GAFAを作った「01年」 米同時テロ20年と人材吸引力

GAFAを作った「01年」 米同時テロ20年と人材吸引力
本社コメンテーター 中山淳史
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD25C040V20C21A8000000/

『米ニューヨークで起きた同時テロから9月11日で20年になる。

あの日は早朝の当番でマンハッタンにある日本経済新聞の米州総局にいた。「セスナ墜落か」のテロップがCNNテレビに流れたのは午前9時前。しばらくして飛び込んできたのが、2機目の旅客機が世界貿易センタービルに衝突する衝撃の映像だった。

事件から半年間は世界中の都市で航空便が乱れた。効率経営の象徴だった「ジャストインタイム方式」によるモノの流れも滞り、企業には「BCP(事業継続計画)」という言葉が一気に広まった。「挑まれた国家」。米紙ニューヨーク・タイムズに載った記事は今も記憶に鮮明だが、挑戦されたのは米国だけではなく、グローバル化した世界だった。

第一生命経済研究所の永浜利広首席エコノミストは「この20年の世界の変化は多くが同時テロ事件に起因する」と見る。景気浮揚を狙った米国の金融緩和は住宅ブームを経て2008年のリーマン・ショックへの流れを作った。

海外ではアフガニスタン、イラクへと戦線が広がり、今日のアフガン混乱を生んだ。米国の戦費増加は11年の米国債格下げの一因にもなった。

中国のWTO加盟も01年

01年は米国と対立を深める中国が世界貿易機関(WTO)に加盟した年でもあった。中国はこれを機に資本財への積極投資を進め、「世界の工場」と呼ばれるようになる。リーマン危機後の世界経済をけん引したのは中国だった。

この20年をチャンスに変えたのは米国の企業の中にもあった。特に目立ったのがIT(情報技術)大手のGAFAである。

4社が設立されたのは、アップルが1976年、アマゾン・ドット・コムが94年、グーグル(アルファベット子会社)が98年、フェイスブックが04年だ。だが、業績の指数関数的な伸びは00年代初めから半ばにかけて始まる。

決定づけたのは主に2つだ。高速大容量の通信技術の革新を背景にインターネット人口が増加したこと、同時テロでも止まることのなかったグローバル化が一段と進展したことだ。

アップルには中国のWTO加盟も飛躍する要因となった。同社は中国を中心にサプライチェーン(供給網)を世界に広げ、やはり01年に運用が始まった通信規格「3G」も駆って、「iPhone」を07年に生み出す。

iPhoneの供給網は部品の移動距離(延べ)が月と地球を7往復する長さに匹敵するという。中国はそうしたアップルの供給網の拡大と軌を一にして、資本財から消費財まであらゆるモノを自国で内製できる力をつけていく。

最大の消費地でもある中国での動きは、国境をまたぐモノの貿易量の伸びが経済成長率を下回る「スロートレード」の一因をつくった。新興国に輸出して稼ぐ日本などの先進国は大きな試練に直面した。

アップルなど3社、株式報酬を本格支給

GAFAが築いた分業体制、いわゆる「最適化された世界」はモノやカネを超えた領域にも及んだ。ヒトだ。不断の技術革新を実現するには、優秀な人材を世界中から引き寄せ、定着させる必要がある。その「吸引装置」の働きをしたのが、報酬制度だった。

GAFAが毎年、経営幹部だけでなく、従業員にも広く自社株を割り当てていることはあまり知られていない。現金の給与に上乗せする「株式報酬」だ。フェイスブックを除き、アップルなど3社が株式報酬を本格的に支給し始めた時期は、01年ごろだった。

米国ではアップルなど多くの企業が株式報酬を導入しているが日本の大企業ではまだ少ない

企業が1年間に発行済み株式の何%を従業員に与えたかを示す割合を「バーンレート」と呼ぶ。報酬コンサルタントのペイ・ガバナンスによれば、アップルの19年のそれは0.83%。その時点の株式時価総額が100兆円だったとして計算すると、8300億円相当の自社株が、社員に行き渡ったことになる。

投資運用会社、みさき投資の中神康議社長がペイ・ガバナンスの集計値をもとにアップルとソニーの1人当たりの株式報酬を比較している。アップルは8300億円のうち2%が経営幹部向け。98%の従業員向けも役職や成果によって金額は異なるようだが、あえて総額を均等に割って単純平均すると、19年の株式報酬は1人約600万円だ。

一方、その年のソニーのバーンレートは0.26%で、同様に計算すると、株式報酬は1人約6万円。制度の対象は経営幹部が中心とみられるが、アップルと同様に従業員数で割って平均した。

株式報酬は今では多くの米国企業が導入しているが、日本の大手企業の採用例はまだ少ない。導入していても経営幹部向けに限るストックオプション(新株予約権)などの場合が大半だ。

テック人材の約5割が外国人

この差は大きいかもしれない。アップルの場合、時価総額は現在約270兆円に達している。勤続が長い人ほど保有する株の価値も上がったほか、今後も毎年、新たな自社株が支給される。

米カリフォルニア州によれば、シリコンバレーを含む同州北部のハイテク地帯、ベイエリアで働く「テック人材」は約5割が外国人だという。GAFAから競うように広がった報酬制度の吸引効果は絶大だったと言えるだろう。

日本企業はGAFAを超える「最適化された世界」を構築し、大きな成長の波に乗れるのか。重い課題が突きつけられるばかりの20年でもあった。

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中山 淳史

自動車、電機など産業動向、経営トレンドに精通。編集委員、論説委員などを経て2017年2月より現職。「GEと東芝」「移動の未来」などで講演多数。2001年の米同時テロをニューヨーク駐在時に取材。アルゼンチン留学も。

GAFAを作った「01年」 米同時テロ20年と人材吸引力(10:00)
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