「一人っ子軍隊」進む中国

「一人っ子軍隊」進む中国 無人機や弾道ミサイルに傾斜 
編集委員 高坂哲郎
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM103920Q1A910C2000000/

『中国共産党政権がこのところ、図らずも自らの軍事面での弱みを露呈させる動きを相次いでみせている。一つは、中国内陸の砂漠地帯に新たな大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射基地を建設する動き。もう一つは、親の教育費負担を減らすなどして出生数を増大させようと躍起になっていることだ。こうした現象は、軍事力の強弱を大きく左右する「兵士の士気」や「継戦能力」に深く関わるとの見方がある。

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中国はここ10年近く、南シナ海に人工島を設ける動きを続けてきた。人工島群にレーダーや各種ミサイルを配備するなどして外国軍の作戦機や艦船を近づけさせない態勢をとり、聖域化した海域に潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を搭載した戦略原子力潜水艦を配備するのが目的だった。

SLBMは、戦時に最後まで海中深くに温存することで敵ににらみを利かせ、自国が極端に不利なかたちで戦争を終える事態を避けるための「最終兵器」だ。地上配備のICBMだと敵の先制攻撃を受けてつぶされてしまう恐れがあるので、冷戦時代、米軍やソ連軍など核兵器保有国の軍隊は競ってSLBMを配備してきた。

中国軍が内モンゴル自治区で新設を進めているICBM用とみられる発射施設の衛星写真(2021年2月発表)=全米科学者連盟のハンス・クリステンセン氏提供・共同

一方、中国軍が最近、内陸部の砂漠地帯などに新たなICBM基地を相次いで建設しているのは、南シナ海の一部海域を聖域化しSLBMを配備したものの、有事にこれらを守り切る自信がなくなったことも一因とみられる。

潜水艦が「白旗」

人工島群は動けないので、有事には敵軍の攻撃で破壊されやすい。同時に、中国の戦略原潜やこれを警護する攻撃型原子力潜水艦の能力は相対的に低く、有事には米海軍や海上自衛隊の潜水艦、対潜哨戒機に撃沈される可能性が小さくない。

浮上後、中国国旗を掲げた中国海軍の潜水艦(18年1月、尖閣諸島の接続水域内)=防衛省提供

中国の潜水艦が、その実力を不名誉なかたちで世界に示した出来事が2018年1月に起きている。一隻の中国潜水艦が尖閣諸島の接続水域を潜没したまま航行していたところ、たちまち自衛隊に探知された。中国艦は、潜航したまま領海に入れば国際法上の「国籍不明潜水艦」と海自にみなされ、爆雷攻撃を受けかねないと判断したのであろう。早々と浮上して国旗という「白旗」を掲げた。この時の中国艦の動きを、士気の低さのあらわれだとする見方は日米関係者の間で少なくない。

中国共産党政権は過去四半世紀、右肩上がりの軍事費増額を続け、軍事パレードや観艦式で軍の強大化を世界に訴えてきた。ただ、軍事力とは兵員数や兵器の数といった「目で見える要素」と、兵士の士気という「見えない要素」を掛け合わせたものだ。中国海軍が配備を進める空母部隊をめぐっても、防衛省背広組のあるOBは「撃沈リスクを恐れて、中国空母は有事には軍港から出てこないだろう」と予測する。

2021年4月、フィリピン海で中国空母を監視する米ミサイル駆逐艦の艦長㊧ら=米海軍ホームページより

中国軍の兵士の士気には、同軍が世界でも有数の「一人っ子軍隊」であることが絡んでいるとみる識者がいる。陸上自衛隊OBで防衛省情報本部などで長く東アジアの軍事情勢を分析してきた軍事評論家の西村金一氏によると「中国軍の兵士の7割以上が一人っ子で、残りは親が罰金を払ってもうけた2人目以降の子供」だという。親や先祖を敬うのが子のつとめという儒教的価値観が根強い中国では、親は自分より先に子供に先立たれることを嫌う。子供が一人しかいないならなおさらだ。

募集環境が悪化
中国社会には、優れた人間は軍人にはならないという意味の「よい鉄はくぎにならない」という言葉があるほど、軍人を軽くみる傾向がある。こうした社会風潮の中でも十分な人材を集められるよう、中国共産党政権は給与や年金などの充実に務めてきた。8月1日には新たに「軍人地位・権益保障法」を施行させてイメージアップに躍起になっているが、そのことは逆に、近年の急激な少子化で募集環境の悪化に歯止めがかかっていないことを示している。西村氏は「中国軍は近年、軍艦や戦闘機などの配備を増やしてきたが、稼働率は高いとは言えない。整備・修理などを十分こなせるだけの軍人の質が確保できていないようだ」と分析する。

中国は、民衆の支持を失った王朝が滅亡する、いわば「民衆による王朝使い捨て」の歴史を繰り返してきたとの見方がある。日清戦争でも、士気の低かった清国海軍が、水兵の反乱などを経て当時の新興国・日本の海軍に敗れたのを引き金に、国全体が内乱と半植民地化の時代に入り、最終的に清国は滅んだ。勝てる保証がない戦争に踏み切ることは、中国共産党にとっては政権を失うリスクを冒すことを意味する。

習近平政権はできれば35年、遅くとも今世紀半ばまでに、中国軍を米軍に対抗しうる一流の軍隊に育てる腹づもりだが、「脱・一人っ子軍隊」という難題を克服しなければならない。今世紀半ばまでに一人っ子ではない若者が多数を占める軍隊をつくるには、いまただちに対策に動く必要がある。習政権が最近あの手この手で出生数向上策を講じ始めたことには、一般的な労働人口の確保という問題意識とともに、軍事面での深刻な焦りもにじんでいるのではないか。

中国のTB001偵察・攻撃型無人機と推定される航空機(21年8月、東シナ海上空)=防衛省提供

中国軍は近年、無人機や弾道ミサイルといった「使っても人的犠牲を伴わなくて済む兵器」への傾斜を深めている。その配備数は、弾道ミサイルであれば数千発にも膨れ上がる。さらに、日本ではあまり知られていないが、中国軍の軍事ドクトリンの一つに、「建軍時の恩師」であるソ連軍直伝の「緒戦で大量のミサイル発射、事後ただちに戦線を離脱」というものがある。近年、中国軍が戦闘機や水上艦、潜水艦の配備数増大を急いでいるのは、緒戦で投入可能な「ミサイルの発射台」を増やしたいという意図のあらわれとも読める。無人機も同じ発想で運用するとみられる。

先々、米国などとの軍事的緊張が高まれば、中国軍として既にやっているように、ずらりと並べた兵器を誇示して相手を威嚇・抑止しようとするだろう。衝突が避けられないと踏めば、ドクトリンに沿って「緒戦で大量のミサイル・無人機攻撃」に踏み切る公算が大きい。

日本としては、中国軍が緒戦での大量攻撃でこちらの継戦意識を低くしようとしてきても持ちこたえられるような「軍民両面での被害低減策の充実」が必要だ。大量のミサイルや無人機による攻撃に対処できるよう、高出力レーザーや、電磁力を利用して高速で弾丸を打ち出すレールガン(電磁砲)といった「次世代兵器の開発・配備」も急務となる。実はこれらの兵器の技術基盤は既に日本にそろっているのだが、国内での認知度が高いとはいえないのが現状だ。

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