みずほは本当に安泰か

みずほは本当に安泰か 預金集まる強固な構図
編集委員 前田昌孝
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD3156V0R30C21A8000000/

『みずほ銀行が今年5回目のシステムトラブルという大失態を演じても、みずほフィナンシャルグループの株価が堅調なのは、預金がメガバンクに集まる構造がそう簡単には崩れそうにないからだ。フィンテック企業のサービスは便利そうでも、顧客獲得に難航しており、メガバンクを脅かすほどでもない。ただ、メガバンク3行のなかでみずほの地位は相対的に低下傾向。危機感を持たなければ、将来は厳しいかもしれない。

6月中旬に12人余りまで減っていたイスラエルの新型コロナウイルスの新規感染者数(7日移動平均)が、再び8000人台まで増えてきたことは、コロナとの戦いに油断が許されないことの表れだ。ただ、日本では8月24日に新規感染者数(同)の前日比伸び率が峠を越え、8月28日に前日比の増加人数がピークアウトした。

まだ新規感染者数(同)が2万人台と多いため、とても安心できる状態ではないが、数値の変化からは感染急拡大の収束への第一歩が始まったとも読み取れる。8月31日の日経平均株価が前日比300円強上昇して2万8089円と、7月15日以来およそ1カ月半ぶりの高値を付けたのは、長いトンネルの向こうに光が差し込んだのと無関係ではない。

こんな回復相場なのに、メガバンク3行のなかで、みずほフィナンシャルグループだけは同2.5円安の1543円と軟調に推移した。とはいえ、年初来の株価上昇率は配当込みで20.7%と、三井住友フィナンシャルグループの22.0%と大差なく、配当込み東証株価指数(TOPIX)の9.9%を大幅に上回る。

いろいろあっても銀行口座には、給与振り込みや公共料金・クレジットカードの自動引き落としなどのサービスがのりで貼り付けられているため、既存顧客が雪崩を打って他行に移るようなことはない。株価の動きはこんな顧客の諦めを見透かしているようにも見える。

実はマイナス金利政策のなかで銀行が欲しがっているかどうかは別として、メガバンクには二重の意味で個人の預金が集まりやすくなっている。一つは政府がどう旗を振ろうが、個人マネーが「貯蓄から投資へ」と動くことはなく、国民がひたすら銀行預金を積み増していることだ。

個人金融資産のなかで株式や投資信託の比率が上下することがあっても、多くのケースでは「株価が上がったから比率上昇」「株価が下がったから比率低下」となっているだけだ。元本ベースでは筆者が証券記事を書いてきたこの37年間、個人とリスク商品との関係はほとんど変わっていない。

グラフは日銀が3カ月ごとに公表する資金循環統計をベースに、個人金融資産がどんな要因で増えてきたかを分析したものだ。リーマン・ショック前の2007年6月末から21年3月末までの動向を見ると、この間に増えた個人金融資産290兆円(1655兆円から1945兆円へ増加)のうち、87.6%に当たる254兆円は普通預金の増加が占めている。

一方で定期預金が36兆円減少しているから、銀行預金の増加分は差し引き218兆円ということになるが、とにかく個人は投資などにはたいしてお金を振り向けないのだ。コロナ禍に苦しめられた19年12月末から21年3月末までの1年3カ月間をみても、普通預金の増加は61兆円と、個人金融資産の増加分の56兆4000億円を5兆円近く上回っている。

もう一つは預金先としてメガバンクが選ばれていることだ。表のように、国内預金全体に占めるメガバンクなど都市銀行のシェアは過去10年間で4.9ポイント、過去20年間で9.4ポイント増加した。(第一)地方銀行も過去20年間で17.5%から21.3%へ3.8ポイント増加した。

メガバンクへの預金集中は、地方に住む親が死亡し、都会に住む息子や娘に預金が相続されているからだと説明されてきたが、データを見る限り、それだけではないようだ。同じ預金でも、メガバンクや地方の中核となる地方銀行に移している様子が顕著だ。

預金保険制度によって1金融機関当たり元本1000万円とその利息までは保証されることになっているが、リーマン・ショックなどを経て、何が起きるかわからないと考え始めた個人は、お金のことでいろいろと悩まされることがないような行動を、無意識のうちにとっているのかもしれない。

だからというわけではないが、フィンテック企業が提供するサービスにそれほど関心を示すわけではない。支払う段になってパスワードの入力を要求されるなど使い勝手が悪いスマートフォンのバーコード決済は、値引きなどの特典があるときを除いて大して使われているようには思えないし、PayPal(ペイパル)やpring(プリン)の個人間送金サービスも、活用しているのはごく一部だ。

ペイパルは米国で定評があるサービスだが、利用者が少ないためなのか、懇親会費の集金などに便利だった「マネープール」のサービスを9月30日にやめることになった。バーコード決済最大手のPayPay(ペイペイ)が10月から加盟店手数料を有料化するのも、これまでの拡大路線からの転換を意味している。

証券ベンチャーが顧客獲得に苦しみ、赤字から抜け出せないのは、8月11日公開の本欄「LINE証券空前の赤字 証券ベンチャー苦悩続く」で触れたばかりだが、記事でも取り上げたテーマ株投資のFOLIO(フォリオ)がSBIグループの傘下に入ることになった。ゴールドマン・サックスなどとともに70億円の出資をしていたLINEは、評価損計上を迫られた可能性がある。

とにかくお金に関することには、個人は保守的だ。みずほの度重なるシステムトラブルにはあきれるばかりだが、それでもみずほの看板は信用度の点で、フィンテック企業の手に届くようなものではない。構造変化があるとしても今後10年、20年とかかるのではないか。

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