[FT]「利上げ派」と「利下げ派」に分かれる新興国

[FT]「利上げ派」と「利下げ派」に分かれる新興国
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『1年前、新興国は新型コロナウイルスの感染拡大を抑え込むためにロックダウン(都市封鎖)を実施しても自国経済は耐えられるかという問題に直面したが、先進国は巨額の財政出動を実施してその板挟みから逃れた。

ブラジルは物価上昇を抑えるため今年、政策金利を複数回引き上げた=ロイター
今、途上国が直面する大きな課題は、物価上昇を抑えるために利上げを実施すべきかどうかだ。やはり西側諸国の中央銀行がこれまで先送りしてきた問題だ。

新興国は西側諸国より、すでに経済の安定が物価上昇によって脅かされている。一因は世界的な食料価格の急騰だ。国連食糧農業機関(FAO)が算出する食料価格指数 は10年ぶりの高水準に迫っている。

こうした物価高騰は、2010~11年にかけてアラブ諸国で民主化運動「アラブの春」が広がる前にも起きている。英調査会社テリマーで新興国市場を担当するストラテジスト、ハスナイン・マリク 氏は「前回は中東だった。次は南米やアジアのどこかで起きないと、誰が言えるだろうか」と語った。

インフレ対応をめぐり、新興国の中銀はタカ派とハト派に分かれている。南米だけを見ても、主要国の物価上昇率はいずれも中銀のインフレ目標をすでに上回っている。

ブラジルは利上げ後も物価上昇止まらず

ブラジルやロシアといったタカ派的な国は今年すでに複数回の利上げを実施し、物価抑制に向けて動き出している。

食料価格が急上昇する中で下院選挙を今月実施するロシアでは、インフレは特に厄介な問題だ。ロシア中銀は先週、世界の物価上昇を抑え込めなければ2008年のような世界的な金融危機の再来を招くと発言し、タカ派的な一面を示した。

今年に入って 政策金利はすでに2.25%引き上げられて現在は6.5%。10日には追加利上げも予想されている。

ブラジル中銀も物価上昇の抑制に乗り出し、2%の記録的な低水準にあった政策金利を4会合連続で引き上げている。

しかし、ブラジルの通貨レアルが貿易相手国の通貨に対して下落し、ボルソナロ大統領の新型コロナ対策や一段と非民主主義的になる発言を投資家が警戒する中で、物価上昇は続いている。

トルコは中銀総裁を相次ぎ解任

これに対し、トルコやポーランドなどのハト派的な国では、政府が公然と景気対策を打ち、物価が急上昇している。

ポーランドでは、保守与党「法と正義(PiS)」が掲げる積極財政のもとでインフレ率が5.4%と10年ぶりの高水準に達している。これを受け、元中銀総裁や政府に批判的な人々は、物価上昇を抑え込まなければ「大惨事」を招きかねないと警鐘を鳴らした。

ハト派的なグラピンスキ中銀総裁は今週、利上げは「リスクが非常に高い」と発言した。8日の政策決定会合では、政策金利を0.1%に据え置いている。

トルコでは、4~6月期の実質国内総生産(GDP)が前年同期比で22%近く増加し、8月の消費者物価指数(CPI)総合指数が前年同月比 19.25%上昇した。

カブジュオール中銀総裁はこれまで、インフレを上回る水準に政策金利を維持する方針を示していたが8日、判断材料とする消費者物価指数をこれまでの総合指数からコア指数に変更すると発言した。同国ではコア指数の方が総合指数より低めに出るため、これまでの判断基準を引き下げた形になる。現在の政策金利は19%に設定されている。

英ブルーベイ・アセット・マネジメントのティモシー・アッシュ氏 はカブジュオール総裁が「最も早い段階で利下げする」と予想する。「金利の敵」を自認するエルドアン大統領は19年以降、金融政策の引き締めペースが速すぎるとして中銀総裁を3人解任した。

ロックダウンの厳しさが左右

アナリストらは、新型コロナの感染拡大を封じ込めるために政府が実施したロックダウンの厳しさがインフレ動向を決める要因になっていると指摘する。

インドのように経済活動を止めようとしなかった国の方が経済成長率もインフレ率も高くなっているというのだ。

「感染拡大という痛み、新型コロナの入院患者や死亡者の大幅増を甘受したということは、裏返せば自国経済の息を止めなかったということ。つまり経済活動が維持され、インフレ率が押し上げられたということになる」とテリマーのマリク氏は語った。

これに対し、厳しいロックダウンを実施した南アフリカやアジアの一部の国では逆の現象が起きている。

デフレ色が強まっている国も

目下、世界でも特に厳格なロックダウンを敷いているタイでは、8月のインフレ率がマイナス0.02%と下落に転じた 。南アフリカは昨年厳しいロックダウンを実施したにもかかわらず感染が広がり、物価上昇率は7月に直近3カ月で最低水準になった。

格付け会社S&Pグローバル・レーティングで新興国市場を担当するリードエコノミスト、タチアナ・ルイセンコ氏は、こうした国では「デフレ傾向が非常に強くなっている」とみる。

新型コロナの新規感染者をゼロに抑え込むため、隔離措置や検査などを徹底した中国では、世界の需要増加を背景に生産者物価が上昇している。ただ消費者物価の上昇率は1%前後に下がり、中国人民銀行(中央銀行)は景気回復の腰折れを防ぐために金融政策を緩和するとみられている。

経済停滞と物価の不安定化のどちらが耐えがたいかという問題は、世界各国の政策決定者に共通する。だがインフレが制御不能になった場合、大きな打撃を受けるのは間違いなく新興国市場の方だ。

タカ派陣営国の中でも現在、政策金利がインフレ率を上回っているのはロシアだけだ。他の国々が物価上昇を抑えようと思えば、もっと大幅な利上げが必要になるだろう。

By Jonathan Wheatley

(2021年9月9日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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