[FT]アフガン農村部から農民が大流出

[FT]アフガン農村部から農民が大流出 タリバンに痛手
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『アフガニスタンの首都カブールに近いワルダク州。白いあごひげをたくわえたムハンマドさんは、緑に覆われた土地で農業一筋に励んできた。リンゴとアプリコット、小麦の栽培に加え、牛や羊など多くの家畜を飼っていた。

アフガニスタンでは多くの農民が干ばつの影響を受けている=AP

しかし今、その動物たちはいなくなり、果樹園は相次ぐ干ばつで干上がってしまった。ムハンマドさんは、立ち枯れた木を切り倒して薪にしている。「農地だったとは想像もできないだろう。砂漠のようだ」とムハンマドさんは自分の土地について話した。

アフガンの農村部を見舞った干ばつと経済危機は、イスラム主義組織タリバンの新政権にとって最大の難題の一つになるだろう。国際援助機関は人道危機に発展することを危惧している。

ムハンマドさんが農地の灌漑(かんがい)に使っていた太陽光発電でくみ上げる井戸は、水が枯れてしまった。近くに流れていた2つの小川も同様だ。2021年の干ばつはあまりにもひどく、一家は飲み水にも不自由するようになった。「私たちはこの夏、土地を離れることに決めた」

家族は今、離れ離れになっている。5人の息子はカブールへ移り、作業員や運転手、警備員をしている。ムハンマドさんは西へ移り小作人としての働き口を探すことを考えている。

高い農業への依存度

アフガンの農村部には4000万人に近い総人口の75%ほどが居住し、そのほとんどが直接的または間接的に農業に依存している。だが、頻発する干ばつが何百万人もの生計と食料の確保を脅かしている。干ばつは、アフガンが大きな影響を受けている気候変動に起因する現象の一つだ。

タリバンは、女性に対する超保守的な制限などが都市部より受け入れられやすい農村部を大きな基盤にしている。だが、国際援助の停止やインフレ、現金の不足に直面するなかで、タリバンは慢性的な干ばつと農村部の大規模な貧困に対処しきれないと専門家はみている。

国連は飢饉(ききん)が発生する恐れがあると警告している。すでに総人口の3分の1が飢餓状態にあり、さらに多くの人々がその危険にさらされている。

英シンクタンク海外開発研究所(ODI)のアシュレイ・ジャクソン氏「干ばつだけではない。この政治的危機による大幅なインフレ、それにもちろん流動性の危機と国境封鎖による貿易の停止がある」と指摘する。

「干ばつに加え、人々の生存や適応に役立ちうるあらゆる要素が奪われてしまっているという最悪の状況だ」という。

各国や国際機関は13日の国連の緊急会合で、アフガンへの人道支援に10億ドル(約1100億円)超の拠出を確約した。

だが、グテレス国連事務総長は「アフガニスタンの経済が崩壊すれば、人道支援は問題の解決にならない」と警鐘を鳴らした。

国連は干ばつの頻発を警告

アフガンは気候の劇的な変化によって大打撃を受けている。干ばつが毎年起こるようになると警告を発した16年の国連報告書によると、冬の大雪と春の豪雨が国内の一部で干ばつの深刻化につながる一方で、他の地域では洪水を引き起こしている。

国際赤十字社・赤新月社連盟は、アフガンの国土の8割以上が干ばつに見舞われているとしている。

人口動態と数十年にわたる戦争が危機を悪化させている。世界銀行によると、アフガンの総人口は旧タリバン政権時代の1990年代からほぼ倍増している。その一方で、過去20年間の戦闘の大部分は農村や農地で繰り広げられ、作物に損害を与えて交易を混乱させるとともに数万人の命を奪った。

カブール郊外のシャマリ平原でブドウ栽培を手がけるハジ・ジャンさんは、01年の米国主導のアフガン侵攻後、道路が新しく舗装され、冷蔵車でブドウをパキスタンに輸出できるようになってからは「とても景気が良かった」と振り返る。

だが戦闘の激化とともに、道路ばかりか畑の灌漑に利用していた用水路まで封鎖された。21年の収穫は、タリバンとアフガン政府軍の戦闘で流通がまひし、ほとんど無駄になってしまった。「あまりにも不安定な状況になり」、最も出来の良かったブドウも「無になった」という。

ケシ栽培がタリバンの資金源に

タリバンは、アフガンの最も重要な作物について方針を決めなければならない。それはケシだ。アヘンの原料となるケシの栽培量は米主導のアフガン侵攻以降、撲滅作戦に数十億ドルが費やされたにもかかわらず3倍に増加した。

英ロンドン大学キングス・カレッジのフィリップ・A・ベリー研究員はケシ栽培は貧しい地域の生命線で、アフガン全体で何十万人もが従事していると説明する。

タリバンは戦費の一部を麻薬で調達していたが、国際社会の承認を得るための努力の一環としてケシ栽培の取り締まりを約束している。だが、戦争が終わったことに感謝している農村部の人々を反タリバンに変えてしまう恐れがあるという。

「過去20年のケシ栽培禁止令はいずれも、経済的な代替策が用意されない限り、禁止が短命に終わる可能性が高いことを示している」とベリー氏は指摘する。「そのようなシナリオでは、新政権は農村部で支持を失うことになり、暴力的な抵抗に遭う恐れもある」

グル・ジャンさんにとって、もはや農業は安定をもたらすものではなくなっている。冒頭のムハンマドさんと同じワルダク州にある自分の土地に今も住んでいるが、もう農業はやめてカブールでバスの車掌として働いている。一緒に農業をしていた兄弟たちはイランへ移住し作業員として働いている。

かつてのリンゴとアプリコットの果樹園は今、冬に暖を取るための薪の供給源だ。家族は家の敷地内に残っている木を枯らさないようにと、その脇で水浴びをして水が土に染み込むようにしている。

だが、ジャンさんは無駄な努力だと受け止めている。「もう枯れつつある。枯れるのはわかっているのだから、もうできることは何もない」

By Benjamin Parkin and Fazelminallah Qazizai

(2021年9月14日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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