なぜバイデンは撤退に「失敗」したのか

なぜバイデンは撤退に「失敗」したのか
アフガン戦争の終結(前編)
小谷哲男 (明海大学外国語学部教授)
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/24258

※ 長いので、ポイントだけ…。

『しかし、近年のバイデンの対外介入への消極的な姿勢には、個人的な事情が影響していると考えられる。バイデンは、最愛の長男がイラクで従軍し、さらにその時の怪我が元で後に亡くなったことに何度も言及している。これを機に、息子や娘を兵隊として海外に送り出す家族の気持ちを強く意識するようになったという。バイデンのアフガン撤退へのこだわりにも、長男の死が影響していると考えられる。』

『米国世論を〝忠実に〟反映

 このような個人的な事情に加えて、世論の動向もバイデンに大きな影響を与えている。アフガン戦争の終結はバイデンの公約であり、8割近い米国内世論もこれを支持してきた。カブール陥落の混乱の中での撤退には半数の世論がこれを支持しないと答えているが、撤退そのものに対する支持は揺らいでいない。

 国内の関心はすでに経済回復や新型コロナウイルス対策、自然災害、中絶の権利などに向いており、アフガン撤退をめぐる失態は次第に米国人の記憶から薄らいでいくであろう。今年の9・11追悼式典でも、バイデンやブッシュ元大統領が国内の結束を呼びかけるなど、米国の内向きな姿勢が目立った。

 バイデンのアフガン撤退への決意は、世論に広がる厭戦気分を的確に反映したものである。米軍撤退完了後にバイデンが述べた通り、20年におよんだ戦争でビン・ラーディン率いるアルカイダを掃討するという目的はすでに達せられ、タリバンが復権したとはいえアフガニスタンはもはや米国にとって死活的な利益ではないのである。

 9・11は米国人に大きな衝撃を与えたとはいえ、米国がいつまでもアフガンに関与する理由にはならない。バイデン政権は「中間層のための外交」を掲げ、対外政策においても国内の労働者たちの生活の改善を重視するとしているが、その背景にはアフガン駐留や民主国家の建設は米国人の生活には利益をもたらさないという冷徹な判断が透けてみえる。』

『イエスマンだらけの国家安全保障チーム

 撤退の準備が不十分だったのは、バイデン政権の意思決定過程に問題がある。バイデン政権の国家安全保障チームは、「ベスト・アンド・ブライテスト」がそろっているが、「チーム・オブ・ライバルズ」とはいえない。バイデンは、長年の側近や考え方の近い人物を重宝しており、とりわけバイデンとサリバン、そしてブリンケン国務長官は三位一体といわれるほど結束が強い。

 また「外交のプロ」という自信からバイデンは対外政策に関して異論を聞き入れず、サリバンも国家安全保障会議で大統領が受け入れそうにないことは議題に挙げないという。4月にアフガン撤退が決まった後、これに反するように情報や意見は事実上封じ込められてしまったのである。

 今回の撤退に関して誰も抗議辞任しなかったことも、バイデン政権の特徴であろう。たとえば、トランプ政権では、クルド人の見殺しにつながるシリアからの米軍撤退に反対してマティス国防長官が辞任した。しかし、かつてイラクからの米軍撤退を指揮した経験を買われて入閣したオースティン国防長官は、軍が小規模な駐留の継続を求めているにもかかわらず、大統領の方針に正面から反対することはなかった。以上のように、バイデンがいわば裸の王様となっていたことが、惨めな撤退につながったのである。』