[FT]アフガン難民拒むトルコ「国境の壁」

[FT]アフガン難民拒むトルコ「国境の壁」
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『アフガニスタンを脱出したハミトさん夫妻と1歳の娘が山を越え、盗賊にあった末に突き当たったのは、コンクリートの壁だった。アフガンなどの難民がトルコへ、そして欧州へと流れ込むのを阻止するために建てられた壁だ。

イランと最長の国境を接するヴァン県にはモジュール式のコンクリートブロックで壁が立てられている(2021年8月21日撮影)=ロイター
アフガニスタンで迫害されている少数民族ハザラ人でイスラム教シーア派の一家は8月、イランから国境を越えてトルコに入ったが、すぐに警察に拘束された。トルコでは、2021年のこれまでに4万人のアフガン人が拘束されている。アフガンのイスラム主義組織タリバンの復権を受けて、さらなる難民の流入が見込まれる。

「たとえトルコで拘束されても、タリバンのアフガニスタンよりはましだ」と、後に残してきた親族を守るために仮名を使った29歳のハミトさんは話した。「ひどい生活だった。もう絶対に戻れない。戻れば死刑宣告だ」

トルコは世界最大の難民人口を抱え、エルドアン大統領もかつては、国内に360万人が暮らすシリア難民などに対する門戸開放政策を推進していた。だが、景気が低迷するなかで外国人に対する国民感情が悪化し、政権与党の支持率低下にもつながるとあって、エルドアン氏は、トルコは欧州の難民の「倉庫」にはならないと宣言した。

332マイル(約534キロメートル)に及ぶイランとの国境線の3分の1をカバーすることになる壁は、アフガン人を入らせまいとする姿勢を最も顕著に示すものだ。欧州連合(EU)は難民の流入を抑えるため、トルコに数十億ユーロ(数千億円)を支払っている。金額の詳細は不明だが、その資金は東部国境の警備強化にも使われている。

不法に国境を越えてトルコに入った後、国境警備兵から逃れてトンネルに隠れるアフガニスタンの難民(2021年8月23日撮影)=ロイター
「壁に効果があるかどうかは関係ない。エルドアンは難民に厳しい姿勢を見せる必要がある」と指摘するのは、欧州外交問題評議会(ECFR)のアスリ・アイディンタスバス上級研究員だ。「経済の悪化に関して、難民がスケープゴートにされている」

国境の壁は欧州へのメッセージでもあるという。「欧州との関係を修復しようとする努力の核心は、トルコが非正規移民に対する防波堤になるという難民問題に関する取り決めだ」
イランと最長の国境を接するヴァン県では、コンクリートブロックを積み上げた高さ3メートルの壁がソグクスの街を見下ろす不毛の丘を縫うように延びている。壁のない部分は塹壕や有刺鉄線、治安部隊に守られる。

「国境に建てている壁により、神の思し召しにより、我々は出入りを完全に遮断できる」とエルドアン氏は8月、17年に着手されたプロジェクトについて述べた。「この国境の壁は我々の保安壁であり、ファイアウォールだ」

ヴァン県にあるトルコ・イラン国境の軍事基地で見張りをするトルコの兵士(2021年8月21日深夜撮影)=ロイター

エルドアン氏は、ヴァン県に6つの国境警備大隊と3つのコマンド大隊も展開させている。200カ所近くに建設中の監視塔は大半がEUの資金によるもので、警備要員はドローン(小型無人機)や赤外線カメラ、暗視カメラを使ってイラン側にいる難民を簡単に追跡する。
隙間をすり抜けたり、トンネルを掘ったりして入り込んできた難民も、すぐに見つかって送り返されるか、ソグクスから出る道路の検問所で捕らえられることがある。近くのヴァン湖でも20年にボートが転覆して61人が溺死した事故があり、沿岸警備隊が侵入ルートを遮断している。

ヴァン県のビルメズ知事は、当局が今夏、100カ所以上の「ショックハウス」を破壊したと明らかにしている。密入国業者が支払いを待ち、トルコ西部を経て欧州へ密入国させる機会をうかがう間、人々を留め置く隠れ家のことだ。「非正規移民にヴァンの街を歩かせない。即座に彼らを捕らえて処理センターに送る」と同知事は述べた。

イランからトルコに不法に渡った後、トルコの治安部隊に捕まったアフガニスタンからの移民の家族。トルコ・ヴァン県にある難民処理センターの一室にて(2021年8月22日撮影)=ロイター

強制送還施設の係官は施設を刑務所になぞらえた。数は多くないがパキスタン人やイラン人も含めて、難民は祖国に送還されるまで最長1年間収容される。トルコ国内に約30万人いるアフガン難民は、本国の政権崩壊を受けて送還が停止されている。

難民の大半は若いアフガン人男性だが、同国の治安が悪化した数カ月前から女性と子どもも増えているとビルメズ氏は述べている。

冒頭のハミトさんは昨年、アフガニスタンの首都カブールにあったハザラ人の子どもの学校が自爆テロで破壊された後、妻ファルザナさんと娘を連れてイランへ逃れた。だが、イランでは仕事も住まいも見つけられず、さらにトルコへと向かった。山道を2日間歩き、道中でわずかな所持品を盗賊に奪われたあげく、厳しい屋外環境で娘が病気になってしまった。

最初の挑戦では国境を越えられずに戻ったが、2度目の試みで越境を果たし、密入国業者から偽造の身分証明書を渡されて空港に連れていかれた。そこで拘束された。

「今、私たちは少なくとも安全で、タリバンの手が届かないところにいる」と25歳のファルザナさんはトルコ政府の通訳を介して話した。他の入国者20人とともに、県都から6マイル離れたところにある強制送還施設に収容されている。「タリバンはハザラ人を殺し、女性を誘拐している」

アフガンにいる親類たちは、トルコで敵視されるのを覚悟の上で、イランを横断する1500マイルのつらい長旅に乗り出そうとしているとファルザナさんは話した。国際人権団体アムネスティ・インターナショナルの調査によれば、一家の故郷のガズニ州では、タリバンの戦闘員が7月、首都に進攻する途上でハザラ人男性9人を殺害したことが判明している。
ビルメズ知事は、難民の流入が続いていることはほとんど驚くにあたらないと語った。「難民たちはトルコに入ることが難しくなったことを承知している。アフガニスタンの治安が回復しない限り、そうした人たちが家を捨てざるをえない問題は解決しないだろう」

ファルザナさんの将来への希望は今、アフガン国外での新たな生活にかかっている。「私は全てを失ってしまった。でも娘にはまだ、まともな生活を送れる可能性が残っているかもしれない」

By Ayla Jean Yackley

(2021年9月15日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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