中国、食糧危機への備えか、世界中で食料・肥料を爆買い中

中国、食糧危機への備えか、世界中で食料・肥料を爆買い中
東アジア「深層取材ノート」(第103回)
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/66842

『習近平主席の肝煎りで、9月2日から7日まで「中国国際サービス貿易交易会」が、北京で開かれた。昨年年初から続くコロナ禍で、製造業に較べて回復が遅れているサービス業をV字回復させる「起爆剤」にしようと、首都で開いた国家プロジェクトだった。

中国の政権幹部が突如連呼しだした「食糧安全保障」
 その中で、普段は目立たない、ある習近平政権幹部のスピーチが、関係者の間で話題になった。5日に会場で行われた「2021年食糧現代サプライチェーン発展及び投資国際フォーラム」で、中国国家食糧・物資備蓄局の張務鋒(ちょう・むほう)局長が行ったスピーチだ。

 張局長は、こう述べた。

「中国は国家の食糧安全保障を、国家の大事、それも一丁目一番地としている。中国は、全世界の9%の耕地、6%の淡水資源での生産食糧でもって、世界の20%近い人口を支えていかねばならないのだ。

 国連は、2030年までの持続的な発展の貧困減少目標を定めているが、中国はそれを10年先駆けて実現した。それは空腹に喘(あえ)ぐ時代が去り、衣食満ち足りた時代を実現したということだ。腹一杯にならない時代から、腹一杯になり、かつおいしいものを食べる時代へという歴史的に重大な変転だ。

 世界のコロナの状況の起伏は定まらず、世界経済の復興はいまだ困難だ。そのような形勢下で、食糧安保が注目されている。(食糧の)サプライチェーンの安定が重要になってきているのだ。

 中国は新発展段階に入っており、発展と安全を統合している。新たな局面の中で、より高いクラスで、より高いレベルで、より効率的で、より持続可能な国家の食糧安全保障システムを急ぎ構築していく。今後は国内に軸足を持つことを堅持しながら、堅牢で強靭な食糧サプライチェーンを基礎に、国家の食糧安全戦略を全力で実施していく。『津々浦々までの食糧備蓄』を全面的に定着させていく。穀物の基本的な自給を確保し、食糧を絶対的に安全にする。食糧安全の主導権を着実に握り、14億中国人の食事をしっかり自己の手中に収めていく。

 中国は今後、強靭な食糧サプライチェーンを確保していくにあたって、重要な時期を迎える。良質な食糧供給を深く推進し、技術の創新・産品の創新・装備の創新・モデルの創新を推進し、インターネット・ビッグデータ・AIなど新世代の情報技術と食糧産業を深くつなげることを急ぎ推進し、食糧安全保障の作用を十分に創新していく。

 食糧安全保障の立法化を急ぎ進め、デジタル化された食糧監督管理システムを作り、食糧流通の法律執行行動をうまく取り行えるようにする。ゼロ容認で、カバー能力を強め、大国の食糧備蓄を固く守り抜いていく。』

『その一方で中国は、食糧サプライチェーンを強靭にする国際協力を深化させ、多種多様な形式の国際協力を展開していく。食糧貿易を利便化させ、サプライチェーンの上下間の協同を強化していく。国連の食糧農業機関(FAO)や世界食糧計画(WFP)などの国際機関が力を発揮していくことを支持する。情報共有・経験交流・技術提携・政策協同を強化し、国際的な食糧サプライチェーンの健全で安定した持続的な発展を推進していく」

 以上である。

 張局長は眉を吊り上げて、「食糧安全保障」や「食糧サプライチェーン」といった、一般人があまり耳慣れない言葉を強調したのである。

コロナ、洪水、旱魃で食糧生産に大ダメージか
 これは一体何を意味するのか? この交易会に参加していた中国人が語る。

「もしかしたら、これから食糧危機の時代に入ると、中国政府が見ているのではないか?
 国家統計局は昨年末、食糧の収穫量が前年比0.9%増で、6年連続1.3兆斤突破の豊作だったと発表した。だが昨年は、コロナ禍と、地球温暖化による洪水や旱魃増加で、とてもそのようには思えない。今年も、穀倉地帯の河南省が、夏の洪水で全滅に近いという噂も出ている」

 中国に食糧危機が近づいているから、食糧安保に躍起になっているという見方だ。』

『あの「食べ残し禁止令」も意識引き締めのためか

 私も、その可能性はあると見ている。私が初めて、近未来の中国の食糧危機について脳裏を掠(かす)めたのは、昨年8月のことだった。8月11日に新華社通信が、唐突に下記のような記事を配信したのだ。

<中共中央総書記・国家主席・中央軍事委主席である習近平が最近、レストランの浪費行為をストップさせるための重要指示を出した。彼はこう指摘した。「レストランの浪費現象には、目を覆い心を痛める! (残飯の)一粒一粒のもったいなさを誰が考えるのか」。

 たとえわが国の食糧生産が年々豊作でも、食糧安全に対しては終始、危機意識を持つべきだ。今年は世界的な新型コロナウイルスがもたらす影響が、さらにわれわれに警鐘を鳴らすだろう・・・>

 この時、習近平主席は、レストランでの食糧浪費の禁止を立法化し、監督監視するよう命じた。それによって、レストランが客数によって注文できる皿数を制限したり、残り物はすべて持ち帰りを義務づけたりするようになった。日本でも「中国の贅沢禁止令」として報道された。

 だが、国民がレストランで自分のカネを払って食事することにまで、これほどトップが目くじら立てて指令を出すというのは、いくら強権国家の中国でも、あまり例を見ない。そこには必ず、「そうしなければならない事情」があるはずなのだ。

 そうやって推理を巡らせていくと、中国政府は近未来に食糧危機が起こることを危惧しているのではないかという思いに至ったのだ。上述の新華社の記事でも、「食糧安全に対する危機意識を持つべきだ」としている。』

『世界中に影響を及ぼす、中国の食糧確保の動き
 9月7日付『日本経済新聞』は、「中国食糧安保、市場揺らす」という5段組の記事を掲載した。その要旨は、以下の通りだ。

・8月12日に米農務省が公表したレポートによれば、中国は2010年からトウモロコシ輸入を始め、2020年~2021年穀物年度(9月~8月)の輸入量は2600万トンと前年度3.4倍に増えた。

・前穀物年度に世界で生産された11億1541万トンのトウモロコシのうち、輸入量は1億8421万トンで、うち6割を中国が買っている。

・同様に中国の大豆の輸入量も約1億トンと、10年前の2倍強に増えた。

・今年夏前にシカゴ先物相場で一時、トウモロコシ価格が7年10カ月ぶりに小麦価格を抜いた。

・食糧輸入の増加とコロナ禍により、ばら積み船の市況を示すバルチック海運指数の上昇が、8月に急加速した。

『ファクトで読む米中新冷戦とアフター・コロナ』(近藤大介著、講談社現代新書)
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・すでに中国企業は、海外の農地や食品・流通企業の買収にも動いている。

・化学肥料の原料(窒素・リン・カリウム)確保にも躍起になっていて、リンの埋蔵量の7割を占めるモロッコ・西サハラ地域を視野に入れている。肥料価格も上昇している。

 以上である。ひとたび中国に食糧危機が起きれば、それは「世界の食糧危機」に直結することが分かるだろう。もちろん、日本としても他人事ではいられない。「豊作、豊作!」と毛沢東時代のように連呼する中国の食糧事情に、今後とも注視していく必要がある。』