資金調達能力が悪化している」として恒大の格付けを一斉に引き下げた。株価はさらに暴落し、デフォルト不可避、早晩破産再編の手続きに入るであろう、との予測が広まっていた。

 一部理財商品の償還期日が延期されたことを受けて、9月10日には創業者で大富豪の許家印が「私が一文なしになっても、投資家たちが無一文になることはない」と訴えていたが、許家印の悲壮な訴えがなおさら不安をあおった。

 13日には広東省仏山市南海区住建局から、同区の恒大住宅リスクコントロール強化策として「不動産を抵当にした銀行への融資申請を認めない」「住宅を購入するための銀行への住宅ローン申請を受け付けない」という「紅頭文件」(公式文書)の写真がネットに流れた。このことが、前述の「取り付け騒ぎ」ににわかに広がったようだが、翌日、この文書がフェイクであり、拡散しないように、と当局からの呼びかけがあり、いっそう混乱した。』

『政府は救済しない?

 恒大集団のデフォルト危機に最終的にどう決着をくのかは、いくつかのシナリオが巷で流れている。

 当初は、やはり最終的には国家が救済してデフォルトを回避する可能性を予測する声もあった。

 中国の国有4大資産管理会社の1社である「華融資産管理」は、恒大集団と並ぶ巨大負債金融企業としてデフォルト寸前までいった。だが結局今年8月に、国有金融大手「中国中信集団」を通じた増資で破綻を回避した。国有銀行の不良債権の受け皿として作られた華融を破綻させてしまうと金融システミックリスクを引き起こすと心配されたからだった。
 だが恒大集団は民営企業であり、この8~9月の中国の動きをみると、華融式の救済はないであろう、とみられている。一部では、破産再編に向けた委員会設立が模索されているという情報も流れており、広東省当局が編制した再編チームが恒大集団に派遣され、財務状況の調査を進めている、という。

 ブルームバーグが報じたアナリストの見立てでは、ドル建て債券保有者は投資額の25%ほどが回収されるという。主要住宅プロジェクトは国有デベロッパーが引き継ぐ形で完成させ、住宅引き渡しとサプライヤーへの支払いをまず守ろうとするだろう。

 最悪のケースとして言われているのが、他の不動産大手企業のドミノ連鎖的な倒産と金融システミックリスクが引き起こされる可能性だ。恒大集団の債務には外国人向けドル建て債券195億ドルも含まれているので、当然、国際市場に対しても影響が小さくなかろう。リーマンショック級と言う人もいれば、それほどでもないのでは、と言う人もいる。

 中国当局者筋からは、金融システミックリスクを起こさず、企業の淘汰、破産再編するノウハウはすでに詰み上がっている、という意見も聞かれる。これがはったりかどうなのかは、私にはわからない。

 またドミノ倒産については、中小不動産企業はすでに昨年だけで500企業以上も倒産しており、すでに不動産業界の構造改革は始まっているという見方もある。』

『だがいわゆる「3つのレッドライン」のいずれかを越えている大手・中堅の不動産デベロッパーは60近くある。たとえ金融システミックリスクが回避できたとしても、深刻な失業問題や経済停滞現象を引き起こすことは避けられまい。不動産業は資源・資材、サービス業など非常に幅広い産業とリンクしている。
「改革開放」と決別か

 だがそういったことも含めて、習近平政権の期待するところなのかもしれない。

 不動産バブル退治の荒療治は、習近平が掲げる社会主義初心への回帰、社会主義的「共同富裕」の理想という目標に通じる経済構造改革の一環であり、学習産業規制、芸能・エンタメ産業粛清などを含む昨今のあらゆる規制強化、指導強化、寡占禁止と連動した動きと考えていいだろう。この動きを左派ブロガーの李光満は「変革」「革命」と呼んだ。革命ならば流血も混乱も犠牲も当然伴うだろう。

 仮に恒大が破綻したとすれば、資産を失う投資家や富裕層は、その革命成就のために必要な犠牲、ということになる。しかも、阿鼻叫喚の取り付け騒ぎで悲鳴を上げる人々の混乱は、月給1000元レベルの6億人に上る共産党の基層階級(労働者、農民)からすれば無関係、むしろ仇富心(金持ちを妬み恨む気持ち)が刺激され、「ざまあみろ」と溜飲を下げるかもしれない。習近平にすれば、中国経済の減速や、規制強化による息苦しさの不満の矛先を自分に向かわせないために、ちょうどよい「混乱」になるというわけだ。

 こういう状況の中で、私は、許家印は「三角帽」を被せられ市中を引きずり回され、群衆の怒りの矢面に立たされる役割を担わされるのではないか、とみている。

 恒大集団創業者の許家印は今年8月半ばに、その責任を負う形で恒大集団の会長職を辞任した。1958年に河南省の貧困農村に生まれ、幼くして母を失い祖母に育てられ、苦学して武漢鉄鋼学院に進学、卒業後は国有鉄鋼企業でエンジニアとして10年働いた後、1996年、従業員20人から恒大を創業。改革開放の波に乗って世界500強企業に育て上げた。

『恒大は、中国280都市で1300以上の住宅不動産プロジェクトを進め、社員20万人、プロジェクトに伴う雇用創出は3800万人、プロサッカーチームやサッカースクールを運営し、映画やアニメなど文化産業にも投資し、最近は電気自動車業界にも進出。実際、中国経済の大きな駆動力であったのだ。

 許家印は2017年、フーゲワーフ長者番付1位になり、総資産2900億元の中国一の大富豪になった。アリババ創業者・馬雲と並んで貧困から身を起こした成功者の象徴であり、まさに中国の改革開放の申し子なのだ。

 しかも父親が抗日戦争に参加した英雄であり、本人も忠実な党員であり、2018年に全国政治協商委員にとなって政治にも参加。「恒大のすべてを党にささげる、国家にささげる、社会にささげる」と公言していた。

 だが、だからこそ、習近平は許家印をターゲットにしたのだろう。貧農の出身とはいえ立身出世を遂げ、エルメスのベルトを締めて政治協商会議に出席する資本家の共産党員は、習近平の掲げる社会主義の初心の姿ではないのだ。むしろ、習近平の政敵、江沢民の「3つの代表」論(共産党が先進的生産力、先進的な文化、最も広範な人民の利益を代表するという理論)を反映したものである。実際、許家印は習近平の天敵ともいわれる太子党の重鎮、曽慶紅ファミリーと親交が深い。

 とすれば、恒大集団が破綻したとして、それは、単に中国バブル崩壊の序章にとどまらない。ポジティブな意味の不動産産業構造改革という話でもなかろう。鄧小平以降の改革開放時代に区切りをつける象徴的な事象であり、改革開放時代を通じて資本家クラブに変貌していた共産党を、再び農民と労働者の党に戻し、富裕層からの富を奪い基層に分け与える社会主義的「共同富裕」社会を実現しよう、という「革命」の始まりと言えるかもしれない。

 だが、それはすなわち、貧しく暴力的な階級闘争が吹き荒れた過去の混乱した時代、みなが等しく貧しい時代に中国が後退するということにはならないだろうか。』