中国の急速な軍拡に身構え始めた欧州

中国の急速な軍拡に身構え始めた欧州、防備を固める台湾
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『中国の核兵器に言及したNATO

2021年6月、欧州ではアジアの安全保障にも深く関わる会合が立て続けに行われた。菅首相も出席し、英国コーンウォールで開かれたG7サミット(6月11~13日)。そして、その翌日、ブリュッセルでバイデン米大統領、ジョンソン英首相、マクロン仏大統領など、NATO(北大西洋条約機構)加盟30カ国の首脳会合が開かれた。

今回のNATOサミット・コミュニケで異例だったのは、中国の核兵器に言及したことだ。「中国は核の三本柱を確立するために、より多くの弾頭とより多くの発達した運搬手段を備えた核兵器を急速に拡大。その軍事的近代化と、公知となっている軍民融合戦略の実施に関して不透明となっている。…我々は中国の透明性の欠如と偽情報(を使ったサイバー攻撃)の頻用に懸念を抱いている」と表明した。

「核の三本柱」とは、核弾頭を搭載した大陸間弾道ミサイル(ICBM)、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)、重爆撃機の三種類の戦略核兵器のことを指す。

中国は米・英・仏・露の四カ国と同様、言わばNPT(核不拡散条約)等によって合法的となっている核兵器保有国。米国防省は20年、中国の核兵器について以下のような見通しを立てていた。

「今後10年間で中国の核弾頭の備蓄(現時点では200個超と推定)は、中国の核戦力の拡大、近代化に伴い、少なくとも2倍になると予測される」(米国防省リポート「中国の軍事力2020(MILITARY AND SECURITY DEVELOPMENTS INVOLVING THE PEOPLE’s REPUBLIC OF CHINA 2020)」)

さらに、同報告書は中国には「約100発のICBMが存在」し、「ICBM用の核弾頭は今後5年で約200個になる」と予測している。

中国の新型弾道ミサイルは欧米も射程内に

中国は近年、新型のDF-41型ICBMを2019年の軍事パレードで披露した他、JL-3型SLBM(核弾頭複数搭載)、それにH-20型ステルス重爆撃機を開発している。核弾頭を最大10個搭載できるとされるDF-41型ICBMは、移動式発射機や地面に縦抗を掘って固定発射装置にする「サイロ」から発射が可能。令和3(2021)年版「防衛白書」(防衛省刊)によれば、最大射程は推定で1万1200km、この射程ならば、中国本土から米国本土北西部のみならず、ロンドンやパリも射程内に収まる。

そして、JL-3型SLBMも最大射程は1万2000~4000km(同「防衛白書」)。潜水艦発射弾道ミサイルを搭載した潜水艦は、敵に探知されにくい充分な深さの海中に潜行している限り、ICBMや重爆撃機よりも敵の核攻撃に対する耐性があり、反撃に使用できる装備とも言える。中国はJL-3型SLBMを開発中の096型弾道ミサイル搭載原子力潜水艦に搭載するとみられている。

中国にとって南シナ海はいかに死活的に重要かということは、拙論「米中激突の危機高まる南シナ海、カギを握る台湾」で詳述した。中国の周辺には、黄海、東シナ海、南シナ海があるが、黄海の平均水深は約50m。東シナ海はほとんどが200m未満。この水深だと、巨大なミサイル原潜の動きは、敵の有人、無人の哨戒機、潜水艦や対潜水艦作戦艦に捕捉されかねない。それに対して南シナ海の中央部には、水深2000~4000mの海域が広がっている。

また、南シナ海の北にある中国領、海南島の玉林には大規模な海軍基地があり、核弾頭を装備するJL-2型SLBMを最大12発搭載可能な094型(晋級)ミサイル原潜4隻も配備されているとみられる(「Jane’s Fighting Ships 2019-20」)。

中国・海南島の軍港に停泊するのは中国海軍の094型戦略ミサイル原潜とみられる Google Earth

JL-2ミサイルの最大射程は8000kmとみられ、米国本土を射程にするには、094型ミサイル原潜は日本、米国の潜水艦ハンターの眼をかいくぐって太平洋に出る必要がある。

JL-3型ミサイルの開発はパンドラの箱か?

