[FT]タリバン内の過激派と通じる「ISホラサン州」

[FT]タリバン内の過激派と通じる「ISホラサン州」
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『バイデン米大統領は、2001年の米同時テロの首謀者ウサマ・ビンラディン容疑者をかくまった国からテロの脅威を取り除く仕事が終わったと強調し、混乱している米軍のアフガニスタン撤退を正当化した。そして8月26日、あるジハード(聖戦)主義組織がバイデン氏に恐ろしいメッセージを送った。

カブール市内で警備に当たるタリバン兵=ロイター

過激派組織「イスラム国」(IS)系の「イスラム国ホラサン州」(IS-K)が、首都カブールの空港周辺で起きた自爆テロで犯行声明を出した。少なくともアフガニスタン人100人、米兵13人、英国人2人、そして別の英国市民の子供1人が死亡したテロ攻撃は、情報機関から何度も警告が出ていた中で起きた。

米国の撤退で勢いづいているIS-Kは、15年に最初に活動を活発化させた。国際テロ組織アルカイダから分派し、その後そのライバル組織に育ったISがイラクとシリアにまたがる広範な地域を制圧し、「カリフ国家」の樹立を宣言した1年後のことだ。

アフガニスタンは長年、タリバンからアルカイダに至るまで、過激なイスラム主義運動の拠点になってきた。これらの組織への対応が米国とアフガンによる治安維持活動の焦点になってきたが、IS-Kはアルカイダのパキスタン支部元メンバーのほか、タリバンや同組織と関係がある武装集団「ハッカニ・ネットワーク」から離反した戦闘員によって形成された。

組織名のホラサンとは、パキスタン、アフガニスタン、中央アジア、イラン、インドとロシアの一部にまたがる地域を指す呼称で、IS-Kはこの地域を未来のカリフ国家と見なしている。

ハッカニ・ネットワークと接点

タリバンは独自のイスラム主義の目的を追求しており、アフガンの統治よりもグローバルなカリフ国家の樹立を望んでいるIS-Kとタリバン指導部は敵対関係にある。また、IS-Kはタリバンを米国と関係を持っていると批判してきた。

タリバンは、今回の米軍撤退につながった合意を実現するためにトランプ政権と交渉した際、アルカイダやその他の過激派組織が米国とその同盟国に攻撃を仕掛ける拠点としてアフガニスタンを使うことを阻止すると約束した。

タリバンにIS-Kと対峙する能力や意思があるかどうかは、この約束の履行で重大な試金石となり、タリバンが切望している国際的な認知を得られるかどうかを左右する決定的な要因になる。

だがアナリストらによると、タリバンは以前、過激派に対する作戦に乗り出したことがある一方で、IS-Kはタリバンの関連組織であるハッカニ・ネットワークとの結びつきが疑われている。タリバンにはしばしば対立し合う勢力が複数存在している。

昨年6月に発表された国連の報告書では、IS-Kが犯行声明を出したテロ攻撃の大半でハッカニ・ネットワークによる一定の「関与、援護、技術的支援の提供」の痕跡があるとする加盟国のコメントが引用されていた。タリバンは1週間前にアフガニスタンで権力を掌握して以来、ハッカニ・ネットワークをカブールの警備に当たらせている。

アフガン情勢を分析しているインド政府高官は、ハッカニ・ネットワークは「どんなイデオロギーとも無縁の組織的な犯罪集団」であるため、IS-Kとタリバンの双方と関係があることは意外ではないとし、「IS-Kの活発なメンバーは全員、以前ハッカニ・ネットワークに所属していた洗練された戦闘員だ」と話す。

資金と新兵獲得も

シンガポールのS・ラジャラトナム国際研究院のテロ専門家であるラファエロ・パントゥッチ氏は、IS-Kはタリバンの復権を利用して組織の知名度を高め、資金と新兵を呼び込む力を強めるかもしれないと考えている。

「結局のところ、テロリズムとは反エスタブリッシュメント(支配層)であり、タリバンは今やエスタブリッシュメントだ」と同氏は言う。「このため問題は、IS-Kが育ち、発展するのに絶好な環境が生まれる要素がすべてそろっていることで、それが恐らく今後起きるだろう」

昨年の国連報告書は、IS-Kがアフガニスタン国内の拠点である北東部ナンガルハル州で米軍とアフガン政府軍に敗北したため、同国内に戦闘員は2200人しかいないと推計していた。

だが、IS-Kはまだ重大な脅威で、今年5月にカブールで大きな被害が出たテロ攻撃を2件実行したとみられている。そのうち1件は、自動車爆弾と迫撃砲を使った学校襲撃事件で、女子生徒を中心に少なくとも80人の死者が出た。

また国連報告書は、IS-Kがタリバンと米政府が交わした合意につけ込み、自分たちが信頼の置ける唯一のジハード主義運動だとアピールする可能性もあると警鐘を鳴らした。「アフガン和平プロセスにおける(IS-K)台頭の主なリスクは、国内唯一の反抗的なテロ組織として自分たちを売り込む能力、ひいては新たな戦闘員と資金を呼び込める能力にあるかもしれない」と指摘した。

報告書によると、IS-Kは威嚇や暴力での脅し、そして決して実現したことがない高賃金の約束によって戦闘員を確保する一方で、強奪や課税、さらに「おそらく木材や鉱物資源の開発」によって資金を調達してきた。

現地に米国の要員不在

バイデン大統領は、米軍司令官らにIS-Kの「(人的)資源、指導部、施設」を攻撃する計画を立てるよう指示したと述べ、カブールでのテロ攻撃への報復を誓った。だが大統領にとって大きな課題は、現地に米国の要員がおらず、米国の情報活動が妨げられ、タリバンが権力を掌握した状況で、謎めいた組織を追跡することだ。

26日のテロ攻撃の数時間前に、米国と同盟国の情報機関からまとまった警告が出されていた。欧米諸国の政府高官にとっての懸念材料は、カブールの空港近くで攻撃を実行した銃撃犯と自爆テロ犯はタリバンの検問所を通過したに違いないことだ。

英国防省の対テロ部門をかつて率いたチップ・チャップマン退役少将は、これは予期せぬ事態ではなかったと指摘する。過激派組織に対処することを誓ったタリバンの合意にもかかわらず、「内部の人物がいかがわしい取引をする可能性は常に存在する」と話す。

米ニューヨークのシンクタンク、ソウファン・センターのテロ対策専門家であるコリン・クラーク氏は、「オーバー・ザ・ホライズン」と呼ばれる国外拠点からの軍事作戦は、米国は通信傍受などの形で現地に「耳」を持っているかもしれないが、米軍撤退後は「目」を持たないために、実行が複雑になると言う。

「アフガニスタンは週末の間に崩壊し、誰もそれを想定していなかった。情報活動で予想できなかったとすれば、IS-Kのような組織の復活を把握できるとは思えない」

By Andrew England, Helen Warrell and Amy Kazmin

(2021年8月27日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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