アメリカの「アフガン敗戦」から日本が学ぶべき教訓

アメリカの「アフガン敗戦」から日本が学ぶべき教訓
スカボロー礁事件でフィリピン防衛のコミットメントを反故に
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/66748

『(北村 淳:軍事社会学者)

 アメリカ政府が自ら主導して育成しようとしていたアフガニスタン政府ならびにアフガニスタン軍を捨て去って撤収逃亡したという状況を捉えて、中国が、台湾やフィリピンそれに日本などに対して、「アメリカの口車に乗っているととんでもないことになるぞ」と脅しをかけ始めた。

 もっとも日本においては、日本をはじめとする同盟国や台湾のような実質的同盟国に、アフガニスタンでの米軍撤退を当てはめるべきではないといった類いの論調が散見される。しかしそれはとんでもない誤りである。

 本コラムでもたびたび取り上げているように、バイデン大統領が副大統領であり、かつ現バイデン政権のアジア太平洋安全保障政策の司令塔を務めるキャンベル国家安全保障会議総合調整官兼大統領副補佐官(国家安全保障担当)が国務次官補(東アジア太平洋担当)であったオバマ政権時代に、アメリカ政府は同盟国フィリピンの苦境をあっさりと見捨ててしまった──2012年のスカボロー礁事件である。

 すなわち、アメリカ政府が米比相互防衛条約に基づき防衛のコミットメントをフィリピン政府に確約していたにもかかわらず、スカボロー礁周辺海域を中国に占拠されてしまうと、オバマ政権は実質的に無視してしまったのだ。それ以降、現在に至るまでスカボロー礁は中国の実効支配下にある(本コラム2021年2月11日、2021年3月11日など参照)。』

『「ちっぽけな島」を守る戦争に突入した英国

 スカボロー礁はちっぽけな環礁であるため、台湾などとはレベルが違う話との考え方もある。だが、日夜中国と対峙している米海軍関係者たちはそのような平和ボケ的思考を最も恐れている。

 なぜならば、スカボロー礁をはじめ南シナ海で中国が軍事拠点化を進めている多くの環礁一つひとつはちっぽけな土地であっても、それらを軍事拠点とした場合の周辺海域空域への影響力は極めて大きいものとなるからだ。

 そして何よりも、いくら面積は小さく狭小な島嶼環礁といえども、フィリピンなり、ベトナムなり、日本なり、主権国家にとっては領土には変わりはなく、台湾全土やアフガニスタン全土の主権を失うのと、「主権喪失」という国家の危機という重大事実という点においては何ら差異がないのである。

 アメリカ政府による「ちっぽけな島を巡っての戦争には賛同しかねる」との失言に対してイギリスのサッチャー首相が激怒し、「頼りにならないアメリカ」の直接的軍事協力に頼ることなくフォークランド戦争に突入したのも、このような理由によっているのだ。』
『いずれにせよ、スカボロー礁事件で同盟国フィリピンを見捨てたバイデン大統領が、今回は、以前より撤収は決まっていたとはいえ、アフガニスタン内部の軍事情勢分析を蔑(ないがし)ろにしたうえに誤った撤収作戦を発令したために、アメリカ軍史上最悪の醜態ともみなせる逃亡劇を展開するに至ったのである。

アフガン戦争最後の米軍戦死者たちを悼む戦闘靴のディスプレイ(写真:米海兵隊ハワイ基地)
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日本の手前勝手な思い込み

 米軍の最高指揮官としてのバイデン大統領は、「自国を防衛するために戦う意思のないアフガニスタン政府やアフガニスタン軍を守るためにアメリカ人の血を流す必要はない」と語って、無様なアフガニスタンからの逃亡劇を自己弁護している。

 この言葉は、日頃から日本の平和ボケ的状況を危惧する、日本周辺での作戦に関与している多くの米軍関係者たちの言葉と寸分違わない。彼らは常日頃、「たとえ同盟国といえども、自ら自国を防衛するための意思、すなわち“will to fight”を持たない連中のためにアメリカの若者の血を流すことをアメリカ国民は容認しない」と口にしている。』

『日本政府や多くの政治家は、微々たる国防費総額をもってして日本政府も国防に努力を傾注しているかのごとき妄言を吐いている。しかし、厳しさを増しつつある日本を取り巻く軍事環境から判断すると、5年間で少なくとも2倍以上に増額しなければ「国防費増額」とはとても言えない状況である。

 そして国防費を急増できない場合には、かつて武士階級が自らの階級利益を捨て去って国軍を構築したように、国防当局自身が防衛組織の抜本的改革に踏み切って、日本防衛にさして役立たない部署を飼い殺しにしている状況から脱却する、といった、名実ともに我が身を削っての国防努力が必要となる。

 しかしながら、こうした自助努力の意思がない日本政府や国会は、ただただアメリカの軍事力にすがり付き、ことあるごとに「日米同盟の強化」というスローガンを繰り返すのみである。おまけに日本にとって日米同盟が絶対的に不可欠であると信じ込むだけでなく、アメリカ側にとっても日米同盟がアメリカの死命を制する重要同盟関係であるかのように手前勝手に思い込んでしまっている。

 このような状況から即刻脱却しなければ、中国共産党政府が恫喝(あるいは忠告!?)し始めたように、尖閣諸島が中国に奪取される状況をバイデン大統領が完全に放置し、「たとえ同盟国といえども、わずかGDPの1%程度しか国防費に割り当てず、中国との対決の主役となる海洋戦力(海自戦力、各種航空戦力、ミサイル部隊などの陸自戦力など)の飛躍的強化も企てずに、アメリカに頼ろうとするばかりの日本のために、多くのアメリカの若者の血を流し、莫大な国費を投入する必要は毛頭ない」と演説することになりかねない。 』