ところが、「中国がJL-3など、より長射程のSLBMを配備すれば、中国海軍は自国の沿岸海域から米国を標的とする能力を獲得する」(「中国の軍事力2020」)ことになる。最大射程1万2000~4000kmのJL-3型ミサイルを搭載した096型ミサイル原潜なら、南シナ海に潜行したまま、米国本土北西部のみならず、ロンドン、パリも射程内となりうる。

中国が096型ミサイル原潜/JL-3潜水艦発射弾道ミサイル・プロジェクトを放棄する可能性は2021年8月現在、うかがえない。同プロジェクトがこのまま進行し、現実のものとなるならば、それは中国の軍拡を「対岸の火事」視していたNATO加盟国をも巻き込む「パンドラの箱」になるかもしれない。

前述のNATOサミット・コミュニケには、「NATOはNATOに対する核兵器の使用は、紛争の性質を根本的に変えるであろうことを繰り返し強調する。…NATOのいずれかのメンバーの基本的な安全が脅かされた場合、NATOは敵に耐え難いコストを課す能力と決意がある」と明記している。

この文中にある「敵」の国名は明らかにされていないが、「より多くの弾頭とより多くの発達した運搬手段を備えた核兵器を急速に拡大している」と言えば、それはロシアではなく、中国が想起される。

中国の核兵器に対してNATOは万が一の場合、どのように対応するだろうか。敵が何者であれ、核兵器を使用すれば、「NATOは敵に耐え難いコストを課す」というのであれば、それは核兵器による報復をも視野に入れるという意味だろう。

NATOの保有する核弾頭の総数は6065個

では、NATOは敵に「耐え難いコスト」を与えるだけの反撃用の核弾頭を保有しているのだろうか。下の表は2021年1月現在の保有を許された核保有国の核弾頭保有推定数である。

5大国の核兵器推定保有数(2021年1月:SIPRI YEAR BOOK 2021より)

国名 核弾頭(配備済) 核弾頭(未配備等) 計(2021年1月現在)
米国 1800 3750 5550
ロシア 1625 4630 6255
英国 120 105 225
フランス 280 10 290
中国 不明 350 350+α

これを見ると、NATOの米・英・仏の核弾頭の総数は6065個。単純な比較は難しいが、その内、新START(新戦略兵器削減条約)でロシアとバランスをとりながら削減している米国の核弾頭を除く、英・仏の核弾頭総数は515個。英・仏の合計だけで、中国の総数350個を上回る。もちろん、前述の通り、中国の核兵器・核弾頭の数は今後、急増する可能性がある。
また、英国はすべての核弾頭を最大射程1万2000kmのトライデントⅡD5潜水艦発射弾道ミサイルに装備。フランスは射程10000kmのM51・2潜水艦発射弾道ミサイル等に搭載している。射程10000kmを超えれば、大西洋からでも中国のほとんどが射程内となる。

万が一の核攻撃に反撃するためには、敵の核兵器、特に核ミサイルの発射を探知して、敵は誰かを割り出し、飛翔コースを捕捉して、どこに核攻撃が行われるか、短時間の内に予測しなければならない。米国は弾道ミサイルの発射を探知するために、静止衛星軌道に5~6個の早期警戒衛星を置いており、その赤外線センサーで発射を探知する。

だが、早期警戒衛星の赤外線センサーは、ミサイルの噴射熱と弾頭が大気圏再突入する際の熱を捉えることはできるが、噴射終了後から大気圏に再突入するまでの、いわゆる中間段階は捕捉しにくい。このため噴射終了後のミサイルの航跡を捕捉するためには、別のセンサーが必要になる。

台湾に新たな巨大レーダーを設置か?

そこで注目されるのが台湾北東部・新竹市にそびえる標高2500m級の樂山(ルーサン)の山頂に立っている、民間衛星画像でも分かる巨大な構造物だ。これは台湾空軍の「安邦計画」に基づき、1200億円もの巨費をかけて建設され2012年末に完成した、当時、世界最高水準の早期警戒用のフェイズドアレイ・レーダーのアンテナである(「中央社」(2013/1/3付)。

台湾北東部新竹県の標高2500m級の樂山(ルーサン)にある巨大なレーダー。アンテナの一辺は約30mとも言われる Maxar Technologies/Google Earth

このレーダーについても以前、「米中激突の危機高まる南シナ海、カギを握る台湾」で詳述した。米国にとって台湾・樂山のEWR/SRPは将来、突然、南シナ海の海中から米本土に向かって飛翔する潜水艦発射弾道ミサイルを捕捉・追尾するのに欠かせない監視の「目」となる。

しかし、米本土への戦略ミサイル攻撃に対する抑止に直結するだけに、EWR/SRPは樂山の1基だけで充分なのだろうか。台湾の「中国時報」紙(2021/4/21付け)は、巨大レーダーについて興味深い記事を掲載した。

