[FT]仮想通貨法定のエルサルバドル、独裁懸念で国債売り

[FT]仮想通貨法定のエルサルバドル、独裁懸念で国債売り
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『中米エルサルバドルで7日、暗号資産(仮想通貨)のビットコインが法定通貨となった。同国の債券市場では、ブケレ大統領の政治手法に対する懸念の高まりから今年前半以降売りが先行していたが、世界から注目を集める新手の通貨政策が実施されたことで、金融市場から新たな圧力を受けることになった。

首都サンサルバドルでビットコインの法定通貨化とブケレ大統領に抗議する市民=ロイター

世界に先駆けてエルサルバドルで法定通貨となった最初の日、ビットコインの価格は10%余り急落した。ブケレ氏は臆することなくツイッターでビットコイン保有高を積み増したことを表明。「押し目買い。150枚(約7億5000万円相当)追加購入した」とツイートし、「ビットコインデー」のハッシュタグとウインクの絵文字を添えた。

だが債券市場は冷ややかだった。今週に入ってから売り圧力が一段と強まり、米ドル建てエルサルバドル長期国債の利回りは11%近くまで上昇、短期国債利回りは14%に達した。6月にブケレ氏がビットコインを法定通貨にする考えを示す前は、エルサルバドル長期国債の利回りは8.5%前後で推移していた。

債券市場で逆イールド

さらに7日には短期債の価格が長期債を下回る逆イールドが生じ、市場の歪みが一段と明らかになった。英投資銀行バンクトラストのグローバルマーケット責任者ディーン・タイラー氏は「それ(逆イールド)は、よい兆候ではない。投資家が近い将来の金融情勢に疑念を抱き始めていることを意味する」と指摘する。

国内総生産(GDP)が250億ドル(約2.8兆円)で西側諸国では貧しい方とされるエルサルバドルがビットコインを法定通貨にするというハイリスクかつ高コストの賭けに出ることに、投資家は当初から懐疑的だった。ビットコイン価格はこの1年間、1万ドルから一時は6万4000ドルまで大幅に上昇し、現在は4万6000ドル程度まで反落している。変動の激しい暗号資産を国民が毎日の生活で使う通貨にするというブケレ氏の急ごしらえの計画は世界中で大きく報じられた。

多くの人が金融システムを利用することを可能にする「金融包摂」 のテクノロジーに投資する米非営利団体アクシオンのマイケル・シュライン最高経営責任者(CEO)は「もし今後あなたの給料をビットコインで支払うと言われたら、多くの疑問を持つでしょう。貧困層が暗号資産で貯蓄するという考え方が不条理だ。暗号資産は極めて変動が激しく、(エルサルバドルの貧困層は)世界で最も弱い立場にある人たちなのだから」

だがトレーダーは、直近のエルサルバドル国債の下落の理由は無謀な暗号資産のギャンブルに対する懸念だけではないと見ている。複数のトレーダーは、大統領の権力を強化しようとするブケレ氏の姿勢も問題視されているという。

最高裁判事更迭後、大統領の再選を可能に

3日の夜遅く、エルサルバドルの最高裁である憲法法廷は大統領の連続再選を可能とする判断を出し、米国から非難を浴びた。その数カ月前には、ブケレ氏が属する政党が過半数を握る立法議会が5人の最高裁判事を更迭し、ブケレ派の判事を送り込んでいた。

英運用会社アバディーン・スタンダード・インベストメンツの投資ディレクター、ケビン・デイリー氏は「市場を本当に揺るがしたのは、(ブケレ氏が)再選されるために制度をねじ曲げたというニュースだ」と指摘する。

デイリー氏によると、このためにエルサルバドル債券のリスクプレミアムは、支払い能力を保っている新興市場のなかで最も高い水準に押し上げられたという。

米証券会社アマースト・ピアポントで中南米債券の責任者をつとめるシボン・モーデン氏は、この最高裁決定によって以前から米ドルを法定通貨とするエルサルバドルが、国際通貨基金(IMF)と合意し、切実に必要としている外貨を確保することが難しくなったという。

「このリスクプレミアムはブケレ氏が原因だ。中央集権的な意思決定構造だが、ブケレ氏は優秀なテクノクラート(技術官僚)に囲まれてはいない」

IMFは金融の安定や消費者保護、環境へのリスクを理由にビットコインの法定通貨化に反対している。

IMFは7月26日付の公式ブログに「ビットコインのような暗号資産が広範に使われるようになることの最も直接的なコストは、マクロ経済の安定への影響だ。(中略)金融政策の効果も薄れるだろう。中央銀行は外国通貨の金利を設定することはできない」と投稿した。
最終的に国民にしわ寄せも

さらに「しっかりとしたマネーロンダリング対策やテロ組織への資金供与対策が採られなければ、暗号資産は不法に入手された資金の洗浄、テロ組織への資金供給、脱税に利用される可能性がある」と続けた。

エルサルバドルは財政赤字の補填や新型コロナウイルス対策、既存の債務の借り換えなどに年間35億〜40億ドルの外貨を必要とする。同国政府はビットコインを法定通貨とするための初期費用は約2億ドルとしている。

エルサルバドルが最後に債券を発行したのは2020年7月。モーデン氏はそれ以降債券市場で資金を調達できなかったのは「ブケレ氏が財政赤字を出し続け、赤字がコロナ禍以前の約2倍、債務残高のGDP比は約90%という状況になっているため」と分析する。

2023年1月に約8億ドルの大型返済を控えたブケレ氏が取れる策は限られている。モーデン氏によると、IMFが8月に発展途上国などの対外的な外貨支払いの準備不足に備える特別引き出し権(SDR)を拡大したことで当座をしのぐメドはついた。だが、将来的には資金面で自国民に負担をかけざるを得なくなるおそれがあるという。

「国民は禁断の『最後の貸し手』だ。だが国民が貸すことを拒めば、私的年金の国有化はもとより資本統制などで国民から資金を吸い上げる強制的措置に移行する可能性がある」
つまりデイリー氏が言うように「不幸な結末に終わる可能性が高い」のだ。

By Michael Stott

(2021年9月9日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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