アフガンで地位固めたい中国

アフガンで地位固めたい中国 J・スタブリディス氏
元NATO欧州連合軍最高司令官
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD3156M0R30C21A8000000/

『英国とロシアは19世紀、アフガニスタンを巡り、「グレート・ゲーム」として知られる覇権争いを繰り広げた。地政学的な競争は、アフガンの戦略的な位置付けと、同国が現在のインドやパキスタンに影響を及ぼす可能性を意識していた。英国も旧ソ連もやがて、「帝国の墓場」と呼ばれるアフガンからの撤収を余儀なくされた。

現在、米国が訓練したアフガン政府軍のあっけない崩壊やイスラム主義組織タリバンの勝利、米側の撤収を受けアフガンは2001年に戻ったかのようだ。当時は、(女性の就労などの基本的人権を侵害するような)厳格なイスラム主義者が統治していた。何かが変わり、新たなグレート・ゲームが始まるのだろうか。

James Stavridis 元米海軍大将。2009~13年北大西洋条約機構(NATO)欧州連合軍最高司令官。カーライル・グループ所属。

新しいタリバンが自国民により優しくなることはないだろうが、自国を国際的なテロ活動の基地とすることを認めれば、約20年に及んだ荒野での生活が待つことを学んだと思われる。ジハード(聖戦)を世界に広めるより、アフガンの支配に集中する公算が大きい。

だが支配は容易ではない。北部には軍閥が残り、長期にわたりタリバンに恭順の意を示すことはないだろう。タジク人やハザラ人といった主要民族は、タリバンを(多数派の)パシュトゥン人の狂信者とみなして反発している。アフガンには外敵を追放した後、内部で抗争を繰り広げた歴史がある。

米国の撤収後、他国はアフガンでどのような役割を果たすのだろうか。地域の枠組みは、突然の出来事に衝撃を受けている。中国やパキスタン、インド、ロシア、イランはアフガンと利害関係があり、今後の展開を左右しそうだ。

中国が、タリバンの主要な国際パートナーになることを目指しているのは明らかだ。中国は、アフガンの基本的人権には関心がないだろう。半導体から電気自動車(EV)の電池までのサプライチェーン(供給網)確立のため、レアアース(希土類)などの資源について地位を固めたいようだ。

パキスタンはいままでも、タリバンを支援してきた。パキスタンを脅かす反政府勢力を抑制し、新たなアフガンにインドが足掛かりを築くのを防ぐためでもあった。インドとしてはアフガンとの関係を構築することで、パキスタンに圧力をかける狙いがある。中国と密接な関係にあるパキスタンは、連携して鉱物資源を開発し、インドがアフガンで役割を果たすのを阻止しようとするだろう。

ロシアは何よりも安定を望んでいるようにみえる。イスラム過激派のテロが北側に輸出される傾向に、歯止めをかけるためだ。イランはかつてタリバンと対立関係にあった。タリバンはイスラム教スンニ派で、イランはシーア派の国だ。ただ、イランはおおむね、米軍がアフガンの基地から追放されたことを歓迎している。

米国はアフガン撤収後も、衛星による監視活動や人的ネットワークなどによる情報収集を続けるとみられる。タリバンと国際テロ組織アルカイダなどの深いつながりを示す証拠がみつかれば、米国はグレート・ゲームに再び参加するかどうか、どのように参加するかを検討することになるだろう。北大西洋条約機構(NATO)などは、米国の周辺で活動することになりそうだ。

当面、アフガンの支配的な勢力を指導するのは近隣の国々、特に中国になるとみられる。グレート・ゲームは続くが、主な参加者は周辺国になると予想される。

関連英文はNikkei Asiaサイト(https://s.nikkei.com/38eGUQm)に

過剰な関与避けられるか

中国は順調に超大国への道を歩んでいるように見えるが、インペリアル・オーバーストレッチ(帝国的な過剰関与)と呼ばれる現象が落とし穴になりかねない。過去にも膨張を続ける大国が国外の事象に関わりすぎ、負担に耐えきれずに衰退してきた。中国も国内経済の成長鈍化を前に広域経済圏構想「一帯一路」を打ち出したが、もろ刃の剣だ。

外部に経済圏を拡大するほど外部の権益を守るコストも増大するからだ。中国はアフガンを一帯一路に組み込もうと多くの投資をしてきた。権益を守るためアフガンに軍隊まで派遣する事態は想定しにくいが、追加で多額の資金を求められる状況はあり得る。行き過ぎた関与を回避し、アフガンを勢力圏に取り込めるのか。中国にとってアフガンは一帯一路の試金石となる。(編集委員 村山宏)』