「(台湾)軍は『新しい早期警戒レーダー・システム』を導入して南部の山岳地帯に配備する計画を立てている。新しい早期警戒レーダーが空軍の(樂山)基地と同じ(筆者注:米戦略レーダーPave Pawsをベースとする)タイプの長距離早期警戒レーダーであるかどうかについて、防衛(当局)はコメントしないと述べた」という。

台湾議会に提出された台湾防衛当局のリポートには、「新しい早期警戒レーダー・システム」と記述しているため、一般的な防空レーダーでないことは間違いなさそうだ。

いずれにせよ、早期警戒レーダーが別々の場所に2基となれば、1基が攻撃を受けても、もう1基は機能し続ける可能性など、レーダーそのものの運用維持、死角を減らすという観点からも意味がある。

そして、台湾の早期警戒レーダーが2基となれば、将来、南シナ海の海中から放たれた弾道ミサイルや極(ごく)超音速ミサイルがどこへ向かうのか。米本土なのか、NATO諸国なのか、それとも別の場所なのかをより短時間、より高精度で識別・予測することが可能になり、日本にとっても大きな意味を持つことになるだろう。

C-17A輸送機が台湾に飛来した意味

台湾内で2基目の早期警戒レーダー導入の可能性について報道されたおよそ1カ月半後の2021年6月6日、米国の3人の上院議員が台湾を訪問し、米国が75万回分の新型コロナウイルスワクチンを提供すると発表、たった3時間の滞在中に蔡英文総統や国防部長とも会談した。

軍事的に注目されたのは、3人の議員を乗せてきたのが米空軍のC-17AグローブマスターⅢ輸送機だったということだ。C-17Aはもともと、重量60トンを超える米陸軍のM1エイブラムス戦車を1両、また、AH-64アパッチ攻撃ヘリコプターを3機、空輸できる。

米軍の輸送機C-17Aで台北の空港に降り立った米国議会上院の軍事委員会や外交委員会に所属する超党派の議員団。2021年6月6日 AFP=時事

米空軍は200機以上のC-17Aを運用しているが、台湾に乗り入れをしたのはこの時が初めてだった。しかも、着陸した時の画像を見ると、対空ミサイルにレーザーを発射して妨害する、強力な防御装置が付いていた。

わずか3時間の滞在が意味するのは、ワクチン供給を約すためだけではなく、台湾の飛行場が物理的にC-17を受け入れ可能で、米軍の戦車や装甲車、攻撃ヘリコプターを台湾にピストン輸送できる能力と可能性があることを誇示したかったのかもしれない。

中国は3隻目の空母、003型を建造するなど、海上戦力の拡大をはかっているが、台湾自身もユニークな防衛策を図ろうとしている。日本の海上保安庁にあたる、台湾の海巡署では2021年、600トン型安平級巡視船が進水した。安平級巡視船は全部で12隻建造される予定だが、いざという場合には、台湾独自の対艦ミサイルを計16発搭載可能とされる。この16発の内、8発は超音速ミサイルの雄風Ⅲ型だ。超音速の対艦ミサイルは現時点では、海上自衛隊も保有していない。

インド・太平洋を巡る情勢は緊迫度を増している。防衛省は8月25日、沖縄の南方で英海軍の最新鋭空母クイーン・エリザベスを中核とする打撃群との共同訓練を24日に行ったと公表した。共同訓練には米国とオランダも参加。米英は日本も導入を決めている短距離離陸・垂直着陸が可能なF35Bステルス戦闘機を訓練に投入している。

21年5月には日本国内では初となる陸上自衛隊とフランス陸軍との共同訓練を九州の演習場で実施した。また、ドイツはフリゲート艦バイエルンをインド太平洋地域に向けて出航させ、8月29日にソマリア沖で海上自衛隊の護衛艦ゆうぎりと共同訓練を実施。11月には日本に寄港する予定だ。米中のエスカレートする対立は確実に欧州をも巻き込み始めている。

バナー写真:NATO本部で開かれたNATO首脳会議で討議するジョンソン英国首相(左端)、バイデン米国大統領(左から2人目)、ストルテンベルグNATO事務総長(中央)、デ・クロー・ベルギー首相(右端) 2021年6月14日 AFP=時事

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能勢 伸之NOSE Nobuyuki経歴・執筆一覧を見る

軍事ジャーナリスト。1958年京都市生まれ。早稲田大学第一文学部卒。防衛問題担当が長く、1999年のコソボ紛争をベオグラードとNATO本部の双方で取材。著書に『ミサイル防衛』(新潮新書)、『東アジアの軍事情勢はこれからどうなるのか』(PHP新書)、『検証 日本着弾』(共著)など。』