[FT]アフガン撤退、EU軍事力をめぐる議論が再燃

[FT]アフガン撤退、EU軍事力をめぐる議論が再燃
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欧州連合(EU)は、独自の防衛力を築き「ハードパワーの本質」を養う必要性を米軍のアフガニスタン撤退から「身をもって学んだ」。EUの防衛産業問題担当委員のティエリー・ブルトン氏はこう語る。

EUの防衛産業問題担当委員のティエリー・ブルトン氏(右)は、EUが独自の防衛力を築く必要があると説く=AP

プルトン氏はフィナンシャル・タイムズ(FT)紙に、EU加盟国による共同防衛は「もはや選択肢ではない」と述べ、EUは国境などあらゆる場所で「完全に自立した」軍事行動を取れる能力を備えなくてはならないと指摘した。

歩調を合わせられない歴史

米軍のアフガン撤退で、欧州ではどこまで米国政府に頼れるのかという懸念が再燃している。EUは外交でも力を発揮できるのか。経済力に見合うだけの外交・軍事的負担をすべきなのでは、という議論をもたらした。

共同防衛という概念に関して、EUは歩調を合わせられずにいる長い歴史があり、外交官やアナリストの一部は今回も同様の状況になるのではないかと疑問を投げかける。米軍の元欧州総司令官ベン・ホッジス氏はFTに対し、北大西洋条約機構(NATO)と同じような組織を作っても欧州の安全性が高まるわけではなく、資源と人員を浪費するだけだとEUをけん制した。

EU本部は最近、国際危機に即時介入できる体制づくりに議論の焦点を当てている。だがEUは防衛資源を備蓄するというこれまでの試みを活用できていない。

EUが1999年に合意した共同防衛政策には、加盟国が60日以内に5万~6万人の部隊を国外に共同派遣できる体制を整えることが盛り込まれた。07年には世界中の紛争地にいつでも派遣できる1500人の戦闘部隊を2つ構築した。それらが出動したことは一度もない。

ブレトン氏は、EUはNATOを別組織に置き換えるのではなく、存在感が薄い地域でNATOを補強する方策を議論していると強調する。米国のアフガン撤退は、事前協議を受けなかった一部の欧州諸国とって「極めて難しい」決定だったとも話した。

ブレトン氏は「同盟国が中国、おそらくアジアをより重視していくことは理解している」と話す。「アフガニスタンで起きたことも含め、どのみち防衛に関して世界の結束を強めなければならないことを身をもって学んだ」

こうした議論は各国の首都で熱を帯びつつある。フランスのマクロン大統領はNATOの戦略や手段の見直しを主張してきた。

マクロン氏は先月31日、オランダのルッテ首相とエリゼ宮殿で会談した。両国はEUがNATOとの緊密な連携を維持しながらも、経済・軍事で「戦略的自立」を築く必要があると強調した。

共同声明では、両国は「そのために必要な資源を再配分し、欧州が粘り強さを発揮し、安全保障や防衛でもっと大きな責任を負う能力があると証明しなければならないと認識している」と明言した。

NATO依存ならトルコが課題にも

EUレベルでは、加盟国は軍艦や戦闘機も動員できる総勢5千人の初動部隊の新設を提案している。だがEU外相に当たるフォンテレス外交安全保障上級代表は、EU内には懐疑論が広がっていると語る。

「カブール空港を守るために配備された米兵の数は約5千人。(サハラ砂漠南部のサヘル地域)で展開している対テロの作戦「バルカン」に派遣したフランス軍の数は5千~6千人。これはさまざまな場面で状況を変えられるだけの人員規模なのだが」と、EU委員会の上級幹部はこぼす。

EU各国の外相らはスロベニアとの非公式協議でこのテーマについて話し合ったとみられる。22年3月と設定した防衛戦略の合意期限に先立ち、10月の外交政策委員会でも議題になる見込みだ。

前出のEU委員会の上級幹部は、初動部隊案は加盟国によるNATO参加では必ずしもカバーされない新たな紛争地に、EUが関わっていくことを保証するためのものだと説明する。「サイバー、宇宙、海洋といった世界の共用地へのアクセスを確保できるかどうかの問題だ。ここでEUがより大きな役割を果たせるようにする必要がある」

欧州諸国は、中東で発生しうる脅威に対抗する場合、NATOへの依存度を高めれば、NATO加盟國であるトルコの利益がEU加盟国のそれと食い違う状況になることを懸念している。

現在はシンクタンクの欧州政策分析センター(CEPA)に所属するホッジス氏は、欧州が防衛能力を強化することには賛成だが、EUが「『何をするために?』と問いたださなければならないような欧州軍の創設は、馬の前に荷馬車を置くようなものだ」とくぎを刺した。

仏独は選挙で内向きに

ポーランドやバルト三国などのEU加盟国は、欧州圏内での米軍やNATOの役割に疑問が生じるようなあらゆる提案に引き続き消極的だ。エストニア外交政策研究所所長のクリスティ・ライク氏は「エストニア政府からみて、欧州の集団防衛を強化する枠組みとしてNATOが今後も中核であるのは間違いない。アフガンで米国、そしてNATO全体として失敗したとしても、それが覆ることはない」と話す。

NATO自体もこれに同調する。ストルテンベルグ事務総長はFTに対し、欧州の防衛力を担保する上で「大西洋をまたぐ絆」の重要性はこれからも変わらないと語った。

EUを離脱した英国の役割も重要だ。1万人規模の強力な英仏合同遠征軍が設置されたことでも示された。

ドイツ国際安全保障研究所の防衛アナリスト、クラウディア・メジャー氏は、アフガン撤退がEU加盟国がそれぞれの防衛能力を真剣に考える転換点になるかどうかには疑問符をつける。

独仏で選挙が近づき域内の2大国が「内向き」に傾くなか、メジャー氏はこうした議論が下火になると予想する。「動けるようにするため、欧州が主権と能力を強める必要があることは誰もが同意する。だが言うだけではだめだ」

Sam Fleming and Henry Foy and Victor Mallet

(2021年9月3日付 英フィナンシャル・タイムズ紙 https://www.ft.com/)

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