中国勢の米IPO、8月ゼロに

中国勢の米IPO、8月ゼロに 米中の市場分断が加速
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『【ニューヨーク=宮本岳則、上海=土居倫之】新規株式公開(IPO)市場で米中の分断が加速している。ニューヨーク市場では8月、中国勢の新規上場がゼロとなった。米当局が追加の情報開示を要求したためだ。中国政府も2日、北京証券取引所の新設を打ち出すなど本土や香港での資金調達を促す。米中分断は市民の資産を預かる年金など機関投資家の運用リスクを高めかねない。

米調査会社ディールロジックによると、7月の中国企業のIPO件数は1件にとどまり、8月は1年4カ月ぶりにゼロとなった。1~6月期は資金調達額、件数ともに上半期として過去最高だったが、ここにきて急ブレーキがかかっている。7月上旬時点で少なくとも約50社が上場準備を進めていたが、米証券取引委員会(SEC)から承認を得られていない。

SECは中国企業に対し、上場目論見書に記載するリスク情報の拡充を求めている。米上場を計画する中国のホテル運営企業は8月末、目論見書を再提出し、中国政府が事業に影響を及ぼす可能性を詳しく説明した。

既存の上場企業にも圧力をかける。SECは米議会で2020年に成立した「外国企業説明責任法」に沿って上場規定の見直しを進める。中国勢は米国の上場企業会計監視委員会(PCAOB)による監査体制の検査を拒否してきたが、今後も拒み続けると早ければ24年にも上場廃止になる。

米上場の中国企業はこれまで検査拒否を黙認されるなど、事実上特別扱いを受けてきた。有力中国企業の上場誘致によってウォール街の金融機関や取引所は多額の手数料収入を得られるからだ。しかし、米中対立の激化や一部中国企業の不正会計問題で、特別扱いは難しくなってきた。

決定打になったのは中国の配車アプリ大手、滴滴出行(ディディ)の上場問題だ。中国当局は7月、中国企業の海外上場規制を強化すると発表。滴滴出行が6月に米上場を果たしてから6日後の出来事で、米市場関係者は衝撃を受けた。滴滴出行の時価総額は7月だけで180億ドル減った。

中国・滴滴出行の上場問題は米市場関係者に衝撃を与えた=ロイター
SECのゲンスラー委員長は8月、滴滴出行を巡る騒動を念頭に「中国政府はゲームの途中でルールを大幅に変更する可能性がある」と述べ、投資家に注意を促した。中国企業の上場承認手続きを一時的に止めていることも明かした。

米中の証券当局は監査問題を打開するため、断続的に協議を続けている。中国証券監督管理委員会(証監会)が8月20日開いた会議では、易会満主席が「米中間で監査と監督の協力関係を進める」と表明した。ただSECは米議会の対中強硬派から圧力を受けており、安易な妥協は難しい。

中国当局は自国資本市場の強化に動いている。新設する北京証取は上場審査のハードルを下げ、中小企業の資金調達の道を広げる。大手機関投資家とパイプを持つ米系証券には中国での事業拡大を促しており、中国企業が海外マネーを調達しやすくなる環境づくりも進めている。

世界の大手機関投資家は、世界2位の経済大国である中国を資金の振り向け先から外せない。運用資産総額で全米2位の公的年金、カリフォルニア州教職員退職年金基金(カルスターズ)は20年の株式保有上位10社に中国の二大ネット企業であるアリババと騰訊控股(テンセント)が入った。

中国は投資家保護の仕組みが欧米に比べて整っていない。米コンサルティング会社ユーラシアグループのクリフ・カプチャン会長は「中国共産党が統制を重視しており、(中国企業に対し)国内での資本調達を強制しようとする動きが出てくる。より多くの外国資本が規制の緩い環境に存在しなければならなくなる」と指摘する。

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