衛星攻撃能力「中国は使うと確信」

衛星攻撃能力「中国は使うと確信」 米宇宙軍トップ
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『【ワシントン=中村亮】米宇宙軍トップのジョン・レイモンド作戦部長は、中国が人工衛星の攻撃を目的とした兵器開発を推進していると指摘し「(中国は)起きうるいかなる戦闘でも開発中の能力を使うと確信している」と述べた。同盟国とともに宇宙を共同で防衛していくべきだとの認識を示した。

レイモンド氏が日本経済新聞の電話インタビューに応じた。米国は2019年12月、陸海空軍などと同格となる6番目の独立軍として宇宙軍を創設し、レイモンド氏は初代の作戦部長に就いた。同氏は大統領に助言を行う米軍の統合参謀本部で最高幹部の一人としても名を連ねる。

レイモンド氏は「宇宙は一段と(各国が)争う領域になっている」と指摘。「外交や経済、情報、国家安全保障のどの分野においても宇宙が土台だ」と強調し、軍事分野に限らず中国やロシアとの大国間競争で宇宙領域が一段と重要になるとの見方を示した。

軍事分野では「宇宙へのアクセスや作戦の自由は極めて重要だ」と指摘した。米軍では敵の位置把握やミサイルの捕捉、部隊間の通信などで人工衛星が大きな役割を果たしている。一方で中ロが戦闘の初期段階で米国の人工衛星を攻撃して米軍の戦闘能力を大幅に低下させるとの見方もある。

レイモンド氏はとくに中国に強い懸念を示した。中国がロボットアームで他の人工衛星を捕獲する「キラー衛星」に加え、対衛星ミサイルや全地球測位システム(GPS)妨害装置を開発していると指摘した。

中国に対する不信感を和らげるカギの一つは軍事当局間の対話だが、レイモンド氏は宇宙分野をめぐり「中国のリーダー層と対話していない」と説明した。トランプ前政権から続く米中関係の悪化が原因とみられる。対話の欠如が米中の軍拡競争に拍車をかけている面がある。

北大西洋条約機構(NATO)は6月の首脳会議で、加盟国の宇宙能力に攻撃があった場合、集団的自衛権の行使を定めた北大西洋条約第5条の適用対象になりうると共同声明に初めて明記した。レイモンド氏は「宇宙において同盟国と連携した作戦がますます重要になり、(宇宙を)共同防衛すべきだという認識」を反映したものだと説明した。

一方で1基の人工衛星が破壊されれば即座に集団的自衛権の発動に相当するかどうかは判然としない。攻撃に電磁波やサイバーなど目に見えない手法が使われれば攻撃主体がわかりにくい。NATOは共同声明で「適用はケースごとに決定を下す」として、想定される具体的な事例について議論を深めていくとみられる。

米国の対日防衛義務を定めた日米安保条約第5条は、日本の施政下にある領域での日本と米国いずれか一方への武力攻撃に対処すると規定している。地理的な境界がない宇宙での攻撃に対する適用は現時点ではハードルがあるとみられる。

レイモンド氏は第5条の宇宙分野への適用を検討するかどうかについて直接の回答を避けた。「中国との長期的な競争に直面しており、パートナーシップが将来も有益であり続けることが日米双方にとって極めて重要だ」と指摘し、今後の議論に含みを残した。

レイモンド氏は同盟国との具体的な協力内容に関しては、情報共有のスピードや精度を高め、有事に備えた共同演習を充実させる必要があると指摘した。同盟国と連携し、宇宙領域での国際的な行動規範をつくる考えも示した。

人工衛星などに対する攻撃は実行犯や手法が分かりづらいケースがある。反撃の根拠を示しにくく国民の理解を十分に得られない可能性がある半面、対応が遅れれば戦闘で一気に不利になるリスクもある。宇宙領域は陸海空などと比べ、同盟国間の意思疎通が一段と重みを増すとの見方がある。

バイデン米政権はアフガニスタンからの米軍撤収を強行して同国を見捨てたとの批判が出ている。宇宙分野での協力を拡大するうえでも同盟国やパートナー国の信頼のつなぎ留めが急務になっている。

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▼米宇宙軍 陸海空軍などと同格となる6番目の独立軍で、人工衛星の運用や宇宙での監視などにあたる。トランプ政権下の2019年、宇宙での軍事活動を強化している中国やロシアに対抗するために発足した。組織としては空軍と同じく、空軍省の管轄となる。
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鈴木一人
東京大学 公共政策大学院 教授

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ひとこと解説 米宇宙軍が出来る前からレイモンド大将は日本との協議を続けており、同盟国として日本との宇宙協力を強く推進している。

ただ、中国と対話しないのは米中対立以前に「ウルフ修正」という議会が制定したルールがあるから。

また、宇宙における集団的自衛権の発動は、宇宙における施政権が不明だからではなく(宇宙条約では「打ち上げ国」の概念があり、宇宙機に主権を及ぼすことが出来る)、宇宙機に対する攻撃に対して適切な報復がどの程度になるのかというルールが明確ではないため。

宇宙での戦闘に対する報復の仕組み、戦いのルールを作ることが先決。

2021年9月9日 7:34いいね
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渡部恒雄
笹川平和財団 上席研究員

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分析・考察 宇宙に限らず、サイバーなどの新領域では、この記事にある「対応が遅れれば戦闘で一気に不利になるリスク」だらけです。

過去の技術と国際情勢および過去の政治体制が作り出した安全保障への法的制約に縛られたままでは、もはや必要最小限の日本の防衛も遂行できないという現実が、宇宙領域の現状に現れていると思います。

集団的自衛権の行使を制約する発想では、もはや自国を効果的に防衛できないという現状を再認識すべきでしょう。

2021年9月9日 8:41いいね
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