同盟強化か自主国防か 米軍アフガン撤収の教訓探る韓国

同盟強化か自主国防か 米軍アフガン撤収の教訓探る韓国
ソウル支局長 鈴木壮太郎
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM01AEO0R00C21A9000000/

『米国はどこまで頼りになるのか――。米軍のアフガニスタン撤収が北朝鮮と対峙する分断国家の韓国に古くて新しい命題を投げかけている。

■「米国なきアフガン」に韓国の姿重ねる

首都カブールの空港に押し寄せる人波、輸送機に飛び乗ろうとする人々、せめて子どもだけはと、米兵に赤ちゃんを託す親――。韓国メディアは連日、各国のアフガン脱出作戦を手厚く報じた。韓国政府が現地の大使館で勤務したアフガン人とその家族ら390人を韓国に移送する「ミラクル(奇跡)」作戦を成功させると、日ごろは政権を鋭く批判する保守系メディアも賛辞を送った。

故郷を追われたアフガンの人々にひときわ強い関心と同情を寄せるのは、朝鮮戦争当時の1950年12月、北朝鮮の咸鏡南道興南港で米軍が実施した「興南撤退作戦」と重なるからだ。

北方から進軍した中国軍に包囲され撤退を決断した米軍は、戦乱から逃れようと港に押し寄せた北朝鮮の人々も貨物船「メレディス・ビクトリー号」に乗せ、韓国南東部の巨済島に移送した。その数は実に1万4000人。砲撃や空爆、機雷による沈没の危険をかいくぐった同船は「一隻で最も多くの人々を救出した」世界記録としてギネスブックに掲載されている。

■米韓同盟強化訴える保守派

こんな歴史の記憶もあってか、韓国では「米国なきアフガン」と朝鮮半島情勢を重ね合わせて考える議論が活発だ。

「韓米自由主義同盟は実に大切で尊い。アフガン事態を見守りながら、韓米同盟の象徴であるマッカーサー将軍の銅像前にやってきました」。保守系野党「国民の力」の大統領候補である洪準杓(ホン・ジュンピョ)議員は8月18日、自身のフェイスブックに投稿した。

洪氏に代表される保守派の考え方を簡単に整理するとこうなる。米国は支援に見合う国益がなければ撤退も辞さない。ベトナム、アフガンがそうだった。安全保障の要である米韓同盟を強化し、米国にとって不可欠な存在であり続けなければならない――。

保守系大手紙の中央日報は8月17日付社説で「政府と軍はアフガン事態を他山の石とし、韓米同盟の強化と強い軍の維持に全力を尽くさなければならない」と提言した。朝鮮日報は18日付社説で、米国はアフガン撤収で「中国への対抗を最優先の国益に置いた」と指摘した上で「日米豪印4カ国の枠組みであるQuad(クアッド)など米国の戦略には協力せず、北朝鮮の脅威は防いでほしいという韓国の曖昧な立場は持続可能ではない」と文在寅(ムン・ジェイン)政権の外交姿勢を批判した。

「国民の力」の大統領候補は米軍の戦術核兵器の韓国再配備も主張する。洪氏は公約で「北朝鮮の核脅威は韓米間で核共有協定を結び能動的に対処する」とうたった。劉承?(ユ・スンミン)候補も出馬宣言文に「非核化のため北朝鮮とはいつでも対話するが、米韓の核共有で強力な抑止力を確保する」と明記した。在韓米軍の戦術核は盧泰愚(ノ・テウ)大統領(当時)の1991年の朝鮮半島非核化宣言後に撤去されたが、北朝鮮が核ミサイルを完成させたいま、在韓米軍の力を借りた抑止力が必要だとの主張だ。

■革新系は過度な米国依存を警戒

一方、与党「共に民主党」など革新系の考えは異なる。「韓米同盟の重要性に劣らず、自分の国は自ら守る自主国防の姿勢も必要だ。そのためには、戦時作戦統制権は一日でも早く返還されなければなりません」。民主党の宋永吉(ソン・ヨンギル)代表は自身のフェイスブックで訴えた。

韓国軍の統制権は平時は韓国側にあるが、ひとたび戦争が起きれば米軍が司令官である米韓連合軍司令部の統制下に入る。戦時の統制権も韓国軍に戻そうというのが、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権以来の革新系の主張だ。文氏も2017年の大統領選で戦時作戦統制権の任期中の韓国返還を公約に掲げている。

革新系のハンギョレ新聞も社説で「米国の要求をむやみに受け入れ、中国との軍事的緊張と対決を深めてはならない」と指摘。「安保を米国だけに頼ってはならないというのがアフガン事態が示した真の『教訓』だ。自主国防を強化しなければならず、戦時作戦権の返還もこれ以上先送りしてはならない」と総括した。

韓国は現地の大使館で勤務したアフガン人とその家族ら390人を韓国に移送する「ミラクル(奇跡)」作戦を成功させた(8月25日、韓国空軍提供)

■2つの対米トラウマ

同盟強化か自主国防か――。保革の主張は正反対にみえるが、根っこではつながっている。米韓同盟を重視しながらも、腹の底からは米国を信じられないでいることだ。韓国の対米トラウマは1905年の「桂・タフト協定」と、50年の「アチソンライン発言」にさかのぼる。

桂・タフト協定は当時の日本の桂太郎首相とタフト米陸軍長官が交わした覚書で、米国のフィリピン支配を日本が認め、日本の朝鮮半島支配を米国が認める内容だ。韓国はこれが日韓併合につながったとみる。

アチソンライン発言は50年1月、当時のアチソン米国務長官が演説で、日本とフィリピン、アリューシャン列島が米国の防衛線と説明し、台湾、朝鮮半島、インドシナを線外に置いた発言だ。民主党の宋代表は「韓国に戦争を仕掛けても米国は介入しないとソ連と北朝鮮に誤解させた」と指摘。朝鮮戦争を誘発したとみる。

同盟をコストと考えたトランプ前大統領は在韓米軍の縮小・撤退をちらつかせたが、同盟強化で中国けん制を狙うバイデン政権下では韓国の戦略的価値はむしろ高まっている。米国がアフガンのように韓国を見限る可能性はなさそうだが、それでも最悪の事態を想定した議論が熱を帯びるのは、大国に翻弄された苦い歴史を二度と繰り返すまいとの切実な思いがあるからなのだろう。

鈴木壮太郎(すずき・そうたろう)
1993年日本経済新聞社入社。産業記者として機械、自動車、鉄鋼、情報技術(IT)などの分野を担当。2005年から4年間、ソウルに駐在し韓国経済と産業界を取材した。国際アジア部次長を経て、2018年からソウル支局長。』