中国、貧富差の縮小に本腰 芸能界に一斉締め付け

中国、貧富差の縮小に本腰 芸能界に一斉締め付け
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM305WL0Q1A830C2000000/

『【広州=比奈田悠佑】中国当局が貧富の格差を縮める「共同富裕」への取り組みを強め始めた。8月下旬に著名女優の脱税を摘発したほか、ファンからの資金集めに関する業界規制を強化する方針を発表。富裕層の違法な所得や行動を許さないという党の公正さを国民に広く示すため、芸能人が標的になった可能性がある。

習近平(シー・ジンピン)指導部は貧富の格差縮小を強く打ち出している。

8月17日に開いた党中央財経委員会は「共同富裕(ともに豊かになる)」の実現のため、富の配分を強化するという方針を確認した。富裕層などに対し「過度に多い所得は適切に調整し、社会に還元することを奨励する」とし「違法な所得は断固取り締まる」と強調した。

上海市税務局は8月27日、女優の鄭爽氏がドラマ出演料などの収入を事実通りに申告せず脱税や納税漏れがあったとして、合計2億9900万元(約50億円)の追徴課税・罰金処分を科すと発表した。同局は「脱税の意図は明確で、納税の秩序を乱した」と強く非難、鄭氏はSNS(交流サイト)上で「社会に悪い影響を与えてしまった」と謝罪した。

鄭氏は恋愛ドラマ「一起来看流星雨」などドラマや映画で広く活躍する女優だ。放送業界を監督する国家広電総局は同日、税務局の決定を支持するとした上で、テレビ局などに対し鄭氏の出演作品の放映や今後の出演を禁じると通知した。さらに「芸能人の報酬の規範化を一段と進める」と示した。

同じ日、南部湖南省のテレビ局は男性司会者の銭楓氏との協力関係を断つと発表した。銭氏を巡っては、女性が銭氏に性的暴行を受けたとしてネット上で告発し、物議を醸していた。公安当局は「性的暴行の事実を証明することはできない」として立件を見送っていたが、テレビ局は「個人の問題が大きな悪影響を及ぼしており、組織規定に違反する」として銭氏の降板を決めた。

ほかにも女優、趙薇氏の名前が動画配信サービスなどで出演作品のキャスト一覧から削除されたり、作品そのものが消されたりした。中国メディアによると、趙氏は自身が出資していたエンターテインメントやメディア会社の株主からも相次ぎ退いた。同氏は親族を通じてアリババ集団の関連金融会社アント・グループの株式を持っていたともされ、アリババ創業者、馬雲氏との親密な関係が狙い撃ちされたとの指摘もある。

この日には党中央のネット安全情報化委員会弁公室が、未成年者などを相手に過剰な手段で資金を集める行為を取り締まる方針も打ち出した。国務院発展研究センター研究員の江宇氏は、行き過ぎたファンビジネスについて「ゆがんだ消費形態を生み、社会主義の核心的な価値観にそぐわない」と指摘する。

中国共産党系メディアの環球時報(電子版)は芸能人について「様々なプラットフォームが(芸能人の)影響力を拡大し、影響力を富に変えている」と指摘し「いかなるわがままや傲慢さを許してはならない」と断じる。

芸能人が集中的に取り上げられた背景には、「共同富裕」実現に向けた本気度をアピールする狙いがあるとみられる。今後もこの方針にそぐわない富裕層の振る舞いや発言は厳しく対応することになりそうだ。

【関連記事】

・中国、格差是正へ所得分配強化 市場・税制・寄付3層で
・習氏「独占禁止を強化」民間企業の締めつけ継続

この記事の英文をNikkei Asiaで読む
Nikkei Asia

多様な観点からニュースを考える
※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

蛯原健のアバター
蛯原健
リブライトパートナーズ 代表パートナー

コメントメニュー
ひとこと解説 習政権率いる中国は完全に歴史の曲がり角に入った。

それは端的に言って鄧小平の改革開放路線からの転向だろう。

約40年前の市場経済システムの導入と、20年前の2001年WTO加盟によるグローバル経済への本格参入、これにより中国は怒涛の経済躍進を遂げると同時に、世界主要国のどの国よりも格差に苦しむ国となった。

ただでさえ10億を超えダイバーシティも大きな国を束ねる苦悩に加えてウイグル、香港、台湾と地政学上の問題も抱えるなかでの米国との摩擦激化でこれでは持たないとの判断もあれば、この点は韓国にも共通するが過去のこの国のリーダーに共通する晩年の憂き目に鑑みた個人的な野心など、内外複合要因で至る道程だろう。

2021年9月2日 7:58 (2021年9月2日 10:29更新)
いいね
35

福井健策のアバター
福井健策
骨董通り法律事務所 代表パートナー/弁護士
コメントメニュー

別の視点 ふうむ。まず日本でいえば芸能従事者の所得は、多くの業種に比べてむしろ低さが問題視されています(芸団協調査など)。標的にされているのはごく上位の芸能人でしょうが、果たして名指しするほどか。むしろ、「IT・SNSの影響拡大と芸能人が結びついている」と見ての締め付けという、記事の読みが正しそうですね。

他方、不祥事で過去の出演作品が封印される事態は日本でも見られますが、あっさりそれが政府から命じられる中国の現実は強烈です。

作品は一芸能人のものではなく、それを愛するファン達や、多ければ数百人という他の関係者のものですね。他の国で「作家が脱税すると小説が発禁処分になるのか」と考えると、どうでしょうか。

2021年9月2日 8:41いいね
34 』