中国、「車人材」厚待遇で招く 日本人技術者が流出

中国、「車人材」厚待遇で招く 日本人技術者が流出
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『世界最大である中国の自動車市場に活躍の舞台を求める日本人技術者が増えている。中国の新興自動車メーカーなどが厚待遇で人材獲得を進め、7月にはトヨタ自動車の元チーフエンジニアも中国の国有自動車大手に移ったことが分かった。ホンダなど日本の大手が大規模な人員削減に踏み切るなか、技術者の流出がさらに膨らむ可能性もある。

「GAC(広州汽車集団)で世界をあっと驚かせる車を造っていきたい」。7月末、中国国有自動車大手の広州汽車が広東省広州市で開いた投資家向けのイベント。同社の研究所で独自ブランド車の企画や開発、品質管理まで全般を統括する首席技術総監に就任したばかりの勝又正人氏は、中国語での自己紹介も織り交ぜ抱負を語った。

勝又氏は1987年にトヨタに入社し、30年以上にわたって主に技術部門でキャリアを積んだ。多くの海外プロジェクトに関わり、主力セダン「カムリ」のチーフエンジニアとしてフルモデルチェンジの指揮を執った経験を持つ。トヨタでエース級だった技術者の中国大手企業への転身は、業界内で驚きを持って受け止められた。

広州汽車のほかにも中国では新興の電気自動車(EV)メーカーを中心に日本の人材獲得に積極的だ。2015年設立の小鵬汽車は19年2月、トヨタで40年近く品質管理に携わった宮下善次氏を「生産品質高級総監」として迎え入れた。

17年設立の宝能汽車集団も20年2月、日産自動車に在籍していたことのある大谷俊明氏ら複数の日本人技術者を幹部に採用した。

移籍する技術者にとって、待遇面と裁量の大きさが魅力となっている。中国企業の募集条件は年収が1000万円を超えるケースも珍しくない。マネジャークラスでは3000万円前後になることもある。入社後は多くの場合で専属の通訳や運転手が付き、中国語が話せなくても仕事や生活で不自由に感じる場面は少ないという。

日本で部下が数人だった技術者が中国では数十人のチームを任せられることもある。勝又氏は「若く、スピード感と活力にあふれた皆さんと一緒にやりたい。それが(広州汽車への)入社の決め手だった」と明かす。

中国の自動車各社は専門人材が不足している。中国政府はEVを基幹産業の一つと位置づけ、多額の販売補助金でメーカーの成長を支えてきた。

多くの新興メーカーが事業を急拡大させているが、生産面のノウハウが乏しい。市場拡大を見越し、技術陣の層を厚くしたいとの思惑がある。

広州汽車の曽慶洪董事長は「現役で活躍している海外人材を今後も積極的に採用していく」と公言する。中国企業に移る日本の技術者は、勤務経験が40年前後で退職を控えたベテランが多かったが、今後はより若い層に広がる可能性もある。

「ホンダの技術者を採りたい」。中国に駐在する日本の人材サービス大手の担当者は最近、中国の自動車メーカーから相談を受けた。ホンダが4月から募集した早期退職に2000人超が応募したことを受けてのことだ。日産も19年以降、世界で1万人超の人員削減に踏み切っている。電動化への対応を迫られた日本メーカーの構造改革は、中国勢にとって人材獲得の好機と映る。

およそ30年前の半導体産業を巡る状況に重なる部分がある。日本の半導体産業は1980年代に隆盛を極めたものの、90年代後半以降は多くの電機メーカーの半導体部門が多額の赤字を計上。技術者が大量に離職し、受け皿となった韓国のサムスン電子は貪欲に技術を取り込み、飛躍した。

自動車産業が同じ轍(てつ)を踏まないという保証はない。

(広州=川上尚志)

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