中国が放ったくせ球 TPP加盟申請、日米分断の思惑も

中国が放ったくせ球 TPP加盟申請、日米分断の思惑も
Angle 高橋哲史
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA1765G0X10C21A9000000/?n_cid=NMAIL006_20210917_Y

『中国が環太平洋経済連携協定(TPP)への加盟を申請した。実現のメドは立っていないのにこのタイミングで突然、一歩踏み出したのはなぜか。

「(中国がTPPに加盟申請すれば)日本にとっては試練になるだろう。断れば中国と敵対することになるからだ。かといって、簡単に受け入れるわけにもいかない。米国が絶対に同意しないからだ」

2020年11月、北京大学国際関係学院の賈慶国・前院長にインタビューしたときの発言だ。賈氏は国政の助言機関である全国政治協商会議の常務委員も務め、中国の外交政策に深く関わる。

インタビューの3日後、中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席がTPPへの参加を「積極的に考える」と表明した。賈氏はそれを事前に知ったうえで、「TPP参加」の思惑を語ったとみられる。

中国がTPPへの加盟を真剣に考え、準備を進めてきたのは事実だ。特に2017年に発足したトランプ米政権がTPPから離脱し、中国に貿易戦争を仕掛けてからその動きを加速させた。米国に対抗するため、アジア太平洋地域の貿易ルールづくりで主導権を握りたい。中国の真意はそこにあった。

中国の李克強(リー・クォーチャン)首相が初めてTPP参加に意欲を示したのは、20年5月だ。新型コロナウイルスの猛威が世界を襲い、4月に予定していた習氏の国賓訪日が延期になった直後だった。

米国をけん制するために習氏の訪日を何としても実現したかった中国は、それまで「TPP参加」を口にしてこなかった。日中首脳会談で話題にすれば日本が米国との板挟みになり、習氏の訪日に難色を示しかねないと判断していたからだ。

習氏訪日のメドが立たなくなり、日本に配慮する必要はなくなった。20年11月に習氏が検討を表明してからは、いつでも正式に参加申請できる状態だった。

中国自身、TPPの高いハードルをクリアし、すぐに加盟できるとは思っていない。それでも今のタイミングで申請したのは、米国が主導するかたちで中国包囲網の構築が進んでいる状況と無縁ではないだろう。

米国、英国、オーストラリアは15日、対中国を念頭に新たな安全保障協力の枠組みを創設した。米英は中国から圧力を受ける豪州に原子力潜水艦の技術を提供する。欧州連合(EU)は16日、「インド太平洋協力戦略」を公表し、台湾との関係強を打ち出した。

日本が主導する現在のTPPには11カ国が参加し、英国も加盟を申請している。経済面に限れば、巨大市場の中国を取り込むメリットは大きい。中国の参加に前向きな加盟国が現れるかもしれない。中国はTPP陣営の足並みを乱すつもりだろう。

日本の立ち位置は難しい。中国を門前払いすれば、習指導部が対日批判を強めるのは必至だ。かといって中国に甘い顔をみせれば、米国が反発する。中国のTPP加盟申請には日米分断の思惑も透ける。その真意を冷静に見極める必要がある。

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https://www.nikkei.com/live/event/EVT210820001

経済・社会保障グループ長(経済部長) 高橋哲史
大蔵省(現・財務省)を振り出しに霞が関の経済官庁や首相官邸、自民党、日銀などを取材。中国に返還される前の香港での2年間を含め、計10年以上に及ぶ中華圏での駐在経験をもつ。2017年4月からは中国総局長として北京を拠点に中国の変化を報じ、21年4月に帰国した。』