中国からみた自民総裁選

中国からみた自民総裁選 日本政治「混迷期に」
Angle 高橋哲史
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA14BL00U1A910C2000000/

『17日告示、29日投開票の自民党総裁選には、中国も強い関心を寄せる。日本の次の首相がだれになるかだけではない。二階俊博幹事長が党内でどこまで影響力を保つか。むしろ、そちらを気にしている。

中国共産党の対外部門に属する幹部から、何度も同じせりふを聞いた。「二階さんは必ず約束を守ってくれる。中国にとって特別な存在だ」

中国が最も信頼する日本の政治家といっていいだろう。1972年に首相として国交正常化を実現した田中角栄氏から続く対中人脈を引き継ぎ、日中間で問題が起こるたびに動いてきた。新型コロナウイルス危機の前はしばしば訪中し、習近平(シー・ジンピン)国家主席ら要人と会談を重ねた。

2020年7月、自民党の外交部会が習氏の国賓来日を中止するよう求める決議をした際の発言は、中国でも語り草だ。

「外交部会長か何部会長か知らんが、そう軽々に判断すべきものじゃない」。二階氏がすごむと、決議の表現は原案の「中止を要請する」から「中止を要請せざるを得ない」に弱まった。

その二階氏に党内で逆風が吹く。

総裁選に出馬する岸田文雄前政調会長は「総裁を除く党役員は1期1年、連続3期まで」と言い切った。5年にわたって幹事長を務める二階氏の再任を否定した発言だ。

菅義偉首相も総裁選への不出馬を表明する前、二階氏の交代を探った。二階氏の党運営に不満を抱く若手議員は多く、だれが新総裁になっても同氏の幹事長続投は考えにくい。

米国と激しく対立する中国は、日本とそこそこ良い関係を保っておきたいのが本音だ。自民党内の対中強硬論を抑えてきた二階氏が総裁選後に権力の中枢から外れるとすれば、中国にとっては痛手となる。

「中国は日本の政治が再び短期間で首相が繰り返し代わる時代に入ったとみている」。こう指摘するのは中国政治が専門の加茂具樹・慶大教授だ。

06年から12年にかけて、日本では6人の首相がほぼ1年ごとに代わった。日中関係はそのたびに仕切り直しを迫られ、12年に民主党の野田佳彦政権が尖閣諸島を国有化すると、かつてない険悪な状態に陥った。

米国をけん制するために日本をひき付けておきたい中国は、そんな時代に逆戻りするのを望んでいない。しかし、現実には日本政治の混迷がしばらく続くと判断し、対日戦略の練り直しに動いている。

折しも、5年に1度の中国共産党大会が1年後の22年秋に迫る。政治の季節に入った中国は、どんどん内向きになる。9月の新学期から小中高で「習近平思想」を必修科目にするなど、民主主義を掲げる側からすると時代錯誤にしかみえない危うげな動きが続く。

内政に連動し、外交でも強硬姿勢を強めるのは必至だ。台湾や新疆ウイグル自治区の問題で圧力をかける米国に、妥協する余地はない。米国との連携を深める日本にも、より厳しい姿勢で臨んでくるだろう。

巨大な中国市場は、日本経済にとって死活的に重要だ。日本の経済界は日中関係の行方に気をもむ。しかし、だからといって政治と経済を分けて考える「政経分離」は、もはや中国に通用しない。

中国とどう向き合うか。総裁選で、もっと突っ込んだ議論があってもいい。

吉野直也政治部長と高橋哲史経済部長が自民党総裁選、衆院選とその後の経済・外交の行方を展望するライブ配信イベントを27日午後6時から開きます。お申し込みはこちらです。
https://www.nikkei.com/live/event/EVT210820001

経済・社会保障グループ長(経済部長) 高橋哲史

大蔵省(現・財務省)を振り出しに霞が関の経済官庁や首相官邸、自民党、日銀などを取材。中国に返還される前の香港での2年間を含め、計10年以上に及ぶ中華圏での駐在経験をもつ。2017年4月からは中国総局長として北京を拠点に中国の変化を報じ、21年4月に帰国した。』