総裁選が揺らす派閥政治 問われる政策の求心力

総裁選が揺らす派閥政治 問われる政策の求心力
恩恵薄れて縛りきかず
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODE07CTU0X00C21A9000000/

『自民党総裁選で派閥の動きがまとまらない。支援する候補を一本化できたのは会長の岸田文雄氏を推す岸田派くらいで、ほかの派閥は所属する国会議員を縛れていない。資金やポストの面倒をみるのが派閥から党執行部に代わり、議員にとって派閥に尽くす恩恵が薄れた。今回の総裁選は本来なら求心力であるべき政策不在の派閥のありさまを浮き彫りにしている。

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かつては総裁選でまとまった行動をとるのが派閥の大原則だった。派閥は国会議員の①資金②ポスト③選挙での公認――という3つを提供する機能があった。

政策面でも各派閥の特徴ははっきりしていた。

例えば池田勇人元首相の「所得倍増計画」や、田中角栄元首相の「日本列島改造論」や中国との国交正常化など、派閥の領袖が主に経済や外交で政策を掲げた。派閥はその実現を旗印に結束し、派閥トップを総裁に押し上げる原動力に変えた。

今の派閥に政策の色は薄い。

保守を掲げた中曽根派の流れをくむ二階派は中国との関係が深い二階俊博幹事長が率いる。自民党入りした野党出身議員らも入れて派閥の数を増やした。麻生派も派閥を大きくする過程で、源流とする宏池会(現岸田派)だけでなく、三木武夫氏が率いた派閥の出身者などを取り込んだ。

政策とトップ個人との結びつきが弱まれば派閥は単なる利益共同体となりかねない。さらにかつてのように資金やポストといった「利益」すら配分できなくなれば、まとまりを失うのは自明だ。

それでもなお派閥に存在意義を見いだそうとするなら、名実ともに「政策集団」という原点に立ち返る必要がある。

「かつて池田内閣は所得倍増計画で消費を喚起した」。岸田氏は8日の記者会見で宏池会を立ち上げた池田氏の看板政策に触れ、自らの経済政策を「令和版所得倍増」と表現した。派閥の特色を打ち出そうとの試みだ。

党内では衆院選を前に政策よりも世論受けを重視する雰囲気がある。河野太郎規制改革相がまだ総裁選の公約を示していないにもかかわらず、人気がある河野氏を支持する動きが各派で目立つのはその証左といえる。

変化のきっかけは1990年代の政治改革だ。それまでは1つの選挙区に同じ党から複数候補が出る中選挙区制。同じ選挙区で派閥の違う候補同士が争うため、派閥間の政策競争も盛んだった。

衆院が1選挙区で1人しか当選しない小選挙区制に移ると、党執行部が公認権を握り、各候補は党の公約の下で野党候補と戦うことになった。

あわせて国民1人あたり250円、総額300億円規模を政党に助成する制度が始まり、政党以外への企業・団体献金を禁じた。資金を持つのも派閥から政党に移った。

派閥全盛期の80年代は、夏に「氷代」、冬に「モチ代」と呼んで配る資金は1回あたり200万~400万円が相場だったとされる。

職を辞して政界をめざす候補者の活動資金から生活費までを派閥が世話した。所属する派閥領袖の方針に背くのは考えられなかった。

その分、当時の派閥幹部に資金力は不可欠で、リクルート事件や東京佐川急便事件など政治とカネの問題が続いた。

いま派閥が議員に渡すモチ代の相場は50万~100万円とされる。派閥の収入源は政治資金パーティーが大半で、逆に所属議員はパーティー券販売のノルマを課される。「資金面でのメリットはほとんどない」との声が漏れる。

派閥に入らない議員は89年には3%しかいなかった。2009年からの野党暮らしで36%まで増えた。12年末に政権復帰して派閥が盛り返したとはいえ、無派閥の割合は今も高止まりする。

19年の参院選前、公職選挙法違反で有罪が確定し当選無効になった河井案里元参院議員の陣営に党本部が送った選挙資金は計1億5000万円。このうち1億2000万円が政党交付金だった。

主要派閥の年間収入の6~7割分を1選挙区に投じた計算になる。一橋大の中北浩爾教授は「党本部の資金力が示されたという意味で、古くて新しい政治とカネの事件だった」と位置づける。

ポスト面からみても派閥に属する利点は減ってきた。以前は派閥均衡人事が徹底されたが今は首相が一本釣りする。派閥の希望を聞くことはあっても、差配は首相の腹一つで決まる。

一般的な不人気を覆して派閥の力で総裁を誕生させたのは98年の小渕恵三氏が事実上最後となる。それから四半世紀近い時が流れ、派閥が主導権を握って総裁を射止めた例は見当たらない。

派閥が支援したようにみえても、実態は世論調査で人気がある候補を推しただけの色が濃い。総裁選びの基準は派閥の意向でなく「選挙の顔」になるか否かになった。

今回のように衆目が一致する「勝ち馬」が見当たらないと、派閥がまとまらなくなるのは当然の帰結といえる。

野党の支持率が低く政権交代の脅威をあまり感じない期間が長引き、自民党が政策立案に真摯に向き合う動機も薄れた。国際情勢が流動的ななか政策重視の総裁選となるかが注目されている。

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鈴木一人
東京大学 公共政策大学院 教授

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分析・考察 中選挙区制時代の遺物である派閥は、元々派閥のボスを総理総裁に押し上げるための仕組みであった。

しかし、小選挙区制になり、総裁は必ずしも派閥のボスから選ばれるわけではなく、選挙の顔として機能することが期待されるようになると、総裁を生み出す(≒人事をコントロールする)仕組みとしての派閥の価値はなくなる。ゆえに派閥としてまとまった行動をとらないのは当然で、むしろ派閥単位で行動しようとする前時代の枠組みで政治家が行動していることの方が異常。

中選挙区制の記憶を持たない政治家が増えれば、いずれ派閥は政策を中心に集まるか、人間関係をつなぐ仕組みとしてしか残らないだろう。

2021年9月9日 7:28いいね
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菅野幹雄
日本経済新聞社 ワシントン支局長・本社コメンテーター

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ひとこと解説 派閥ってなんだろう。今週月曜日に別の記事でそんな問題提起をしましたが、この記事は私の疑問にかなり答えてくれました。

派閥というのは戦後日本で圧倒的な長期間にわたり政権与党に座っている自民党に特有の仕組みのように思います。いまのように若手議員が派閥での拘束に抵抗して自主投票をする動きが相次ぐと、そのシステムの綻びが露呈してしまいます。

キングメーカーでもない、カネもポストも結束も保証できない、政策面での特色も出せないとなれば、派閥という存在はどんどん形式的なものになっていくのかもしれません。新聞記者の政治取材もなお「派閥単位」ではあるのですが……。

2021年9月9日 7:51いいね
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